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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
82/202

勉強会再び 二

 どうして、こんなに早く来てるんだろう!


 当然、男子の視線は私に集中する。追跡は中止。着替えを最優先だ! 私は脱衣所に慌てて戻る――つもりだった。


 しかし、急制動をかけた足の裏は濡れており、床との動摩擦係数はきわめて低い。上半身は停まるつもりで体重移動をしているが、下半身が付いてきていない。――否、付いてきていないのが上半身か。

 当然、私は体勢を大きく崩し、盛大に尻餅をついた。加えて、慣性によって床の上を一メートル余り進む。同じ班の男子の方に!


 お尻の痛みに涙がにじむ。しかし我に返った瞬間、視線を感じる。三人の視線が私に集中する。何処にとは言わないけど。

 慌ててTシャツの裾を引っ張って下着を隠し、膝を閉じる。

 無様に尻餅をついた姿のまま――一応は膝を閉じ、右手で裾を抑え――後ずさりする。立ち上がろうとして滑って膝を着く。

 最後は四つん這いのまま逃げるように脱衣所に戻った。




「……」


 シャツも下着もじっとり湿っている。濡れた服を洗濯かごに入れて身体を拭く。改めて下着を身につけたところで、濡れた下着を見る。


「透けてなかった、かな……」


 ショーツを確認。やっぱり濡れているが、クロッチの部分は厚みがあるから透けることは無いだろう。でもそれは光学的な意味に限られる。滑ったときに後ろに引っ張られているから、その結果は容易に想像できる。

 Tシャツを見る。この濡れ具合から言って、上のぽっちりも透けてたのは確実だ。


 ……上も下も! 羞恥にしゃがみ込んで頭を抱える。


 いやいや、私は男、私はおっさん。上は見られたって平気、下だってお尻、じゃなくて、ケツの延長を見られただけ。何を恥ずかしがる……、って、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしい!

 しかも最後は四つん這いを後ろから。グラビアなんかより遙かに扇情的な姿じゃないか。今すぐあの三人の脳のその記憶の部分を、レーザーかなんかで焼き切ってしまいたい。くっそー。いきなりラッキースケベなんて、三人揃ってラブコメ体質か!


 気を落ち着けるために深呼吸する。いつもの五分丈のパンツを着ける。ノースリーブ、……に伸ばした手を止め、襟元がしっかり閉じるクレリックカラーのポロシャツを選んだ。パンツとは合わないけど。




 脱衣所から出ると、三人は律儀に立って待っていた。


「お、お早う」


 とりあえず挨拶すると、三人も口々に返すがそれ以上は無言。


「と、とりあえず、リビングに……」


 三人も無言でぞろぞろ付いてくる。




 三対一で向かい合わせにソファに座るが無言。……気まずい。




「さ、先ほどは、お見苦しいところをお見せしました」


「とんでもない! こちらこそ結構なものを、へぶっ!」


 ものすごい音とともに、言葉を途中で止められた新川君がつんのめる。後頭部に高田君の突っ込みが入っている。「莫迦、そこはスルーだろ!」という小声も。


 そのノリツッコミに心の中でクスリと笑う。脳震盪、起こしてないかな? そう思いながら「ふぅ」とため息を一つ。


「いいですか? みなさん、何も見なかった。他言無用。思い出すのも禁止! いい?」


 三人を順番に見る。


「約束だからね!」


「約束……」


「破ったら……」


「破ったら?」


「罰を与えます。想像するだけで下っ腹がキュン、ってなって、後ずさりするようなね。

 信じてるからね! オネェ系になるつもりは無いでしょ?」


 ほんの少しだけ『格』を乗せて言うと、三人は揃って座り直した。キュンときたみたいだ。

 本当は信じてないけど、これだけ言っておけば漏れることは無いだろう。思い出をオカズにしようとしたときも、キュンとなってくれれば尚よし。




「あと、女性の家に行くときは、少し遅れていくこと! いろいろあるんだから」


「でも、待ち合わせは遅れないようにって……」


「外は待たせないのが基本!

 でも、相手の家とかは、少し遅れていくもんなの! 将来、彼女が出来たときにも気をつけること! ここ、テストに出ますよ!」


 今までは私自身、何の気無しに時間通りに迎えに行ってたりしたけど、遅れていくことの重要性を、身をもって学んでしまった。今更だ。




「昌、周ちゃんが裸で走ってきたけど」


 母がバスタオルをローブのようにかぶった周を連れてきた。


「お祖母ちゃん。悪いけど、周に洋服着せてあげて」


「あら、お友達? しかも男の子ばっかり。やるわね」


「同じ班のメンバーでレポートのまとめだよ。

 いいから、周を連れてって」


 母は、私に背を押されながらも「どの子が本命?」とか言う。本命も対抗もありませんって。そもそも付き合う気も無いし。




 十時を少し回ったところで、由美香ちゃん達が来た。今回は三人揃ってだ。


「あれ? 男子は全員来てるですか?」


 紬ちゃんは怪訝そうな顔。


「そうなんだよ。しかも全員時間前だよ。それで今、厳重注意してたとこ。

 みんな、分かってるよね! 約束なんだから!」


 私が三人をジロッと睨むと、揃って座り直した。よろしい。


「昌クンって、意外と尻に敷くタイプですね」


「そ、そうかな?」




 レポートのまとめは順調に進む。といっても、女子だけでまとめたのを男子が丸呑みするだけだ。困るのは、周と円が構って欲しくてやってくること。この子達は人懐こいのか、お客さんが来ると大喜びで玄関に走って行く。さっきはその所為で……。いや、あれは無かったことになってる。


「妹さん、よく似てますね」


 松田君がボソッと言う。いつもながら、私に言ってるのか、独り言なのか、よく分からない。でも、独り言じゃなかったら、返さないと落ち込みそうだ。


「うん。よく言われる。どっちも『お父さん』似だって」


「そうそう。

 でもね、昌は見た目も似てるけど、内面の方がお父さん似よ」


「母さ、じゃなくてお祖母ちゃん! 何しに来たの!」


「何しに、って、お茶とお菓子を持ってきたのよ」


 そう言うと、カップを置いた。


「ほら、昌も運ぶの手伝って」


 私も母とともに、ケーキの入った箱とポットを取りに行く。やれやれ、男の子が来るとなると張り切るんだから。思えば『前世』でも女の子が来たときは張り切ってたな。


 例によって『歓談』の時間。今度は母が学校での私の様子を聞き出そうとする。しかも男子から。前回の渚といい、何で公開羞恥プレイを強要するんだろう。普通、『お祖母ちゃん』はこういう場に来ないもんだと思うのだけど……。

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