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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
76/202

お宅拝見 二

「こっちはクローゼットですね」


「私の服はあまり無いよ。お継母さんの冬物がほとんど」


「あ、これは先週の服ですね」


「どんなの?」


 ちょっと及び腰だった由美香ちゃんも、服には興味あるようだ。


「これは、チャレンジャーだねぇ」


 詩帆ちゃんは正直だ。うん。私もそう思う。自分じゃ絶対に選ばない。


「じっ、自分で選んだんじゃないよっ! 柔術サークルの人が選んでくれたって言うか、買ってくれたから、さすがに着ないのはまずいかなって……」


「確かに、これを着るのは勇気が要るよねぇ。こんな服似合う人、ちょっといないよね」


「と、思うですね? ところが、昌クンがこれ着るとすごいんですよ!」


 うーん。いやな予感。一歩後退すると、いつの間にか詩帆ちゃんが私の背後に回り込んでいた。振り向くとにっこり笑った。


「着て見せて」


「え? やだよぉ」


「見せるですよ。せっかく似合うですから」


「私も、ちょっと見てみたいかな」


 由美香ちゃんまでそんなことを……。女の子は着飾ることについては基準が違うっぽい。




「……分かりました。着替えるので、閉めますね」


 私はクローゼットの扉を閉めて深呼吸――ため息とも言う。スカートとノースリーブを着ける。裾自体は膝下まであるけど、前後のスリットが深いから、油断すると太腿の半ばまで見えるんだよね。座るときのことを考慮したとは思えないデザインだ。当たり前だが、座ると自重で左右に開くのだ。

 更にマントとも袖無しのジャケットともつかない上着を羽織る。後方からの視線は遮られるが、前までは隠せない。襟の意匠は抑え気味とは言え、普通に着る服じゃぁない。


「お待たせしました」


 扉を開けると、由美香ちゃんと詩帆ちゃんは揃って唖然とした表情だ。紬ちゃんは満面の笑みで「ほら、似合ってるですよ」と胸を張る。


「本当に、似合ってる」


「……だよね。この服が自然に見えるって、ある意味すごいよね。コスプレ感が無いもん。これ見た後だと、制服の方がコスプレに見えちゃいそうだよ。

 ねぇ、写真撮ってイイ?」


「駄目駄目駄目、絶対に駄目!」


「じゃぁさ、それ着て一緒に買い物行こうよ」


「そそそそ、それも、駄目!

この服、脚が丸見えになっちゃうんだよ! 油断したらパンツまで見えちゃうんだよ! 駅でも電車でも大変だったんだから!」


「座らない限りパンツは見えないと思うよ」


「だったら、詩帆ちゃんが代わりに着てよ」


「それはムリ。胸が入らない。多分、紬ちゃんでもきついかな。

 由美香ちゃんでギリギリってとこか」


「私も無理ね。まず、アンダーも違うし」


 ずーん。悲しい現実を突き付けられました。


「でも惜しいです。こんなに似合うなら、紬だったら着て出歩くですよ。

 スリットが心配なら、開きにくいように手を加えるですか?」


「それもいいよ。多分、これで出歩くことは無いから。

 それに、紬ちゃんだって、メイド服着て出歩かないでしょ?」


「出歩かないですよ。昌クンほど似合わないですから」


 似合うとか似合わないとかの問題じゃないんだけどな。


 私の部屋探索も終え、勉強会は終了。


「昌ちゃんの家なら広いし、レポート発表の打ち合わせとかも出来そうだね」


「いいよ。連休中は別に遊びに行く予定も立ててないし、弟や妹がいたら、なかなかそうも行かないし」


「この部屋、ある意味男子のあこがれの部屋だよね。

 大画面二つのPCにプレステ、ホームシアター。昌ちゃんのお母さんって、お父さんの趣味に理解があったんだよ」


 詩帆ちゃんが腕組みをしたまま言う。多分、詩帆ちゃんちの両親は趣味を巡っての鞘当てがあったのだろう。

 実際のところ、ウチでもこの部屋が二人の寝室になったときにホームシアターは一旦片付けられて、寝室を一階に移してから復活させたのだ。リアスピーカのケーブルがとにかく邪魔だったようだ。


 私がその立場になったら、ちゃんと認めよう。って、私がその立場に立つと言うことは……。


「どうしたの? 急に顔を赤くしてもじもじして。家族を褒められて照れてるの?」


「照れる昌クンカワイイです」


「べ、別にそういう訳じゃ…」




 階下から渚の声。あれ? もう帰ってきたのかな。

 降りて見ると両手に荷物、どうやら、子どもを実家にあずけて、買い物をしてきたらしい。




「こんにちは」


「お邪魔してます」


 渚は初顔合わせだから挨拶を交わし、私の学校での様子を訊く。なんだか居づらい。『女子』としての私の様子を『私』の妻が訊く。コレってなんて罰ゲーム? いたたまれない気持ちになる。

 こういうのを『針のムシロ』って言うのかな。




 その日の夕食後、渚がにこにこしている。


「どうしたの?」


「どの子が本命? あの、背の高い子かしら?」


「つまんない冗談はよしてよ。みんな友達だよ。昌としての」


「そうね。でもあなた、案外、女を見る目は確かだもんね」


「……微妙に、自分を褒めてない?」


「そう言われればそうかしら。

 でも、学校ではちゃんとやってるようだし、少し安心したわ。女子力がすごいって、褒めてたわよ」


「中学生基準だからだよ。ちょっと料理が出来るぐらい、女子力には入らないよ」


「でも、みんな、女としては先輩よ」


 沙耶香さんと同じこと言う。完全に結託してる。


「ところでさっきの服、初めて見たけどどうしたの? あなたが選んだの?」


「ち、違うよ。神子の一人に選んでもらったのが、あれだったんだ。自分じゃあんな服、絶対に選ばないよ」


「そうね。あなた、そういうセンスはイマイチだもんね。でも、あんな服が似合うなんてちょっと羨ましいわ。

 髪、伸ばさない? あの服だったら、絶対その方が合うと思うんだけど」


「伸ばさないよ。手入れもめんどくさいし。

 それに、あれはお願いされたから仕方なく着ただけで、自分でわざわざ着ないよ」


「あら? あの服着たあなたを連れて買い物したかったなぁー。

 きっと子どもたちも喜ぶわよ。保育所じゃ『天使のお姉さん』なんでしょ」


「な、なんでそれを!」


「ちゃーんと、保育士さんから聞いてますから」


「着ませんよ」


「私のお願いでも?」


「渚のお願いでも」


「あぁ……。若い子のお願いは聞けても私のお願いは聞けないのね。私より若い子の方がいいのね。あなたって、やっぱりそういう人だったのね」


「もう……。わざとらしいことは言わないで下さい」


「じゃぁ、着てくれる?」


「……。

 あの服、ちょっと油断すると、パンツ丸見えになるんだよね」


「だったら、なおさら着なきゃ。訓練です。

 とりあえず、ドレスコードのある店でディナーなんてどう? 夫婦水入らずで」


「……でも、アルコールはナシなんでしょ?」


「ちょっとぐらいならいいんじゃない?」


「え、それなら! でも……」


「着るわよね?」


「……わかりました」




 私って、押しに弱いのかな?

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