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ひめみこ  作者: 転々
第九章 連休
74/202

勉強会

「ふわー! 大っきい家だね」


「う、うん。二十年ぐらい前にお祖父ちゃんが建てたんだよ」


「へぇ、そんなに経ってるようには見えないよ」


「床とかはワックスを掛けてるからね。でも、ほら、マットが敷いてあるところは色が違うんだ」


 マットをめくると、その部分だけは色が濃い。日光に晒された部分はどうしても脱色してしまうのだ。


「それに、台所は十年もしないでリフォームが要るだろうし、軒の銅板も二、三十年したら()き直さないと」


「ふーん。そうなんだ」


 由美香ちゃんは感心しきりだ。


「昌ちゃんて、地味に変なことに詳しいね」


 詩帆ちゃんは腕組みをして見回している。


「とりあえず上がってよ。ところで、紬ちゃんは?」


「あの子なら、さっき出たとこだって。あと十分ぐらいはかかるんじゃない?」


 詩帆ちゃんは腕組みをしたまま応えた。


「ところで、弟さんや妹さんは?」


 由美香ちゃんがもっともな質問をする。


「事情を言ったら、勉強の邪魔になるだろうからって、お継母さんが実家に連れてっちゃったんだ」




 二人をリビングに通したが、そこにはソファと低い机のセット。およそ勉強する環境じゃない。


「やっぱり、ダイニングにしよっか」


 ここならテーブルと椅子の組み合わせだ。私がお茶の準備をしている間に、由美香ちゃんがお菓子を出した。主にキャンディとチョコレート。太るとか気にしないのかな? あ、きのこの山。私はたけのこ派なんだけどな。


 とりあえず見学のレポートだけど、これは大体終わってる。結局、男子のレポートと合わせないと進まないんだよね。




 ぴんぽーん


「あ、紬ちゃんかな?」


 玄関に行くと紬ちゃん。大きなバッグを抱えて立っている。


「おはよう、紬ちゃん。ところで、ずいぶん大きい荷物だね」


「お早うございますご主人様。この中には、秘密の服が入ってるですよ」


「だからメイド服はいいって」


「なんで、分かったですか?」


「分からせようと説明してたじゃない」


「ふふふ、ばれてはしょうがないです。どこか、着替えるところ貸して下さいです」


「着替えなくていいよ。そんなにメイド服がいいなら、家から着てくればよかったのに」


「さすがに、その格好で外は歩けないですよ。昌クンとは違うです」


「私のはコスプレじゃありません。一応」




 ダイニングに戻ると、詩帆ちゃんはあきれ顔だ。


「やっぱり持ってきたんだ」


 とりあえず、着替えはナシを宣告し、勉強を始める。と言っても、連休中の課題をやるだけだ。数学と英語が中心なのでスイスイ終わる。まあ、大卒社会人の知識+十代の脳で授業を聞いていたのだ。できないはずがない。

 と、見ると、詩帆ちゃんも私と同じペースで進んでいる。基礎的な内容とは言え、大卒と同じレベルの作業が出来るって、ちょっと考えられない!


「へー、これだったら、勉強会なんて要らなかったかもね」


 詩帆ちゃんが感心したように言う。むしろ感心してるのはこっちだよ。


「う、うん。……まぁ、療養中は他にすることが無かったから」


 適当な言い訳をしたつもりだったが、三人の表情がちょっと曇る。まずい。『かわいそう』って思われてるっぽい。




「あ、昌ちゃん、この問題分からないんだけど」


 由美香ちゃんが取って付けたように訊いてきた。


「ん、これはね……」




 なんだかんだで一時間。時刻は十一時半近い。


「そろそろ、お腹すかない?」


「じゃ、ちょっと早いけどお昼にする?」




 みんなはショッピングセンターのフードコートを考えていたみたいだけど、それはもったいない。第一、私のために来てくれたわけだし。


「簡単なものなら作れるよ」


「なら、紬は焼きそばがいいです!」


「焼きそば?」


「焼きそばが好きなのです。本当は上海焼きそばがいいですけど、ソース焼きそばでもいいですよ」


「由美香ちゃんと詩帆ちゃんもそれでいい?」




 結局、焼きそばを作ることになった。

 冷蔵庫を見るとキャベツがない。うーん。今日買い物に行く予定だったしなぁ。とりあえず、ニンジン、タマネギ、ピーマン、モヤシ、シイタケを出す。


「この材料なら……」


 食材をきざみ、ニンジンとピーマンはレンジで軽く加熱する。フライパンにサラダ油とゴマ油、刻んだショウガ、ネギ、鷹の爪を入れて加熱する。

 油に香りが移ったところで鷹の爪を取り除き、肉を投入。火が少し通ったら皿に受け、今度は野菜を投入し焼き肉のタレで薄く味付け。火が通ったら再び肉と合わせる。

 ここからはフライパン二つで二玉ずつ調理。お湯を注して蓋をし、蒸し焼きにする。


 一方は普通のソース味、もう一方にはヒミツの調味料を回し入れる。味が絡んだら、あえて混ぜずに麺を鍋底で少し焦がす。こうすることで、食感の違う部分が混ざって美味しいのだ。




「上海風の固焼きそばとは行かないけど、こっちは中華風だよ!」


「「「「いっただっきまーす」」」」


「あ、おいしい」


「おいしいです!」


「これ、味付け何?」


 三人の反応は上々!


「これはねぇ、えへへ、青椒牛肉絲(チンジャオロースー)の素!」


「ホントだ」


「言われてみれば……」


「おいしいです!」


「昌ちゃん、料理上手だね」


「まぁね」


 もともと、焼きそばにはオイスターソースも合う。ならばと試してみたら大当たり! 旨味が強いから二、三人分味付けできる。中学生ならこういう味が好きだろう。




「おいしかったですー」


 紬ちゃんをはじめ、みんな満面の笑みだ。うん。その笑顔だけで作った甲斐があったというものだよ。

 作り置きのポテトサラダにホウレンソウの煮びたし、レンコンのきんぴらもきれいになくなった。よし、買い物に向けて、冷蔵庫の整頓も順調!




「ところでさ、ちょっと興味ない?」


 ? 詩帆ちゃん、何に興味があるんだろ。


「あるですよ! 探検するですよ!」


「「昌ちゃんの部屋!」」


 皿を洗ってると背後から不穏な会話が!


「そ、そんな! 私の部屋なんか見てもおもしろくないよ。何にも無いし」


「いいのいいの。何もなくても、そこに少しあるものからプロファイルするのがいいんじゃない!」


「いや、だから、私の部屋、お、お父さんが使ってた部屋、そのまま使ってるから……」


「じゃぁ、お父さんをプロファイルするですよ!」


「だからっ、私の部屋じゃないからっ」


「何か、見られて恥ずかしいものでもあるですか? 片付ける時間あげるですよ」


「無い! 多分、無いからっ。でも、何も無いから見てもおもしろくないよ……」

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