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ひめみこ  作者: 転々
第八章 合宿
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一つの別れ 一 格

「光紀さん、比売神子になれるかなぁ?」


「難しいんじゃない?」


 私の独り言に、聡子さんが応える。光紀さんの神子としての合宿参加は今回が最後だ。今は、沙耶香さんと比売神子のお婆ちゃんとともに、最終的な通過儀礼(試験)を受けている。

 本人は比売神子になれなくても構わないとは言っているけど……。


「比売神子になれないと、やっぱ残念ですよね」


「そりゃ、残念よ。比売神子としての責務はめんどくさいけど、収入がいいし、私としては比売神子になれるなら、大学なんか行けなくてもいいと思ってるわ」


「やっぱり、そうですよね」




 かれこれ三十分は経っている。


「あと、どれぐらいかかるんでしょうね?」


「さぁ、前の神子のときは一時間以上かかったから、今回もそれぐらいじゃない」


「まだ、小一時間ぐらいかかるのか……」


 待ってる方が疲れる。




「ところで昌クン。あの後、社会見学はどうだったの?」


「みんなのせいで、ボクは天然ということになりましたよ……。

 あと、『僕っ子』だと思われるし『男の娘』疑惑まで出るし……、ボクのイメージ散々です。

 その上罰ゲームで、見学の間中、一人称『僕』で通さなきゃいけなかったし、別のクラスの男子には『男湯だろ』って言われたんですよ」


「でも、昌クンの普段の行いが普通だったら、天然扱いも男のコ疑惑も起こらなかったでしょ? やっぱ、そういう要素をみんなが感じてたんだと思うよ」


「みんな、面白がってるんです。凄く恥ずかしかったんですから」


「でも、それでクラスの子達と打ち解けられればいいじゃない? 今まで男の子とはほとんどしゃべってなかったんでしょ? 昌クン、本当は男の子との方が、話が合いそうだもん」


 それはそうだけど……。それは結果論であって、そんな捨て身の打ち解け方は避けたかったのですが。


「あ、そうだ。男のコと言えば、ウチの学校でも昌クンは男のコで私の彼氏と言うことになってるから」


「は? どういうことですか?」


「週明けに学校へ行ったら、昌クンのことみんなに訊かれちゃってね、それで、彼氏と言うことにしたの」


「何で彼氏なんですか?」


「彼女じゃ私にレズ疑惑が出るでしょ」


「普通に友達とか、同じサークルの後輩とか、いくらでも言い方あると思うんですけど」


「私は高校じゃクールなイメージで通してるから。

 駅ですっごい美少年と腕を組んでたとか、有り得ないぐらいの男の娘とかウワサになってて、昌クンのことみんなに訊かれたのよ。で、変なウワサが出るのは嫌だから」


「彼氏が女装趣味の中学生って方が、よっぽど変だと思います。

 それに、その『美少年』の件、話を盛ってるでしょ」


「まぁ、本当は『美少女』だったんだけど、美少年の方がおもしろいかな? って。それなら誰も信じないから。だからそのセンで行ったのよ。それはそれで萌えるし」


「それで、ボクはあちこちで女装趣味ということにされるというわけですね……」


「女の子が女の子の格好するのは、女装とは言わないから大丈夫」


「大丈夫って、何が大丈夫なんですか」


「さぁ。何でしょうね?」


 全く、呆れる。自分のイメージを守るために、私のイメージをボロボロにするなんて。


「千鶴さん、優奈さん。この変人に何とか言って下さいよ」


「でも、昌ちゃんはやっぱりちょっと天然入ってるよねぇ」


「男の娘扱いが嫌とか言いながら、光紀さんにはなついてるし。何だかんだ言って、男の子っぽく振る舞ってるし」


 優奈さんと千鶴さんが顔を見合わせる。直子さんは聞いてないフリで知らん顔。


「ま、人の噂も七十五日。私は別に昌クンが男の子でも構わないし。むしろその方が萌えるし。

 大丈夫。沙耶香さんや光紀ちゃん優先ってのはわきまえてるから、抜け駆けしないわよ。昌クンのDTは沙耶香さんに譲る」


 聡子さんに『大丈夫』って言われる度に、大丈夫じゃ無くなっていく気がするのは何故だろう。




 光紀さんが戻ってきたのは更に三十分ほどしてからだった。

 試験内容は分からないけど、とにかく疲れた顔だった。


「お疲れ」


「やっぱりダメだったよぉ。昌クン慰めて」


 いきなり私に抱きついてくる。

 引き離そうとしたが、押し殺した嗚咽が聞こえる。本人は「なれなくてもいい」って言ってたけど、やっぱり悔しいものは悔しいのだろう。


 普通は泣くために胸を貸すところなのだろうけど、光紀さんの方が背が高いから肩を貸す感じになる。


「とりあえず、お別れ会は日を改めるから、今日は解散ね」


 沙耶香さんが言うと、他の神子候補達はあっさり引き上げる。え? なんで? みんなどうしてそんなに淡々としてるの?




 しばらくして嗚咽がやむと、光紀さんは私から身体を離した。目が赤い。その表情にドキッとさせられる。


「昌クン。一つお願いがあるの」


「何ですか? デートして欲しいとか?」


「それはそれでしてもらうつもりだけど……、貴女の『格』を感じてみたいの。一度も見てないから」


 チラと視線を動かすと、沙耶香さんは頷いた。


「分かりました」


 私がそう言うと光紀さんは二歩下がった。


「では、行きますよ」


 光紀さんは腰を落として踏ん張る姿勢をする。別に『格』は物理的な力じゃないから、踏ん張ったって関係ないけど。気分の問題だろうか?




 私は放出する『格』を徐々に強める。


「ストーップ! ストップ、ストップ! OK。分かった」


『格』を止めると光紀さんは全身で溜息をつく。


「大体分かったわ。今ので出力何%ぐらい?」


「三割から三割半ってとこでしょうか」


「それが、本物の『格』なのね。

 うん。これで諦めが付いた」




「沙耶香さん。今までお世話になりました。結局、比売神子になれなくてすみませんでした」


「謝らなくていいのよ。こればかりは努力だけでどうにかなるものじゃないから。

 こちらこそ申し訳ないけど、これからも貴女の行動や職業選択にはある程度の制限がかかります。その辺はさっき説明したとおりよ」


「はい。でも私は美人すぎる官僚を目指してるので、余り関係ないと思います」


 実際、彼女は美人だけど、自分で言うかなぁ。沙耶香さんが伝染ったに違いない。




「じゃぁ、今日は昌クン借りてきますね」


「いいわよ。でも、いくら恋愛解禁になったからって、不純同性交遊はダメよ」


「かしこまりっ! じゃ、昌クン、一緒にランチね!」


 え? デートはマジですか……。

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