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ひめみこ  作者: 転々
第八章 合宿
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坊やだからさ

 いろいろと疲れた浴場を出て――ちょっとナイショの寄り道をして――部屋に戻る。由美香ちゃんも髪が短いから早かった。夕食の集合時間まであと十五分強。私は畳の上にゴロリと横になった。


「手足を伸ばしてお風呂っていいよね。家じゃこうはいかないから」


 由美香ちゃんが背伸びをしながら言う。


「そうだね。それに、温泉だと温かさが長持ちするし。何でだろうね」


「そうそう! 何故か湯冷めしにくい気がするよね」




「ところでさっ、昌ちゃんってお化粧してないんだね」


「してないよ。なんで?」


「してるのかな……、って思ってたんだ。コツとか教えてもらおうと思ってたんだけど。

 前に試したときは、上手く出来なかったし……」


「中学生じゃ、お化粧はまだ早いよ」


「そんなこと無いよ。クラスでもけっこうしてる子はいるよ」


「本当に? 気づかなかった……」


 最近は、中学生でもお化粧するのか。素肌で勝負できる時期なんだけどなぁ。


 他愛もないやりとりをしていると、詩帆ちゃんと紬ちゃんがやってきた。集合時間まで十分程。ちょっと早いけど行こうかな。




 私と由美香ちゃんはハーフパンツにTシャツだが、廊下を見る限り、女子の大半は制服のまま。一時間では入浴、と言うよりその後のケアが難しいと考えたのだろう。

 階段を登って行くと、大広間があるフロアだ。男子生徒の大半は私たちと同じ格好だ。まぁ、男子は食事前に入浴だよね。


 歩いていると後ろから視線を感じる。そりゃそうか。女子の大半が制服かジャージ。生足を晒している私たちは目立つ。




 大広間では班ごとの席だった。意外にも畳ではなくテーブル席。入り口で班員が揃ったことを告げ、中に入る。


『どちらのお国ですか?』


 ホテルの従業員らしき人が英語で尋ねてくる。国が分からないのに英語だと決めてかかっているのはどうなんだろ。


『プレシディオ。サンフランシスコの。

 アカデミーの異文化比較の研究で日本に来ました』


 と英語で言って相手が絶句したところで、


「というのはウソで、日本人です。日本語で大丈夫ですよ」


 私の英語に男子は「「「おぉー」」」となる。

 そう言えば、英語の時間もまだ教科書読んだりはしてなかった。

「まぁ、あっちの生活も長かったし。ほとんど病院だったけど」と、『設定』を言う。


 席につき、今日の見学について班レポートをどうするか相談する。他の宿泊客がいるから、ロビーなどは使えない。

 結局、合宿中は男女別々にしかできないから、それぞれでまとめたものを週明けに班としてもう一度まとめることとなった。

 仕切れる由美香ちゃんと成績優秀な詩帆ちゃん、男子では松田君――彼も成績がいいらしい――が揃っているから、話が早い。




 食事に全ての班が揃ったときには集合時間を三分ほど過ぎていた。どうやら、三組の女子で、ドライヤーの順番待ちがあったようだ。温泉の湯をきっちりすすぎさえすれば、一日ぐらい自然乾燥でもいいと思うのは女子力不足?

 遅れてきた子を見ると、既視感がある。どこかで会っただろうか? まぁ、同じ学校だから、いずれ接点はあったに違いないけど。


 料理を前にして、事務連絡が始まる。やれやれだ。こんなタイミングで話をしたって、きちんと聞くはず無いのに。そういう連絡はバスで移動中に済ませるべきだと思うんだけどな。

 ほら、目の前で新川君が料理に乗せられた紙をそーっとめくって、中を確かめてる。あ、ニヤリと笑った。そんなの見せられたら、私も気になるじゃないか。


 ようやく先生の話が終わり、いただきます、だ。

 一斉に紙をめくる。

 メニューは予想の範囲内だ。所詮は中学生の食事。内容的にはオードブルよりマシという程度。お造りは馴れかけてるんじゃないか? この人数に出すから仕方ないだろうけど、お腹痛くなったりしないよね……。

 一人鍋の蓋を取ると、肉と野菜だ。肉は最初から入れるんじゃなくて、つゆが熱くなってから投入したいところなのだが……。中学生には肉と揚げ物食わしとけば満足だろ、って感じのメニューだ。

 当然だけど、食前酒も無ければ、ビールも無しだ。


 お、仲居さんが何か運んできた。無論ビールではなく御飯のおひつと吸い物だった。最初から米か……。


「昌クン、どうしたですか?」


 私の落胆顔を見て、紬ちゃんが声をかけてくる。


「うーん。アルコール無しはシケてるなって。


 研修旅行で温泉の宴会と言えば、まずビールで乾杯だよね。で、コンパニオンのお姉さんと歓談。二次会はそのままコンパさん連れてクラブかラウンジ行って、最後の締めはラーメンか蕎麦ってのが鉄板じゃない?」


「それって、おっさんの慰安旅行だよ。そもそも宴会じゃないし」


 詩帆ちゃんが冷静に突っ込んでくる。由美香ちゃんと紬ちゃんは二の句が継げないと言う顔。何故か男子は三人ともドン引きだ。君たちも十年後はそういう旅行をするかも知れないんだぞ。




 仲居さんが台車におひつと吸い物を持って来た。椀を配りながら、「御飯のお代わりはありますよ」と言う。この椀の大きさだったら、男子はお代わりだろう。


 吸い物を一口。あ、これは美味しい。ちゃんと出汁を取ってる。御飯もいい米を使ってる。でも、それ以外はイマイチだった。




 おしゃべりしながら食事は進む。

 紬ちゃんの話が、お腹が空いたの歌に及びそうになったので、こればかりは慌てて止める。これ以上のイメージ悪化は避けたい。


「お、小畑さんって、こんなにしゃべる子だったんですね」


 松田君が独り言ともつかない言い方で話しかけてきた。多分、話自体は男子の方が合うはずなんだけど、教室では会話したことがない。


「しゃべるよー。なんて言うか、教室ではとっかかりというか、きっかけが無かっただけで」


「小畑さんって、僕っ子なんですか?」


 紬ちゃんと同じこと聞いてきた。一応、紬ちゃんと同様、調教の結果だということを説明する。


「じゃぁ、今、僕って言ってるのは?」


「これは、罰ゲームというか、紬ちゃんの陰謀というか……。決して本意ではないので勘違いしないで下さいね」


 明後日からは私に戻るのだ。




 その後は差し障りの無い範囲でのおしゃべりとなった。ところが、誰かから脱衣所でのやりとりを聞いたらしく、話は濃いガ○ダムネタへ。

 幸い、どういう経緯で私たちがガ○ダムを解するかが分かったかまでは口にしていないが……。聞いてるんだろうな。主にAとかBとか。

 話が変なところに行かないよう、とにかくガ○ダムで押す。と言っても、私のはアニメ評論家の受け売りが多いけど……。


 印象に残った死に様の話では、皆は当然のように主要キャラを挙げる。ここは一つ、目のつけ所の違いを見せてやるか。


「一昨日の、女スパイもエロい死に方だったよね」


 案の定、皆「?」な顔。

 幼い弟と妹を食べさせるためにスパイ活動をしている少女だ。彼女は普段、化粧っ気の無い顔で髪も引っ詰め。およそ『女』として生きてはいない。


「でもね、最期の瞬間だけ引っ詰めが解けて髪がファサっとなるんだよ。あれは『女』の象徴なんだよ! 死ぬときだけ『女』に戻って逝くんだよ!

 この演出した人、狙いがイヤラシ過ぎる!」


 私の力説に男子は引き気味。何故か詩帆ちゃんだけは「うんうん」と頷く。


「分からないかなぁ」


 私の言葉に紬ちゃんが「仕方ないよ」と言った後、芝居がかった口調で「君たちには判らなかった。それは何故か!」と続け、私たちに目配せする。


「「「坊やだからさ」」」


 女子三人がハモった! 由美香ちゃんだけは置いてきぼりになっちゃったけど……。


 うん。中学生も悪くないね。アルコール無しでこれだけ盛り上がれるんだから。

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