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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
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テンプレ的な

「よっ、ねぇねぇ、君、一人?」


 振り向くと、大学生ぐらいだろうか? いかにもチャラい感じの男がチャラいことをアピールしてくる。

 コレってナンパなんだろうな。


 こういう場合、英語で撃退というのがテンプレだったはず。


『何かご用ですか? 出来れば私の母国語で話していただきたいのですが』


『え? どっちの国から? でも君、さっきは独り言、日本語でしてたよね』


 くっ、英語で返して来た。テンプレ役立たずだ。私が読んだ範囲のTSものでは、鉄板の撃退法なのに……。

 その後、相手が英語で来たら日本語で、日本語で来たら英語で返してるのに、きっちりこっちの言語に合わせてくる。チャラ男のくせに生意気だ。完全に拒否の姿勢に入ってるのに、この野郎は空気を読まない。


『どっちもいけるなんて、『舌使い』上手いんだね(意訳)』


 思わず顔が赤くなる。怒り七に羞恥三ぐらいだが、目の前のチャラ男は私の反応をニヤニヤしながら見ている。

 いや、教科書通りに訳したら穏当な表現なんだろう。けど、あの『してやったり』なニヤけ顔は下品なことを考えてるに違いない。そもそも、大学生ぐらいだろうに、中学生をナンパなんてロクな男じゃない。




 格で威圧してやろうか? そう思ったときだった。


「その辺にしとかないかい? この子も困ってるようだし」


「なんだよ、おっさん。関係ないだろ」


「一応、この子の保護者のつもりなんだが」


 篤志か? でも、何でこんなとこにいるんだ? 振り向くと、知らない男だ。目が合うと、ウインクする。野郎のウインクなんてキモいだけだ。


 ちょっと待て。これって『前門の狼、後門の虎』(正しくは虎と狼は逆です)ってやつ? いくらテンプレ展開がご無沙汰だったとは言え、コレはちょっとね。

 それにしても、二人に挟まれてるのは、中身がアラフォーのおっさんなんだけど、知らぬが仏だ。


 いずれにしても、二正面作戦は(まず)い。とりあえず、前門の狼さんには早々に退場願うためにも、虎の威を借りておこう。




 二言三言後、チャラ男は仕方なく去った。


「ありがとうございます」


 一応の礼儀は尽くす。その後どうするかは分からないけど。

 改めて見ると、まぁイケメンの部類には入るんだろう。育ちの良さそうな顔に、ちょっと鍛えた身体だ。


「なに、大したことじゃない。アキラさん」


「あの、失礼ですが、どこかでお会いしたでしょうか」


 お通夜でかな? でも仕事関係でも見覚えが無い顔だ。


「あー、やっぱり憶えてないか。

 経営者向きじゃなさそうな、器用貧乏だよ」


「あ!」


 思い出した、工場見学したときの、社長の息子だ。私の失礼な評価まで聞かれてたんだ。

 顔の表面が熱くなる。


「そ、その節は、大変、失礼しました」


「ということは、本当にそう評したんだね。

 姉から面白い子がいると聞いて途中から混ざったけど、可愛い姿と可愛い歌しか見せてくれなかったから。本当にそんなこと言ったのか、気になっててね」


 どうやら、最初の説明の場でヒソヒソ話してたのを聞かれていたのだが、聞いていたのはよりにもよってこの兄ちゃんの姉だった。

 本人は本人で、そんな辛口評を家族以外の女性からされたのは初めてで、そこから興味を持ったらしい。って、M心(マゾっ気)があるのだろうか?


「どうかな? 私と食事でも」


「お誘いはありがたいのですが、今日は母と昼食なので。ここにも母と来てるんです」


「そうか、残念。じゃ、また次の機会に」


「そうですね。機会があったら是非」


 無いけどね。ま、社交辞令だ。




「今の、誰かしら?」


 悪戯っぽい笑顔で訊いてきた。


「こないだ、社会見学に行った工場の人。こっちは憶えてなかったんだけど、向こうはしっかり憶えてたみたいでさ。

 ……この髪は目立つから」


「ナンパかと思ったから、ちょっと妬けちゃった」


 そうか、妬けるのか。


 レジで待ちながらぼんやりと考える。奥から店員がボール箱を運んできてカートに乗せた。二人合わせればなかなかの高額お買い上げなので、レジ係はホクホク顔だ。

 車まで店員さんに運んでもらい、私たちは乗り込んだ。




「あの店員、あなたの脚ばっかり見てたわよ」


 車を出すと渚が憤り混じりの口調で言う。


「まぁ、仕方ないよ。男の子だもん。私だって、結婚前は君と会うたびに、そのぷりちぃなアンヨに視線が誘導されてたし」


「プリティじゃなくて?」


「うん。ぷりちぃ。しかも平仮名で」


「あなた、今の姿になってからの方が、シモネタに遠慮が無くなった気がするんだけど」


「言われてみれば、そうかもね。男女の間柄だったときは、やっぱり格好もつけてたし、それなりに言葉も選んでたけど、今はこの身体だし。渚だって、女性だけのときと男性が混じったときじゃ、言葉や話題が違うでしょ?」


「まぁ、そうだけど。

 話を戻すけど、あなた、脚ぐらい見られても減るもんじゃないって思ってるでしょ。でも、減るの! 少なくとも、女の子はそういう心構えでいなきゃいけないのよ」


「の割に、こういう格好させるよね。それに、買ってくる服は脚が思いっきり出るし」


「そういう心構えを持った上で、脚を出して欲しいの。

 私はあなたのことが心配で仕方ないのよ……」




 ホテルのレストランは、どう見てもドレスコードはなさそうに見える。こんな服着なくても、いつもの五分丈パンツで良かったんじゃないかな。ヒールが無くても女物の靴はキツいし。

 食べていると、渚がさっきのことを蒸し返してきた。


「あなたが、ナンパされるとはねぇ」


「驚くことじゃないでしょ。『前世』でさえされたことあるんだからさ。

 それに、あれは困ってる私を助けてくれただけで、ナンパじゃないでしょ。第一、見た目は一回りほど離れてるし。社会人が中学生になんて、ロリコンでしょ」


「確かにあなたは童顔だけど、十分恋愛の対象になるんじゃない? 中学生のアイドルだっているし、見た目だったらまず負けないし」


「それって、母親が娘に言うことじゃぁ無いと思いますけど。実際のとこ、法に触れかねませんから」


「中身は十分大人でしょ。逆の意味で一回りぐらい離れてるんだから。見た目と中身を足して二で割れば、お似合いの年齢よ。

 助けられたお姫様がナイトと恋に落ちるなんて、定番中の定番よね?」


 何でまた色恋に繋げるかなぁ。

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