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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
75/202

お宅拝見 一

 結局、押し切られて私の部屋へ。もっとも、部屋は寝るかDVD視るぐらいだから、本当に何も無いんだけどね。


 二階の突き当たりのドアを開ける。


「広いですぅ」


 確かに広いと思う。十一畳半あるし。部屋の中央にセミダブルのベッド、壁際にオーディオとパソコン、四隅にスピーカ。


「昌クンは、やっぱり男の子ですね!」


「だから、お父さんの部屋をそのまま使ってるって言ったじゃない」


「あれ? こっちは?」


「クローゼットと書斎だよ」


「書斎?」


 詩帆ちゃんは目を輝かせる。さすが、本の虫だ。


「見ていい?」


「いいけど、本はあまりないよ」


 書斎の中はDVDとプラモデル、模型飛行機……。アルコール飲料と乾き物が入った冷蔵庫。完全に男の子の部屋だ。置いてある本と言えば、自然科学系の読み物と専門書、仕事に関する本。いかにもおっさんが好きそうな小説……。




「あ、こっちにもノートパソコンがある。さわってもいい?」


 以前使っていたノートだ。あまりにもでかいのでタブレット(2in1)を普段使いにしたら、ほとんど使わなくなってしまった。それに、ネカマ認定されちゃったし……。


「いいよ。そっちはネット用なんだ。あんまり使ってないけどね」


 詩帆ちゃんは慣れた手つきでPCを操作する。


「何コレ?」


「え? なに?」


 ヤバいデータでも残ってたのか? いや、半年前にOSは再インストールしてるし、ブックマークも無難なものだけだ。

 インターネットの閲覧履歴は、検索履歴も含めて消去する設定になってるから、見られてマズいものは無いはず。


「あり得ないスペックじゃない!」


 あぁ、そうか。確かにそれは、ノートとはいえ3DCAD用にBTOしたもの。モバイルワークステーションだ。


「こっちのワークステーションはもっとすごいよ」


「そんなの、何に使うの?」


「もともとは『お父さん』が仕事に使ってたけど、今は……、インターネットとゲームかな」


「もったいない」


「これって、そんなにいいものなの?」


 由美香ちゃんがもっともなことを訊く。うん、彼女が普通なんだよ。


「これはね、言ってみればオーダーメイドのコンピュータなんだよ。

 性能は、電気屋に売ってるのが軽自動車とすれば、これはベンツぐらい」


 高級車と言えばベンツか……。解りやすい喩えだけど、そこまでの価格差は無い。


「何が出来るの?」


「出来ることは一緒だよ」


 由美香ちゃんはビミョーな表情。いやまぁ、普通に使う分には高性能機なんて要らないのは確かだ。




「ひゃぁ!」


 突然の音に、紬ちゃんが悲鳴を上げた。

 と、棚の上で時計をつけた台が動き出している。腕時計がくるくる回る。


「何? 何ですか?」


「時計のゼンマイを巻く機械だよ。

 タイマーがついてて、時間が来たら時計を回してゼンマイを巻くんだよ」


「この時計、ゼンマイ式?」


「うん。巻かないと、二日ぐらいで停まっちゃう」


「機械式ってやつね」


 さすが詩帆ちゃん。詳しい。


「時計のゼンマイを巻くのに、わざわざ電気とタイマーを使うですか?」


 ちょっと薄目で私を見る。こういうのがいわゆるジト目ってやつか?


「う、まぁ、そういうことになるかな」


 いいんだよ。機械式も漢の浪漫なんだよ。針がいっぱいついてて、中は歯車がいっぱいで、ベゼルが計算尺になるのもイイんだよ。

 女ってのは、どうしてこういう浪漫を受け容れないかな? 今は私もそっちのポジションにいるけど、私は浪漫が解るぞ。


「ムダですね」


 ほっとけ! とは言えないので「そ、そうかもね」と返す。


「こ、これ、お父さんの形見なんだ。きっとお継母さんは、お父さんとの時間を、停めたくなかったんだよ。だからこうやって、今でも巻いてるんだよ、きっと!」


 我ながらナイスな言い訳。この場にいない人のせいにする。


「すてきなお母さんだね。

 旦那さんを大切にして、昌ちゃんも……」


 由美香ちゃんは口ごもった。

 私の言い訳のおかげで、渚の株は本人のあずかり知らぬところでストップ高だ! こういうのを怪我の功名って言うのかな。


「そうだよね。私だったらこの時計、質入れしちゃうよ」


 詩帆ちゃんは物騒なことを言う。


「この時計って、幾らぐらいするですか?」


「モンブリランか。これってクロノじゃ、ピンからキリのキリの方だろうけど、それでも新品で買ったら五十万は下らないよね。店頭で七~八十万てとこかな」


 紬ちゃんの質問に詩帆ちゃんはさらりと応えた。


「く、詳しいんだね」


「うちのお父さんも似たようなのしてるから。って言うか、私にカタログ見せて、どれがいいか訊いてきたし。セイコーのクォーツにしとけば? って言っといたけど。


 男の人にとっての時計とか車って、女の人にとっての靴とかバッグとか、そんな感じじゃないかな。お母さんはぶーぶー文句言うけど、私に言わせればどっちもどっちだよ」


 この子、すごく大人びた考え方をする。まさか、見た目通りの年齢じゃないとか。もしかして比売神子候補? まさかねぇ。格は感じないし。あ、私も格は抑えてるか。

 でも、本当にそうだったら、私のこと気づいてるよね。沙耶香さんや候補者と話してるの見てるし、神子なら次席比売神子を知らないはずが無い。


「何? 昌ちゃん」


「ううん、なんでも。

 詩帆ちゃんって、見かけと違って、大人びた考え方をするなぁって思っただけで……」


「本当にそう思ってるですかぁ? 昌クン、詩帆ちゃんの胸見てたですよ」


「みっ、見てないよっ! 」


 見てたら『見かけに寄らず』なんて思わないよ。

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