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ひめみこ  作者: 転々
第八章 合宿
62/202

予期せぬ遭遇

 合宿は何とか終了。

 夕食は美味しく、少しアルコールが混じったにも関わらず、心配していたようなことは起こらなかった。

 口ではああ言っても、みんなまともだ。沙耶香さんとは違う。


 と、思っていたのだけど……。


 二日目の武術訓練。沙耶香さん以外との組み手は久しぶりだ。

 初めてのときは優奈(ゆうな)さんに軽く転がされたけど、今回はレベルアップしている! と意気込んだはずだった。


「もう優奈ちゃんじゃ、昌ちゃんの相手はきつそうね。

 光紀ちゃん、お願い」


 その言葉に光紀さんは目を妖しく輝かせていた。あのときに気づくべきだったのだ。


 結局、光紀さんの崩しから関節技、寝技の連携で弄ばれた。

 弄ばれたというのは比喩でも何でもなく、文字通り弄ばれた。特に寝技で押し込まれた状態で……。思い出したくない。何かいろいろと失った気がする。


「ふーっ。堪能した!」


 私は、心なしか雰囲気が艶っぽくなった光紀さんから距離をとった。


「ボクもう、お婿に行けない……」


「「大丈夫! 私がもらって上げるわよ」」


 ハモった。光紀さんと聡子さんがハモった。


「あらぁ、昌ちゃんは私の嫁よ」


 沙耶香さんまで悪のりする。


「昌クン、これは、毎晩スッポンが必要ね」


 いつの間に間合いを詰めたか、光紀さんが耳打ちしてくる。そのネタはもう止めて……。


 いろいろと消耗した合宿だった。




 明けて次の週は社会見学。私たちはバスの中で移動中。


「ねぇ昌クン、今度、(つむぎ)とデートするのです」


 紬ちゃんがニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。由美香(ゆみか)ちゃんは苦笑い。詩帆(しほ)ちゃんは笑いを(こら)える作業。

 こうなった原因は、小一時間前に遡る。




 集合時間三十五分前に駅に着いた。集合場所が最寄り駅から一駅離れていて、電車が一時間に二本しか無いからだ。当然、生徒の半分近くはその時間に駅に来る。どうせなら集合時間を八時半にすればいいのに。いや、そもそも学校で集合にすれば話が早いのに。


 集合場所に何となくクラスごとに集まる。男子の半分近くの姿が見えない。駅まで自転車で来るのだろうか。

 キオスクで何か買おうかと話をしていたら男子生徒が騒ぎ出した。


「おぉっ、すげぇ美人」


「芸能人? 」


 つられて私たちもそっちを見たら、沙耶香さん。

 後ろには千鶴(ちづる)さんが一緒だ。確かに美女と美少女の組み合わせ。幸い要注意人物の姿は無いが、ここで遭うのはマズい。


「ごめん。私、ちょっとトイレに行ってくる」


 由美香ちゃんにそう言うと、沙耶香さんと反対の方に向かう。とりあえず逃げの一手だ。


 集団から抜け出して走り出そうとした瞬間だった。


「「確保ぉ!」」


 聡子さんと光紀さんに挟まれた。両側から腕を捕まれて集合場所に戻される。「確保」の声が大きかったせいで、皆の注目が集まる。まるで犯人のような扱いだ。


「昌クーン、逃がさないわよぉ」


「放して下さい! ボクはトイレに行きたいんですっ!

 痛い、痛いっ。光紀さん、肘、()めないでよっ!」




「あらぁ、偶然ね。昌ちゃん」


「偶然じゃないでしょっ! 沙耶香さん。

 それに、平日なのにどうして聡子さんまでいるんですかっ?」


「私は創立記念だよ。光紀ちゃんは休講」


「ちゃぁんと学校で仲良くやってるか見に来たんじゃない。これでもお姉さんは心配してるのよ」


 沙耶香さんはすまし顔で言う。男子の視線は主に沙耶香さんの胸に釘付けだ。




「ねぇ、昌ちゃんって、キミから見てどんな子?」


 沙耶香さんはニコニコしながら男子生徒に訊く。彼の顔は真っ赤だ。


「え、えっと、小畑さん、ですか?」


「そう! 小畑 昌ちゃん」


 近くの男子は、この声だけでヤられてしまっている。


「小畑さんって、あの、現実感が無いぐらい、その……、きれいで、ちょっと、近寄りがたいです。何ていうか、クールビューティって感じで」


「くぅるびゅぅてぃ? この、ド天然が?」


 光紀さんが口を挟む。でも、天然は無いでしょ。しかもドまでつけて。


「ボクは天然じゃ無いです。変なこと言わないで下さいよっ。ボクにもイメージってもんがあるんですからっ」


「イメージって、昌クン、学校じゃキャラ作ってるの? 猫の毛皮を何枚羽織ってるわけ?」


「キャラなんか作ってませんっ! 沙耶香さん、何とか言って下さい。天然じゃないですよねっ」


「うーん、私はコメントを控えておくわ。

 でも一般論で言えば、天然な人は自分が天然だって気付かないものなのよね」


 沙耶香さんはちょっと困った表情をつくって応えたが、それじゃ本当に天然だと思われちゃう。


「ほら、やっぱり天然じゃない」


「やめて下さい! 光紀さんが勝手な事言うと、ボクのイメージが変なことになっちゃいます!」


「昌クンのイメージ? 私の中では天然系美少年ってことになってるんだけど、お友達は違うの?」


「違います! それに少年はないでしょっ。一緒に沐浴したこともあるんですから」


「上手いこと挟んで隠してたのかも知れないじゃない」


「みんなと一緒だったら、隠しきれるわけ無いじゃないですか!」


「え? 隠せなくなるの? どうして?

 そう言えばこないだは部屋のシャワー使ってたわね。

 一人でナニしてたのかしら?」


 何って、あの日はアレの最中だったから……って、そんなこと言えないし。


「ふ、普通にシャワー浴びてただけです! それに、次の日の組み手でしっかり確認してるでしょっ! 光紀さん、ボクに何をしたと思ってるんですか」


「そうね、昌クンと組んずほぐれつ……、これ以上はうら若き乙女の口からは言えないわ」


 光紀さんはクネクネとシナをつくりながら頬を染める。わざとらしい!


「誤解されるような言い方しないで下さい!

 横四方固めかけながらボクにしたこと、忘れませんからねっ!」


「私も忘れられないわぁ。すてきなひとときだったもの……」




「まぁまぁ、昌ちゃんも光紀ちゃんもその辺にして。男の子達が色んなこと想像しちゃうから」


 完全に注目されてる。


 沙耶香さんはニコニコ笑いながらクラスのみんなを見る。男子の何人かはその視線だけで鼻の下を伸ばしている。まぁそうなる気持ちもよく解る。よく解るけど……。


「昌ちゃんは、全然近寄りがたくなんかないわよ。本当はお茶目で可愛い子なんだから。

 こう見えて寂しがり屋さんだから、仲良くしてあげてね」


 男子生徒は全員骨抜きだ。当たり前だけど、中二男子と沙耶香さんじゃ勝負にならない。




「じゃ、私たちは電車があるから行くわね」


「昌クンもみんなも、まったねー」


 光紀さんも手を振る。




 台風が去っていった。どっと疲れが来る。

 男子生徒は名残惜しそうにしているが、外見に(だま)されると大変だぞ。みんな見た目通りの年齢じゃないんだから。

 一番ずれの少ない光紀さんですら、もう大学生なんだし。


 私が溜息をつくと、由美香ちゃんが側に来た。


「昌ちゃん。あの一団、何? 知り合い、なんだよね?」


「一番背の高いお姉さんが、療養してたときに世話になった沙耶香さん。看護師で、私のリハビリも兼ねて柔術を教えてくれてる。

 残りは、同じ柔術サークルのメンバーだよ」


「そのサークルって、美人じゃないと入れないの? 最初見たとき、芸能人? って思ったし」


 詩帆ちゃんもずいっと顔を寄せてきた。近いって……。




 しばらく黙っていた紬ちゃんが目をキラキラさせて口を開いた。


「昌ちゃんって、本当は、僕っ子なのですか? 

 それとも、まさか、リアル男のコなのですか?」


 しまったぁ!

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