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ひめみこ  作者: 転々
第七章 中学校編入
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社会見学に向けて

 今日のHRは四月末に行われる社会見学の班分けだ。


 男女で班分けして、その班をくっつけることで男女混合の班を作る。クラスは、男子十五名、女子十六名。女子は三人の班が四つと四人の班が一つできる。


 新しいクラスの親睦を深めるのも目的なんだから、仲良しグループがばらけるように、と言わないまでも、ランダムに決めてくれればいいのに。

 孤立しかかってる私としては辛いものがある。


 そう思ってると徐々に決まって行く。2人しかいないところに入っていく勇気はない。多分、あの六人組で二班が決まるから、早く決めないと。

 川崎さん(由美香ちゃん)が声をかけてくれればいいけど、彼女は男子の体育委員と何か話してる。




「一緒に班を作る?」


 詩帆ちゃんが声をかけてくれた。


 もう一人はどうしよう? と思った瞬間、紬ちゃんが「じゃ、紬も混ぜてなのです」と来てくれた。良かった。三人確定。

 ささっと黒板に名前を書いた。下手に二人の班が出来はじめると、せっかく作った私たちの班がばらけちゃうからね。

 でも、見事に無所属ばかりが集まった班だ。


 そうこうしているうちに、女子の班分けは完了。あれ? 由美香ちゃんがまだだ。


「昌ちゃん、私、そっちに混ぜてもらっていい?」


 由美香ちゃんを断る理由は無い! もしかして由美香ちゃん、二人だけの班が出来たり入れない子が出たときに、班を作る気だったのかな? 中二でそんなこと出来るなんて、加えてこの容姿だ、そりゃ人気あるに違いない。


「昌ちゃんとは、もっと仲良くなりたいし、村田さんとはあまり話したことが無かったから」


『話したことが無かったから』なんて……、女の子だけど『ハンサム』って評価をしたくなる。私よりよっぽど大人なんじゃないだろうか? 惚れてしまいそう。




 男子の班が決まるまでの間、社会見学の日程表を見る。


 一組と三組は、一日目は工場見学と移動、二日目は農業法人でイチゴの収穫体験。二組と四組は逆の日程だ。一日目の工場見学は長い。昼食を挟んで午後も工場を見る。


 機械メーカーの工場を見学するのだけど、レジュメを見る限り小綺麗な組立工場しか見られなさそうだ。本当は溶接工場とかが一番面白そうなんだけどな。火花が散ってると造ってる感がある。でも加工工場はいいや。切削水は臭いし。


 お弁当は要らない。それもそうか。弁当がらを持って宿泊地にってのは、生徒が一斉に洗い始めたら大変だ。

 ドライヤーも持ち込み禁止。これは女子を中心に文句が出てるが、各部屋で一斉に始めたら、ブレーカーが落ちちゃうから仕方ない。

 でも「三十分はかかる」とか言ってるのもいる。最近の女子中学生って頭を乾かすのに三十分もかけるのだろうか? そんなにかけるんだったら、三十分早起きすればいいのに。

 とりあえず私は自然乾燥でもいい。短いし。どうしても必要なら、大浴場に備え付けられてるのを使えばいい。


 ふと、母に連れて行かれた美容院のことを思い出す。

 何故か美容師が皆、伸ばすことを勧めてきた。でも、髪が耳にかかると気になる。髪を結うことや、そのためにもある程度長さが要るとか、いろいろ勧められたが、結局バッサリといったのだ。本当はもっと短くしたかったけど、女の子はこれぐらいが限度と言われ、ショートボブになっている。未だに耳や襟足に髪が触れる感覚に慣れない。




 私はレジュメに目を戻した。

 泊まりは班で一部屋。もちろん相部屋ではない。


「何で個室とか、せめて二人部屋じゃないんですかね」


 紬ちゃんがぶつぶつ文句を言う。


「十月十日後が心配になることが起こらないようにじゃない?」


「でも、いくら禁止したって、ヤルときはヤルのですよ」


「その確率も下がるし、何より防犯上ね。

 望んでするなら自業自得だけど……、そうでなかったらそれこそ大変だし」


 私が言うと「あぁ、そうか」という顔をする。

 私が言うのも変だけど、この子も無防備なんじゃないだろうか?




 そのあと、男子のどの班が私たちの班とくっつくかで、ちょっと揉めたようだ。私がいる班は、容姿のレベルが高いし。

 萌え系の紬ちゃんに、和風美人で巨乳の詩帆ちゃん。クラスの誰からも好かれる由美香ちゃん。それに私だって、見た目だけなら他のメンバーに負けてない、と思うし。


 ちなみに、向こう半年はこの班単位で、理科の実験や家庭科の調理実習なんかもするらしい。でも、調理実習はともかく実験なんかこんだけ人数いても遊ぶ人が出るだけだろうと思う。




 翌日はスポーツテスト。『前世』ではあまり体育は得意でなかったけど、今は違う。絶対的なパワーは比較にならないが、今の身体にはバネと柔軟性がある。


 種目を見ると、私が中学生だった頃とは随分違う。走り幅跳びは助走無しの立ち幅跳びになった。

 懸垂や、踏み台昇降運動という意味不明の種目は消えた。代わりにシャトルランという嫌がらせのような種目がある。




 出席番号順になるので、私は由美香ちゃんとペアを組む。

 五十メートル走は、スタートでは一歩前に出たけどコンパスの違いかトップスピードで負けた。


「へぇ、やるわね」


「でも、負けました」


「フライングしないでスタートで勝つなんて大したもんよ。バスケのダッシュは、三歩で勝負が終わるんだから」


 そういうものか。バスケはやったことはないけど、確かに球技のダッシュはスタートが肝心だろう。




 詩帆ちゃんはちょっと残念な記録だった。

 でも男子の注目を一身に集めていた。どことは言わないけど。


 女子はそんな男子を冷たい目で見ていたが、男の子だから仕方ない。沙耶香さんを見慣れた私でさえ目を奪われるんだもん。

 紬ちゃんが後ろから話しかけてきた。


「昌ちゃん、えっちな目で見てたです」


「えっちな目じゃないよ。揺れて、痛そうだなぁって」


「ウソです。視線がえっちだったです。

 もしかして昌ちゃんって、そっちの住人ですか?」


「そっち?」


「百合のです」


 うーん。もしかしたらそういうことになるのかな? 少なくとも男性に対してそういう視点を向けたことは無いけど、すてきな女の子を見ると、目を奪われるし……。実際の所はどうなんだろ?


「ちょっと、そこで黙らないでよ!

 マジなの? ガチなの?」


 詩帆ちゃんはかなり焦った顔だ。


「まだ、分かりません。恋とかは私には早いみたいですから」




 種目はどんどん進む。中でも握力は、ふっふっふ、今のところ私がトップ! 三十六キロ。一年前は利き手じゃなくても六〇キロぐらいあったことを考えると残念だけど、体重が三分の二ぐらいになったんだから仕方がない。


 でも、シャトルランだけは……、由美香ちゃんと差が付いた。


「うー……、もう少し行けるかと思ったのに……」


「でも去年まで病気しててその記録は凄いよ。

 昌ちゃんは部活しないの?」


「する時間が無いんだ。お継母さんはフルタイムで働いてるし、弟や妹はまだ小さいし……」


「そっか。ごめんね。

 私、おしゃべりの失敗が多いね」


「気にしないでよ。どうせ誰かに訊かれただろうし。

 由美香ちゃんには悪いけど、一番始めに友達になってくれたから、そういうことも一番初めなだけだよ。

 それに、多分これでネタ切れだから、もう心配は無いと思うよ」


 由美香ちゃんはいい子だなぁ。

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