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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
81/202

勉強会再び 一

「昌ちゃん。金沢で美味しい和食って知らない?」


 急な電話は沙耶香さんだった。


「金沢は詳しくないですけど、あの辺だったら、そこそこの値段の店選べば大抵美味しいですよ。あ、でも市内でなくても良ければ、心当たりがあります。沙耶香さんも知ってるかも、ですけど……。

 今すぐは分からないので、調べて折り返しますね」




 出張先の部長と行った店、どこだっけな。私の中では和食ナンバーワン。また行こうと思って、マッチをもらってきてたはず。

 書斎をあちこちあさる。どこやったかなぁ? 温泉地にあった料亭だったけど……。


 あった! 観光の本にセロテープで留めてあった!




「沙耶香さん! 金沢からちょっと離れた懐石ですけど、最高ですよ。ここで夕食なら泊まりはビジネスホテルでもいいぐらいです」


「へぇ、ちょっと検索してみるわね……。

 ふーん、お任せでこの値段か。まぁ妥当な線ね」


「美味しかったですよ」


「じゃ、ここにしましょうか。光紀ちゃんも昌ちゃん推薦の店なら納得でしょうし。

 でも、ここで夕食だと泊まりがね……、温泉ってわけに行かなくなるし。ここって市街地から結構離れてるわよね」


「確か車で二、三十分ぐらいだったと思います。金沢までだと更に小一時間ってとこでしょうか。

 じゃ、お昼をここにして観光しつつ夜は金沢、なんてのはどうですか?」


「昼からコレってちょっと重いわね。それにせっかくの料理にお酒がないんじゃねぇ」


「私も我慢するんだからイイでしょ」


「一応、全員で乾杯はするわよ。ただ、昼間っからだとその後の観光がね……」


「あの……、ここは車でないと難しいと思うんですけど、運転はどうするんですか?」


「ガードにさせるから大丈夫」


「ガードって、沙耶香さんにもKとかスミスが?」


「そうよ。でも随分古い映画で喩えるわね」


「古いですか?」


「前世紀の映画でしょ? 貴女は公称十四歳、戸籍は十七だけど、どっちにしても二十一世紀の生まれですからね」


「そ、そうですね」


「ちなみに現役の比売神子には全員、ガードが張り付いているわよ。ついでに言うと、貴女にも。

 貴女の場合は比売神子になるのが確実視されてるのもあるけど、事情が事情だから、ね。

 プライバシーは侵さないようにはしてるから、その辺はご了承下さいね」


「了承も何も、今の今まで知りませんでした。それに嫌って言っても、気づかれないように続けるんでしょ」


「まぁ、そうなるわね」


「だったら、訊くまでも無いじゃないですか。

 あ、それで『追跡』!」


「そういうこともあったわね。

 貴女、ものすごい運転するから、途中で追跡メンバーをチェンジしたのよ」


「あー、その節は申し訳ないです。

 でも、ちょっと上手い人なら付いてこれなくありませんよ。対向車線には出てないし、安全マージンも十分取ってたつもりですけど」


「ついてくだけならね。でも、気取られないように付かず離れずは無理だったそうよ。

 ガードのうち、比売神子に関することを知ってるのはチーフ一人だけだから、残りの追跡メンバー、泡食ってたわよ。貴女の外見からじゃ考えられない運転だったから」


 私に張り付いているのが何人かは教えてもらえなかったが、指揮者を除いて全員、私が見かけ通りの年齢じゃないことを知らないらしい。女子中学生がタイヤ鳴らして峠道を走るなんて、普通はあり得ないか。


 要人警護の訓練を受けてるってことは、公安関係者? 比売神子の存在は大っぴらに出来ないから、民間の警備会社なんか使えないだろうし。いや、そもそも民間の要人警護派遣なんて日本にあるのかな?

 ってことは、私はその人達が見ているところで、無免許運転に加えて、一発で免停になるようなことをしたわけだ……。これはシャレにならない。


「報告では相当な走り方だってことだけど、練習でもしてたの?」


「以前、ジムカの練習もしたことがあります。でもサーキットは未経験ですし、そもそもライセンスも持ってません」


「あらホント? 気晴らしに運転できる機会をつくってあげたいわね。私としてもどんなウデなのか見たいから」


「ホントに? 楽しみです!」


「ま、期待しててね」




 久々にかけてきたと思ったら、送別会の店探しだった。確かに沙耶香さんはイタリアンとかフレンチには詳しいけど、これまでも和食はあんまり行ってなかった。比売神子の合宿を除けば、『路上教習』のときだけかも。

 他の神子達も実年齢はともかく、人生はおそらく十代までしか経験していない。和食に疎いのも仕方ないだろう。と言うより、この外見の私が和食好きって方が変か。




 階下で派手に何かが落ちる音がした。慌てて走るとキッチンは水浸し。横にはバツの悪そうな顔の周。どうやら昆布を水で戻している鍋を落としたらしい。幸い鍋は火にかける前だったが。


「周っ! 台所、入っちゃいけないって、言ってるでしょっ! 本当に危ないんだよっ!」


 全く、昆布出汁でびしょびしょだ。シャワーと着替えをさせなきゃいけない。床を雑巾で拭く。もう一時間もしないうちに同じ班の子達が来るのにっ。




 周を脱衣所に連れて行き服を脱がせる。めんどくさいので自分も脱ぐ。どうせみんなが来る前に着替えなきゃいけないし。あー、あと三十分ぐらいだ。慌てなきゃ!




 周にシャンプーをする。周が自分で洗っている間に、私も身体を軽く洗う。洗顔の代わりに全身を洗うことになった。今度は周のシャンプーを流し、全身を洗う。


 脱衣所に出て時計を見る。約束の時間まで十五分近く残っている。なんとか間に合いそうだ。


「周くん。自分で拭けるかな?」


 タオルを渡すと、満面の笑みで「できるよ!」 私も髪をタオルで拭き、身体をもう一枚のタオルで拭き始めた。


「あ、」


 周がなぜか脱衣所を裸のまま飛び出した。

 私は慌ててショーツを身につけ、ゆったり目のTシャツをかぶる。マキシ丈ではないが、太腿の半分ぐらいは隠れる。拭き切れていない背中にシャツが張り付くが、構わずに裾を引っ張り追いかける。


「くぉらっ! 周っ、待ちなさい!」


 脱衣所をでて五歩、玄関に人影が三人。同じ班の、よりにもよって、男子!


 どうして、こんなに早く来てるんだろう!

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