浴場
宿に着いた。ちょっと古めの温泉旅館だ。新館はまだホテルって感じだけど、本館はいかにも古めかしい。ホテルとしての体裁も整っているが、どっちかというと観光旅館というか……、まぁ昭和な感じだ。
部屋に入ると案外広い。
三人の班は二人部屋に簡易ベッドを入れるが、私たちの班は四人。四人部屋が割り当てられている。
時刻は五時過ぎ。夕食まではたっぷり時間がある。
「どーする? 一時間ちょっとじゃお風呂に入るには微妙だけど。私は食事の前に入っちゃいたい方だから」
由美香ちゃんが訊く。
「ボクも入ろうかな。やっぱり夕食は小綺麗にしてから食べたいし。レポートは夕食の後でゆっくりまとめようよ」
「昌クンが入るなら紬も行くです」
「だったら、私も行こうかな」
結局、部屋の全員が風呂だ。
「じゃぁボクは部屋で待ってるから」
「「「えっ?」」」
「ボクは部屋のシャワーを浴びるよ。貴重品もあるし、留守番は任せて」
「貴重品は金庫に入れるです。みんなで大浴場に行くです!」
「いいよぉ。ボクは部屋で待ってるから」
「そんなこと言わずに、一緒に行こうよ」
由美香ちゃんまで……。
「昌クン、本当に生えてるですか?」
「生えてない! 生えてないからっ」
生えてないけど、生えてないから行けない。それに、混浴なんてハードル高過ぎだよ。
……脱衣所なう。
結局、大浴場に連行されました。
壁の向こうは静かだ。何だかんだ言って、男子の方が肌を晒すことに抵抗があるもんだ。特に成長に個人差が出る時期だけに。
でも古い旅館の大浴場って、なんで覗けと言わんばかりに壁の上の方を切ってるんだろう。と、思考は一時現実逃避に入る。
うー、どうしよう。幸い他の班の子達はまだのようだけど、タオルで隠すにしても限界はある。慎重に行けば大丈夫かな?
「自分で脱げないですか?」
みんなもまだ脱いでないでしょうが。脱いだら脱いだで目のやり場に困るけど。
免疫がついてきたとはいえ、毎日顔を会わせる相手はまた趣が違う。って、何考えてるんだろ。
「ぬっ、脱げるよ」
「では、脱ぐのです」
とりあえず、ブラウスを脱ぐ。
「昌クンのちっぱい、可愛いです」
「う、うるさいっ。これでも少し大きくなったんだから。もうすぐBなんだからっ!」
「堂々とするですよ」
う、最近の中学生は発育がいい。恵まれし者の余裕か、ゆさゆささせる。全く目のトク、もとい、目のドクだ。
私は由美香ちゃんの影に隠れた。貧乳同盟結成。
「どうせボク達は平たい胸族ですよーだ」
「こら! そこで『達』をつけるな! 私はAじゃない!」
由美香ちゃん、見捨てないで。
「Aとは違うのだよ、Aとは! です」
うー。ザク扱いされた。
あれ? 紬ちゃんって、ガ○ダムの再放送見てるのか。見かけによらないな。よし、ここはガ○ダムネタで返すのが礼儀だろう。
「胸なんて飾りです。エロい人には判らんのです」
瞬間、壁の向こうから吹き出す声とともに「静かにしろ、バレるだろ!」の声。まさか覗いてるのか?
ダッシュで壁に向かい軽くジャンプ。懸垂の要領で顔を出す。
「うわぁ!」
男性側は八人、覗いてはいなかったが聞き耳を立てていたようだ。
「くぉらっ! 覗かないでよっ!」
自分のことを棚に上げて怒鳴る。
「覗いてないっ! 聞いてただけ! 覗いてない!」
男子は全員下着を着けたままだ。三人ぐらい前屈みになっているが見なかったことにしよう。
「昌クン、凄い! 男子並みのジャンプ力です! やっぱり本当に生えてるですか?」
紬ちゃん。もうそのネタ引っ張らないでよ。男子も聞いてるし。
「おーい、だったら『小畑君』はこっちだろー」
向こうも悪のりしている。
「は、生えてないからっ!」
私は床に飛び降りた。
どうする?
今から撤退? それはムリだろう。
無難な選択はタオルで隠す。多分隠しきれないだろう。紬ちゃんがタオルを引っ張るに違いない。そこで不毛地帯を見られたら……。
やはり、現実的な方法で行こう。
「あのさ、脱ぐから。脱ぐからその前にちょっと言っておくことがあるんだけど……、ちょっとこっちに来てくれないかな」
皆、怪訝そうな表情で集まる。
「えーっと、まず、恥ずかしいから内緒にしておいて欲しいのと、それを知っても、その、周囲りにばれるような反応しないで欲しいんだけど、いいかな?」
「よく分かんないけど、いいよ」
「内緒ね、分かった」
「まさか本当に……」
私は深呼吸してから言う。
「ボク、実は、」
「「「実は?」」」
「生えてないんだ」
みんな溜息をついて脱力する。
「それはナイショにするようなこと?」
「それは分かってます」
「さすがにそこまでは期待してないです」
「いや、だから、生えてないのはソレじゃなくて……、ココの毛が」
「なーんだ」
「そんなことですか……」
「期待して損したです」
あれ? ここは驚くとこじゃないの?
中二だよ。ボーボーとは行かなくても、そこそこ生え揃ってる年代だよ。
「まぁ、本人が恥ずかしいって言うなら、ばれないように私らで周囲りを固めとく?」
「そ、それは……、助かります」
「とりあえず、お風呂にしよ」
私も手早く脱ぐとタオルで前を隠しつつお風呂に入る。
紬ちゃんが桶いっぱいのお湯をかけてきた。
「本当に生えてないです!」
え? となって下を見ると、濡れたタオルが片側に寄ってる。
「ちょっ、ちょっと、紬ちゃん!」
「壁の向こうの人達の疑惑をといておいたです」
「あ、ありがと、って、やり方ってもんがあるでしょうが」
「本当に生えていないか確認したかったのです
顔を赤くする昌クンはカワイイです」
ち、ちょっと! 近いって! 当たってるし!
神子の沐浴でかなり免疫は付いてるけど、それでもこれは困る。女子ってこんなにスキンシップ取るものなの? 男子とは違う。いや、男同士だったら軽くトラウマになりそうだけど。
軽く身体を流し、湯船に浸かってしばらく、脱衣所に人の気配。シルエットから、五人ぐらいだろうか。早めに上がろう。
洗い場に行き、手早く身体を洗う。沙耶香さんが見たら叱られそうだけど、タオルでこすり洗い。最後にシャワーを浴び、不毛地帯をタオルで隠しつつ、脱衣所へ急ぐ。
タオルに加えてバスタオルも併用して身体を拭く。ショーツを着けて一安心だ。
旅館では浴衣でなく体育の服装を使うことになっている。今日はやや暑いので、寝るまでジャージは必要ない。でも、Tシャツから下着が透けるのはアレな感じなので、ノースリーブを着る。あ、さっき男子を厳重注意したとき、ブラをモロに見られてたんじゃないだろうか?
と、下着姿の詩帆ちゃんが近づいてきた。その胸の戦闘力は反則です。ちょっとドキドキしていると、突然私の左腕を捕った。え? 何?
「いいなぁ。処理しなくてもいいなんて」
どうやら、脇毛のことを言っているようだ。そうだ、女の子は身だしなみとして、そういうことも必須だ。首から下がハゲというのは、これから夏に向けて、女子力がイマイチな私は正直助かる。
見ると由美香ちゃんもこっちを見てる。
そうか、バスケは袖がないし、脇を晒す動作が多いスポーツだ。切実に気を使うところかも。彼女自身はそんなこと口にしないが。
ふぅ、何とか風呂イベントをクリアした。
後日、私に無毛疑惑が出たが、程なく下の毛も白いという話になっていた。
「もともと薄い上に肌が白いから、濡れると保護色のようになって生えてないように見える」という類の言説が流布し、話の信憑性を増していた。
不毛地帯がバレるよりはマシだけど……、マシだけど。
それを聞いたほぼ全員が、私のすっぽんぽんを想像したと思うと恥ずかしい。
でも女の子って、自分ことでもないのに、こんな赤裸々なこと平気で言うものなのか? 私の中の女の子像が……。




