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ひめみこ  作者: 転々
第八章 合宿
72/202

一つの別れ 四 告白?

 買い物を終えると結構な時間だ。地下街のコーヒーショップでお茶にする。


 コーヒーショップでも店員に通されたのは外から丸見えの席。光紀さんが座ったので仕方なく私も座る。でも、通行人からの視線で落ち着かない。


「ちょっと、落ち着かないですね」


「まぁ、私たちが看板娘というわけよ。見栄えの良い客を目立つ席に置いとくと、客の入りが違うから」


「でも、バイト代は出ないですよね」


「お金持ちのくせにセコいこと言わないの」


 二言三言交わしていると、ウエイトレスが注文を取りに来た。


「私はイチゴのタルト、昌クンは?」


「じゃぁ、ボクはプリンとフルーツが乗ったコレにします。飲み物は、アールグレイ、ホットで」


「私はモカね」




 ウエイトレスが行ってしまうと気まずい。さっきの試着室を思い出す。チラと見ると、光紀さんがにこにこしながら私をじっと見ている。慌てて視線をそらし、外の通行人を見るともなく見る。沈黙が重い。


「ねぇ」


「はっ、ひゃい!」


 噛んでしまった私を見て、光紀さんはクスクス笑う。


「こういう姿は、本当に女の子みたいね」


「本当にって、光紀さん? 私のオールヌード見てますよね?

 あれ見て男だって言う人は居ないと思いますけど」


「ふふ……。じゃ、そういうコトにしておきましょうか」




 程なくケーキが運ばれてくる。


 甘いプリンを頬張る。美味しい! この身体になって以来、甘みと脂肪の組み合わせを舌が欲する。味覚を処理する脳が変化しているからだろうか、甘いお菓子を飽きることなく食べられる。

 以前は塩と脂とアルコールだったんだけどなぁ……




「比売神子になれなかったのは残念だけど、それはそれで良かったのかもね。これで一般人に戻れるんだから」


 光紀さんは血が出る前の話を始めた。


 変容が少なかったから、入院期間が短かったこと。

 大幅では無いが、容貌の――主に体重と体型の――変化がそこそこあったせいで、整形疑惑が出たこと。


「血が出る前の話は御法度じゃないんですか?」


「そりゃ、過去を捨てる必要があったらそうだけど……、私の場合は、生まれたときも今も山崎光紀だから。ちょっと変わった人たちに会えただけよ。

 昌クンは……、絶対に言えないわよね」


「一応、口止めはされてますから……」




 とりとめのない会話を三十分ほどし、私たちは店を出た。


「じゃぁね、昌クン。次、会うのは、お別れ会ね」


「光紀さんもお元気で」


「昌クン。最後にハグさせて」


 そう言うと、光紀さんは返事を待たずに私を抱き締めた。

 見上げると光紀さんの顔が近づいてくる。私は目を閉じた。


 突然私は解放され、同時に額に軽くチョップされた。


「ったーい」


「昌クン。貴女、何期待してたの?

 完全にキスを待つ女の子じゃない」


 ううううう。恥ずかしい。条件反射みたいに身体が動いてしまった。


「あら、真っ赤になって、カワイイ」


 そう言うと、もう一度私を抱き締め、耳元で囁いた。


「ファーストキスを捧げたんだからね。光栄に思いなさい!」


 えっ? となる。

 でも、あれは捧げると言うより奪うの方が適切な気がする。


「昌クン、前は本当に男の子だったんでしょ?

 うぅん、答えなくてもいい。私がそう思いたいだけ」


「光紀さん……」


 光紀さんが腕を緩めた。


「じゃぁね、昌クン。今度は、彼氏を見せびらかすから」


 改札で別れた後、何故か目尻から頬に涙がつたった。今日は意味もなく泣いてばかりだ。


「『彼氏』、かぁ……」




 光紀さんの後ろ姿を見送って、ふと周囲を見ると、注目されている。そうだ、ここは駅の構内だ。

 そうでなくても私の容姿は目立つ。加えてこのコスプレまがいの服。あまつさえ、抱き締められてキスを待つ体勢になるなんて!  

 客観的には百合の花が咲きそうになってるように見えたんじゃないか?




 私も帰宅の途についた。電車をホームで待つのだが、今は各駅待ちがほとんど。待つ間も注目される。

 ナンパ男が寄ってくるかとも思ったが、そんなことはなかった。と言うより、何故か私の周囲りだけ人が来ない。乗車率は七割を超えてて立っている人もいるのに、四人掛けを一人で占領ってちょっと悪い気がする。


 別の車両から空いてる席を探して来たカップルも、私を見て素通りするし。なんか、ちょっとイタい子というか、変な子って思われているのだろうか?


 ……それにしてもこのスカート、長いのに前のスリットが深いから油断するとご開帳してしまう。これをデザインした人は試着していないに違いない。




 揺られていると、前方からきれいな子が……、誰だろう?


「おおおお! 昌クンです!」


「あ、紬ちゃん、お化粧してるから分かんなかったよ。こんな所まで、何してたの?」


「生地とボタンを買ってたですよ。これで服を仕立てるです」


「自分で仕立てた方が安いの?」


「ノン、ノン。趣味ですよ。

 材料だけで既製服が三着は買えるですよ」


 布って意外と高いんだな……。そう言えば渚も子どもが入園するとき、いろいろ手作りしてたけど、あれも結構かかってたのかな?


「ところで昌クン。その格好似合ってるですね。普段はそんな服ですか?」


「ううん。これはさっき友達が選んだんだよ。

 さすがにせっかく買ってくれたものを、すぐ脱ぐわけにもいかないから、今日はこれを着てるんだ。正直、次に着るかどうかは判らないけど……」


「せっかく似合ってるですから、また着ないともったいないです。こんな服が似合う人、なかなか居ないですよ。

 さすがクラス一の美少年! ノーメイクでも女装は完璧ですね」


 瞬間、周囲りの空気が変わる。何故か、主に女性客の視線が集中する。


「ちょ、ちょっと! 誤解されるようなこと言わないでよっ!

 第一、こないだ裸見てるじゃない」


「そう言えば、そんなこともあったですね。確かに『何も』生えてなかったです。あれで男だって言ったら、世の中から女の子はいなくなるですね」


 そこで何故『何も』を強調するのかなぁ……


「ところでさっ、紬ちゃんはどんな服を仕立てるの? 今着てるのも自分で仕立てたの?」


「これは既製服ですよ。

 仕立てるのは特別なときに着る服ですよ。ナース服とか、メイド服とか、あと、ゴスロリ系もですね。昌クンも一着試すですか?」


「そ、それは遠慮しておきます。

 そういうコスチュームプレイ的なコトをする予定も無いし」


「昌クン、何か勘違いしてるですね。

 コスチュームプレイじゃなくてコスプレですよ。プレイなんて中学生には早すぎるですよ。昌クンは相変わらずえっちですねぇ。

 そう言えば、詩帆ちゃんのおっぱい見てたですね」


「あ、あれは、前も言ったでしょ! 揺れて痛そうだなぁって。あと、ちょっと羨ましくて……」


「ホントですかぁ? 触りたいとか揉みたいとか頬ずりしたいとか考えてなかったですか?」


「そっ、そんなこと考えてないよ!」


 ウソです。ちょっと考えていました……。


「まぁ、そういうことにしておきましょう」




 光紀さんといい紬ちゃんといい、私に『僕』を使わせたがる人は、何でそういうところが鋭いんだろ。まさか鋭いから『僕』を使わせるのかな?

 いくら何でも、私の出自を知ることが出来るとは思えないけど。

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