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ひめみこ  作者: 転々
第七章 中学校編入
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二日目

 朝食の支度をし、日課のテレビ体操。そのままNHK教育の番組を視つつ朝食。七時を回ったところで、子ども達を『祖母』にあずけて自分の身支度。

 学校に行くことになったことで、スケジュールが『昌幸』だったころのそれに戻った。


 あれ? 携帯のランプが点滅している。

 見てみると、メールが数通。昨日送ったメールの返事が来ている。ざっと見たが「何してるの?」といった、他愛もない内容だ。

 今更返事をしても意味がないのでそのままにしておく。どうせあと三十分もしないうちに学校で会うのだ。




 自転車で学校を目指す。

 スカートの裾が頼りなくて速度を出せない。そこを男子生徒にどんどん追い越される。裾を洗濯ばさみかなにかで固定したくなる。ママチャリじゃないが、前傾せずに乗るタイプの自転車では仕方がないけど。

 男子生徒の自転車も少しスタイリッシュではあるがママチャリ風だ。『私』が中学生だった頃は、男子生徒の自転車と言えば、平行四辺形+対角線――三角形二つ――のフレームというものだったが、時代の変化か、たまにロードバイクみたいなのが混ざる程度。スポーツタイプは絶滅危惧種だ。




 学校に着いて、靴を履き替える。テンプレ的には下足箱にラブレターなんだろうけど、残念、一通も無し。もっとも、もらったところで「ごめんなさい」一択だから関係ない。


 教室に入るときは元気よく「お早うございます!」だ。挨拶は基本だね。たまたま近くに居た男子生徒――名前は覚えていない――が、「あ、おはよ」と返してくれた。

 とりあえず席に着いたが、昨日の六人はまだ来ていない。




 六人が来たのは始業ギリギリだった。

 話しかけるタイミングを見ているうちに藤井先生が来てしまい、声をかけそびれた。


 今日は身体計測と内科健診、そして委員決めを行う。午後は対面式と部活動紹介だ。私が入るとしたら文化系だ。家事もしなきゃいけないし、神子としての訓練もある。時間の拘束は少ない方が良い。


 身体計測は二年生から。当然、一組であるこのクラスが最初だ。朝礼後すぐに移動することになった。男子に混ざっちゃうという、TSものではお約束の失敗はしない。私は冷静なのだ。


 出席番号順にペアを組むので、私は川崎さんとペア。もちろんちゃんと挨拶する。川崎さんはスラリとした長身の女の子で、バスケットボール部のレギュラーだ。


「よろしく、川崎さん」


「こちらこそ」




 移動といっても、何かの演習室だったと思しき土禁の――既に内履だけどそれも脱がなくてはならない――教室に行って身長と体重を計る。体重計は予め制服の分一キロ引いてある。


 身長は百五十六センチ、体重は四十七キロ。

 半年で三センチ近く伸びてる!


 あれ? 渚は私より十センチ近く高いのに、体重は五十キロないぞ。私って実は重い? 


 ペアの川崎さんは百六十五。体重は隠してました。これじゃペアの意味無いし……。


 次は内科検診。体操服に着替える。初めから着替えないのは、着替えの時間を分散させるためらしいけど、結局クラス単位なんだから、あまり意味がないように思う。むしろ、はじめからこの服装で登校させればいいのに。


 私と川崎さんはほぼ最初に測定が終わったので、更衣室は空だ。

 いくら比売神子の混浴で免疫を付けたとはいえ、他の女子と一緒というのは緊張する。一番隅っこの棚で、壁に向かって素早く着替える。Tシャツの内側で下着を着脱なんて器用なことは出来ないから、上半身は全部脱ぐ。


「へぇ。締まった良い身体してるね。あの体重は筋肉かぁ」


「!」


 慌ててTシャツをかぶって振り返る。川崎さんは腕をシャツの中に引っ込めてもぞもぞしている最中だった。


「ごっ、ごめんっ!」


 とっさに俯いて反対を向くと。後ろから大笑い。


「女同士で何照れてるのよ!」


 あ、そうだ。そもそも、こっちが上半身を直に見られて慌ててたんだ。


「あは、あはははは。そうだね」


 照れ隠しに笑うが、多分顔は真っ赤だろう。


「小畑さんって、何かスポーツ、やってるの?」


「んー、リハビリを兼ねて、合気柔術を教えてもらってるのと、子ども、……っと、弟や妹の世話が筋トレになってるかも。

 寝かしつけるときはおんぶだから、十キロのおもりを背負って歩くようなもんだし、そのまま洗濯物を干すのはスクワットだよ」


「小さい兄弟がいるんだ」


「うん。弟は四歳。妹はもう二歳」


「ふぅん。ちょっと離れてるね。

 ごめん。細身の割に重かったけど、脇腹が締まってるから、相当に鍛えてるなって」


「いいよ。見られて減るもんじゃなし」


「見られて体重が減るなら見せるって子も居るだろうけどね。

 多分、クラスの半分は朝食を抜いてきてると見た」


「川崎さんも?」


「由美香でいいよ。

 私はちゃんと食べてきた。食べないと元気が出ないからね」


「じゃぁ、私も昌で。

 朝食は大事だよね。それに食べたって一キロと変わらないし」


 私たちはスカートを履いたまま体育のトレーニングパンツを履き、スカートを脱ぐ。これなら私でも出来る。




「長っ!」


「?」


「脚!

 こんだけ身長違うのに、腰の高さがほとんど同じってどういう事よ! 後ろから見たら外人に見えるよきっと!」


 と、私を見て、急にバツの悪そうな表情をする。


「あ、ごめん。悪気は無かったんだ。

 あんまりスタイルが良いから、つい……。

 気にしてるよね? その髪とか」


「いいよ。悪気があってのことじゃないし。それに、そこまで気にしてるなら、染めるかずっとズラかぶってるよ」


 あんまり済まなそうにするので、こっちが気をつかわせてる気がしてしまう。


「そう言ってくれて、ちょっと助かった。でも、ホントごめん」


「いいよ。気にしないで」


 この子とは仲良くなれそうな気がする。




 次は被服室で内科検診だ。ここはエアコンがかかってる。四月とは言え、校舎の中はまだ寒い。

 一応、カーテンで仕切られたところで診察を受ける。


 検診のときは互いに貴重品と記録簿を預け合う。ペアを組むのはこのためか。


「上半身裸になるのって抵抗あるよね。せめてお医者さんがイケメンだったら良かったのに」


「ん。そうだね」


 とりあえず肯定しておく。でもイケメンだったら良いのか?

 私自身は『血の発現』以後、婦人科なみの診察を受けているから、上半身裸ぐらいは平気だ。むしろ、中途半端に下着姿の方が女装を見られるような気がして恥ずかしい。意識を変えていかなきゃとは思ってるけど、なかなか……。


 医者には「それ、地毛?」って訊かれた。多分、親のどっちかが外国人だと思われてる。




 程なく、由美香ちゃんも検診を終えた。

 携帯の連絡先を交換しようと思ったら、彼女は携帯を持っていなかった。中学生はほぼ全員持ってるものと思ってたけど、そうでない人も居るんだな。

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