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ひめみこ  作者: 転々
第十章 変化の兆し
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写真

 中間試験は無事終わった。国語と社会で満点を逃したけど、総合では詩帆ちゃんをおさえて学年三位。別に手を抜く理由も無い。

 それでも、中学生で私より上が二人もいるのか。『私』は大学出ているんだけどなぁ……。

 社会なんかは手を抜いたわけじゃ無いけど、知識の更新が足りなかった。きちんと教科書を読み込めてなかったようだ。次回は頑張ろう。




 数学で七十五点以下は、間違った部分を直した上で、課題を提出。そのノートを一組の分、何故か私が持って行く。私は満点だったのに、釈然としない。


 藤井先生にノートを持って行ったところを、馬淵(まぶち)先生に呼ばれた。確か、教科は理科。一度だけ科学部を覗いたとき以外、私と接点は無いはずだけど……。


 学校生活に慣れたかとか、放課後の生活について雑談したあと、改めて私に科学部を勧められた。でも中学レベルじゃできることは限られてる。液体窒素で遊んだりがせいぜいか。テレビでやってたみたいに、液体窒素でアイスクリームを作ったり、そういうのだったら参加してもいいかな。

 活動が、週三ぐらいならアリかも、と思っていたら。


「前置きはこのぐらいにして。私、小畑さんのお父さんのこと、少し知ってるのよ。ある意味、私の人生を少し変えた人」


 え? 馬淵先生なんて知らないぞ。見た目、二十代後半から三十代前半ってとこか。『私』とは少なく見積もって五年から、下手すれば一回りぐらい違うかも知れない。確かに女性の年齢は、見かけだけじゃ判らないけど。


「あの、失礼ですが……、父と接点があった(とし)には見えないんですけど。上に見積もっても、せいぜい三十ぐらいでしょ? 父は、生きていれば四十近いはずですから……」


 一応、若めに言っておく。女性に対するマナーだ。


「そうね。普通なら接点が無い年齢差ね」


 馬淵先生はニコニコ笑いながら言う。うーん、思い出せない。どう考えても接点が無い。


「あ、昌ちゃん」


由美香(ゆみか)ちゃん」


 後ろから由美香ちゃんに呼ばれた。


「あ、馬淵先生。お話のとこ、すみません。杉本先生、どちらかご存じありませんか? 体育館の教官室にもいらっしゃらなかったんですけど、こちらじゃないですか?」


「あぁ、杉さんならあすこよ。もうちょっと待ってれば話しも終わるでしょ」


 指差した方向には、宮川先生となにやら話し込んでいるバスケ部顧問の姿。お礼を言う由美香ちゃんに、馬淵先生は「いぃえぇ」と応じると、悪戯っぽく笑いながら、机の引き出しから一枚の写真を取りだした。




「小畑さん。この人、誰だか判る?」


 見せられた写真には、制服姿の女子高生が六人と彼女たちに囲まれた私服の……。

 一瞬で記憶が繋がる。『私』黒歴史。


 あれは大学四年のとき。院試の前に教育実習のお礼をと高校に行ったら、帰りに実習をしたクラスの女生徒に捕獲され、学祭の余興で女装をさせられたのだ。

 始めはきゃぁきゃぁ言ってた女子生徒達だったが、化粧が進むにつれだんだん静かになっていった。ちょうどそこで私に声をかけて写真を取ったのが確か馬淵さん。十数年前の少女。


「へー。きれいな人。もしかして、昌ちゃんの親戚?」


 由美香ちゃんが写真と私を見比べる。


「うふふ。この人はね……」


「こっ、この人は、若い頃の伯母です! 父の姉です。親戚だから私と似てるんです! 私はお父さん似だから、伯母とも似てるんです!」


 慌てて馬淵先生の言葉を遮る。これ以上余計なことを言わないよう、目で訴える。何か言ったら『格』を全力以上で使うぞ!


「昌ちゃんの周囲(まわ)りって、美人が多いね」


「そ、そうかな?」


「そうだよ。やっぱ、血筋かなぁ。(つぶら)ちゃんもすっごくカワイイし、今度お父さんの写真見せてよ。絶対イケメンなんでしょ?」


「ま、まぁ、今度ね」


 意外と由美香ちゃんはメンクイだな。でも、期待を裏切りそう。『私』は、いわゆるイケメンじゃなかったし。見せられる写真と見せられないのを仕分けしとこう、と思いつつ、部活に向かう由美香ちゃんを見送った。

 とりあえず、今度の読み合わせで集まるまでにしとかないと。




「どうしてあんな写真見せるんですか!」


「ってことは、あの写真の『女性』が誰か分かるわけね」


 知ってますよ。本人なんだから。

 無言の私をいたずらっぽく見る目は半笑い。


「多分、私の『父』ですね」


「さっすが! ちゃんと判るんだ」


「もしかして、先生、無理矢理女装させたんですか?」


「無理矢理じゃないわよ。途中からはノリノリだったんだから」


 いや、ノリノリなんかじゃなかったぞ。ステージでもすごく恥ずかしかったし、最優秀女装賞のときは肩身が狭かったんだから! 全く……、勝手に話をつくって。


「……でもね。私、小畑さんのお父さんに、ちょっと憧れてたのよ。理系に進んだのもその影響。それを勉強したら、近づける気がしてね。

 で、気がついたらこの仕事、というわけ」


「へー。もしかして、初恋だったとか?」


「それは秘密。ご想像にお任せします」


 あ、頬を染めてクネクネしだした。三十過ぎてそれやるかな?


「じゃ、勝手にいろんなこと、想像しますよ。いいんですか?」


「いいですよぉ。ただし、どんな想像したか、ちゃんと教えてね。素敵な話だったら、即採用よ!」


 採用って……、何に採用するんだろ。そんなこと言われたら、変な想像できないじゃないか。あ、それが狙いか。


「で、初恋の相手に、女装させたわけですね」


「そこは、まぁ、ノリと言うか勢いと言うか」




 なんだか『私』の人生で遭う女性って、こういうのが多い。それとも、女性って本質的にこういうことが好きなのだろうか? いや、渚は違って……、でも今の私を着飾らせるときはかなり楽しそうだ。

 あ、あの写真、没収すれば良かったな。名誉毀損と肖像権の侵害だ。名誉の回復と損害の補償を求めないと。

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