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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
83/202

勉強会再び 三

「とりあえず、プレゼンのパワポ作ろうよ。うち、PCなら三台使えるし」


「マジ?」


 松田君が目を輝かせる。独り言じゃないみたいな言い方は初めてかも。


「ノートは据え置きと2in1、あと本当の据え置き」


「昌クンのPCはすごいですよ。あの部屋は男子の憧れです」


「ちょっと! ノートはこっちに持って来るけど、据え置きは私たちで使うつもりだよ」


「でも、デスクトップはネット使えないですよ。みんなで昌クンの部屋に行くですよ」


「まぁ、別にいいけどさ」




 男子は私の部屋を見て固まっていた。『女の子の部屋』とはかけ離れた部屋だ。多分、ハンガーの制服さえ片付ければ、十人が十人、男性の部屋だと思うだろう。


 一部屋で三台のPCが起動する。

 据え置きの前では、画面をまたいでマウスカーソルが動くことに、男子は大喜びだ。子どもだな。

 高田君が、『すべてのプログラム』を見て、何が入っているか調べている。しかし、ゲームの類はすべてEドライブだ。ショートカットは一つのフォルダにまとめてあるから、まず見つからない。

 一通り見たら諦めたのか、松田君と交代した。


「ふーん。XPでクラシックスタイルか……」


 松田君はおもむろに設定を確認し始めた。普通、他人のPCの設定覗くかな?


「すげぇ……」


 そりゃそうだろう。3DCAD用のPCだ。ハイエンド機には及ばないまでも、ゲーミングPCとしても使える。OSで管理できないメモリはRAMドライブにして、ページファイルや一時ファイルの行き先にするなど、かなり変則的な設定がしてあるのだ。

 ただし、サポート切れなのでネットワークは無効。ネット接続はVOYAGERで起動したときだけだ。ノートはMINTだけどデスクトップは見た目が格好いいからこっちなのだ。


「これ、お父さんの?」


「そう。設計に使ってたPC。

 でも設計データは外付けHDDに入れてたみたいで、入ってるのはライセンス切れのCADとかだよ」


「でも、小畑さんのお父さんって、几帳面な管理だね」


「そ、そうかな?」


「ドライブレターなんかあっちのノートと統一してあって、どっちでも同じ環境で使えるようにしてあるし、あえて古いOSをネットワーク切って使うあたり、玄人っぽい。しかもハイパースレッドはあえて無効にしてるし」


 松田君、『あえて』って言葉好きなのか?

 でも、その程度で玄人って、基準が甘いなぁ。世の中には魔改造したWin2000を現役で使っている人もいるんだぞ。




 ぼちぼちとパワポのデータを作り始めた。こういうのって、みんな派手にしたがるけど、ページに統一感を持たせるのがコツなんだよね。一番ダメなのが、画面の演出ばかり派手で、実際のプレゼンは画面の内容を朗読するだけというパターン。

 男子は地味な作り方に不満顔だが、パワポは手段であって、目的じゃないんだから。

 どう伝えるかも大事だけど、何を伝えるかがもっと大事なのだ。男子ときたら、手段を目的にしてしまうんだから……。

 データ作りのために、旧バージョンでテンプレートを作る。なんでもそうだけど、枠組みを作らずに詳細に行くと、後が大変だ。ついつい具体的な方に目が行きがちだけど。


 とりあえず、学校・組・班が入っている枠を見せる。


「ねぇねぇ、枠はこんな感じでどう?」


 訊くだけヤボだった。男子はノートでネットに夢中だ。変なリンク踏むなよ。と、松田君がぼそっと一言。


「へー、小畑さんもこのゲームするんだ」


 止める間もあればこそ、ゲームを起動する。数か月ぶりに起動したゲームはアカウント選択画面になっている。画面に表示されたアカウントは一つ、私のアバター『クリスタ』だけ。




「あ、このキャラ!」


 やっぱり知ってるのか? やってれば、当然とは言わないが、知っている可能性はある。

 ちょうど、アップデートに合わせて創ってもらったから、当時としては完成度が高いモデルで有名になったのだ。そして半月もしないうちにネカマ認定されたことでも……。


「あ、昌クンそっくりですぅ。自分をモデルにキャラ創るなんて、昌クンはナルちゃんですねぇ」


 紬ちゃんがニヤニヤ笑いながらこっちを見る。


「こ、これは、沙耶香さんが運営の人と知り合いで、私がヒマしてるもんだから無理矢理勧めてきただけで、私が創ったわけじゃなくて……」


「さすがにこれは素人が創れるレベルじゃないよ」


 そうだ、松田君、言ってくれ。


「このキャラは一時いろいろと有名でね。

 メジャーアップデートで、衣装やアクセサリにも物理演算が入ったんだけど、それを活かした作りのキャラが当日に現れたからね」


「物理演算って何だよ」


 新川君が訊くと、松田君が続けた。


「要するに、キャラの動きがリアルなんだよ。一番判りやすいのが、髪とかマントがぶわってなったりするあれ。

 その機能が入った当日にそれを使ったキャラが出れば、そりゃ目立つって。ただ立ってるだけで、明らかに違うし。

 それで、『クリスタ』ってキャラは、運営が創ったキャラだって話になったんだよ。レベル3でレア装備持ってたし」


「そう! 私はそういうこと全然知らずに、キャラデータとID渡されて、それでやってただけだよ」


 ネカマの話は言わないで! お願いだから!


「リアルに居そうで居ない、でもリアリティのある見た目だったから、一時はキャラ人気ランキングで四位までいってた。一,二,三が昔からのギルマスクラスだし、見た目と戦闘スタイルだけなら二位だったかな。とにかく華麗なスタイルなんだ」


「たしかに、これ、髪型以外は昌ちゃんにそっくりだよね。昌ちゃんも髪伸ばしたら? 絶対似合うよ」


 由美香ちゃんがしみじみと言う。


「髪を伸ばすのは、ちょっと……。それにこの長さって、十年ぐらいかからないかな?」


「でも『クリスタ』の中の人が、マジそっくりなんてすげーよ。絶対、運営だと思ってた」


「絶対言わないでよね!」


 この地域で白髪のJCという時点で、個人が特定できちゃうじゃないか。そうなったら、シャレにならない。

 格の出力二割。松田君はビクっとなる。全力の三割以下なら、格に指向性を持たせることも出来るのだ。




 いつの間にかお昼。結局、作業はほとんど済んでいない。

 さすがにこの人数の昼食をにわかには準備できない。みんなで国道添いのファミレスへ行く。ファミレスなんて、何時ぶりだろ?


 七人だけど、机を寄せることで一テーブルにしてもらう。四対三で向かい合うと、変速的な合コンのようだ。男子はそろって、がっつり肉と揚げ物、セットのライスはもちろん大盛り。


 由美香ちゃんはドリアとグラタンが半々になったもの、詩帆ちゃんはキノコ雑炊、紬ちゃんは散々迷ったあげくにサラダうどん。私は普通に和風ハンバーグとご飯・味噌汁のセットだ。


 どうせ男子は足りなくなるだろうから、ついでにピザとポテトも頼んでおく。私は大人なのでこの程度の出費は痛くないのです。対外的には『お祖母ちゃん』から軍資金をもらったことにしてるけど。




 午後もプレゼン資料の続き。と言っても、原稿を考えるのは私達だし、作業自体も私や詩帆ちゃんがやった方が早い。けど、全員が関わらなきゃいけないから、私達が草案を作り、例によって男子が丸呑み。こいつら退屈すると、すぐに気を散らしてしまう。

 結局、その日は読み合わせどころか、台本作りまでいけなかった。六月上旬の発表には余裕があるけど……、言わないと進まないんだろうな。

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