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ひめみこ  作者: 転々
第六章 少女としての日常
47/202

年明け 一

 元旦は町内の神社に初詣。対外的には喪中扱いだけど、実際は喪中じゃないから何の問題もないはず。とは言え、何を祈ろう?


 しばらく迷った末、家族と暮らせる希有な幸せに感謝し、皆の健康を祈った。いろいろ考えた割に去年と同じだ。来年、再来年になれば、もっと別のことを祈るようになるだろうか? 再来年は高校受験のことになるのかな?


 その日は天気が悪かったので、そのまま帰宅。

『私』が死んだことになっているので、当たり前だが年賀状はほとんど来ない。ヒマだ。

 録画しておいた年末番組も視られない。オッサンが尻をシバかれるシーンを子ども達には見せたくない。まぁ、これは保育園が始まったらいくらでも視られる。年は改まっても、結局、昨日までと何も変わらない生活だ。絵本に積み木にブロック、最近のアタリは室内用の砂遊びだ。




 翌日は渚の車で別の神社にお参り。


 この神社で『私』達は神前式を挙げた。わずか数年後にこんなことになってるなんて、そのときは想像もしてなかった。……する方がおかしいけど。


 ここは由緒があるので、参拝客も多い。まるでお祭りのようだ。

 参道の入り口には、縁日のように綿飴やベビーカステラ、あとは定番の粉もの、ソースものの屋台が並ぶ。カステラやソースが焼ける匂いは、おせちばかり食べている私の食欲を容赦なく刺激する。


 円は人混みに気後れしたのか、右手はお母さんの手、左手は私のコートを掴んでいる。一方の周は、あちこち走り出そうとする。でも、ここではぐれると大変なので手をしっかりと握る。それでも、捕まれた右手を振りほどこうと抵抗するのが地味にめんどくさい。




 参拝の行列に参加すること二十分近く、ようやく私達の番だ。十五人ぐらいが横一列に並んでお参りしている。

 二礼二拍。一度にこんなにお参りされる神様も大変だ。本当に御利益(りやく)が薄くなりそうだ。私は家族の健康を感謝するに留め、お願いは見合わせた。――神様も健康に気をつけて、なんてのは生意気か。


「何を祈ったの?」


 渚が訊く。


「祈ると言うより、感謝かな。家族が揃って暮らせることに。

 で、お母さんこそ何を祈ったの?」


「あなたが、素敵な女の子になって、素敵な恋を出来るようによ。ついでに子宝と安産」


「ちょ、それは気が早くない?」


「安産祈願はそうかもね」


「いやいや、それ以外も」


「子宝以外はすぐにでも、って思ってるんだけど……」


「いや、気が早いでしょ。

 でも、……もし、もしも、だよ。きっ、君が男になってくれたら、すぐにでも三人目に挑戦するとこ、だけど……」


「まぁ! プロポーズなみに嬉しい言葉ね。でも、そういう気持ちは運命の人に出会うまでは取っといてね。それに、身体が出来上がるまではもうちょっと待たなきゃ。それじゃ、母乳も厳しいし」


 渚が私の薄い胸元に目を遣る。……なんで視線に気づけるんだろうか?


「う、うるさいっ!」


 別に気にしてなんかいませんから。




 初詣を終え、初売りに付き合わされそうになったがパスだ。「子どもを連れては大変だよ」と言うと、実家においてくるそうだ。

 ぁー、後ろにはしっかりお泊まりセットが載っている。いつの間に……。


「私は行かないよぉ。この姿じゃ、君の実家は敷居が高いし」


「でも、私と子ども達が帰るのに、あなただけ行かないってのは(まず)いわよ。私が差別しているみたいになるし……。お母さんも会いたがってるんだから、せめて一泊ぐらいしてよ。泊まりの準備、あなたの分も持ってきてるんだから」


 用意周到なことで……。




 お義父さん、お義母さんに新年の挨拶をするが、どんな顔をしたらいいのか判らない。お義父さんもお義母さんも、笑顔で迎えてくれているけど、私は……。


「昌ぁ、初売り、行くわよぉ!」


 渚の声に、これ幸いと立ち上がる。去年までだったら、買い物に付き合わされるのは勘弁だけど、今日ばかりは救いの声だ。


「初売りに行くなんて、ちょっと女の子らしくなってきたんじゃないかしら?」


「まぁ、ちょっとはね」


 応えると、お義母さんは悪戯っぽく笑う。こういう表情は渚に似てる。




 正月にもかかわらず、国道沿いはほとんどの店が営業している。休んでいるのは車のディーラーと眼鏡屋ぐらいじゃないだろうか。


「もしかしたら、初めてじゃない? 私を名前で呼び捨てにするなんて」


「だって、家とかだったらともかく……、外は事情を知らない人ばかりなんだから。今後のこともあるし、意識して名前で呼ぶようにしてかないと」


「ま、確かに」


「ところで、やっぱり家に帰る? 実家は親戚だけじゃなく、近所の人も来るだろうし」


「いいよ。

 人が来るんならなおさら私だけ居ないのは具合悪いでしょ? 一泊はするよ」


「そう? 辛かったら言ってよ。周囲りには病気療養中で、人見知りもするって言ってあるから。さっさと寝ちゃってもいいのよ」


「ありがと。辛くなったら、なるべく我慢せずに言うよ」




 目的のショッピングモールについたが、駐車場の空きがなかなか見つからない。外れの方に行けば駐められるだろうけど、渚は買う気満々だ。運搬距離は短い方がいい。


 店内も盛況だ。正月早々……と、人のことは言えないか。渚に連れられて、靴と服を見る。

 着せ替えに付き合うこと、かれこれ二時間だろうか? お店の人も私のことを褒めちぎる。よっぽど財布の紐が緩く見えるのだろう。実際緩かったけど。


「私のばっかり、ずいぶん買い込んだね」


「いいのいいの。あなたの服を選ぶのも、私の楽しみなんだから。

 普段は地味なのしか着ないし、買い物には全然付き合ってくれないし。こんなときぐらい楽しませてよ」


「た、楽しいの?」


「楽しいわよ。あなた、スタイルがいいから大抵のものが似合うし。

 自慢の娘が周囲りから注目されるのも、親としては嬉しいものなんだから」


『親として』か。渚は強いな。




 大量の荷物を持って渚の実家に着くと、時刻は五時過ぎ。お風呂の準備が出来ているそうなので、子ども達を入れる。

 私が上がる頃には、子ども達もパジャマを着せられている。私も身体を拭き、下着を着けて頭を渇かす。この辺の作業も慣れたものだ。最後にパジャマ代わりのスウェットを着る。


 さぁ、夕食だ。

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