課せられたもの
「初めまして、小畑昌と言います。よろしくお願いします」
私は挨拶しながら、五人の美少女を前にドキドキしていた。
彼女たちも自己紹介、と言っても名前だけだ。
山崎 光紀さん
神崎 千鶴さん
牧野 直子さん
芝浦 優奈さん
森 聡子さん。
皆、見た目は中高生ぐらいだろうか。アイドル的な雰囲気がある。
『血の発現』を経ている以上、年齢は見かけ通りではない。少なくとも三~五歳上を想定すると、実年齢は十七、八から二十歳過ぎぐらいだろうか? でも、私ほど実年齢が離れているのは居ないだろう。
「では、私達は比売神子様に挨拶をして参りますので、これで」
あれ? これだけ?
沙耶香さんはすたすたとドアの方に行く。私も五人に一礼して、慌ててつづく。
「あれで、お終いですか?」
「今日は、顔合わせだから。それにいろいろ話してボロが出てもよくないでしょ」
「そうですね。
ところで皆さん、美人揃いでしたね。比売神子候補には書類選考でもあるんでしょうか?」
「『血の発現』による変容で、自分の望む姿に近付きます。それは容姿だったり、能力だったり、いろいろですが」
「それでみんな美人になるんですね。
初めて見たときは、芸能人、アイドルグループかと思いました」
「確かに、そう見えなくもないわね。
で、貴女がセンターで歌うと」
「別に、そこまでは考えませんよ。
それに私は、姿の面では性別なりの変化だったように思います」
「あら、以前の姿を美化してない? 自分大好きのナルちゃんだったんでしょ。それとも、お母さん似だから、マザコンの気があるのかしらね」
「マザコンって……。でも自分好みになるなら、もうちょっと肉感的な感じになりそうなものですけどね」
私は膨らみの薄い胸を見下ろした。つい沙耶香さんと見比べてしまう。いや、別に羨ましくなんかないですけど。
「貴女の年齢なら、それで普通よ。
それに、意識を失ってる間は何も食べられなかったし、もともと体脂肪率十パーほどでしょ? それを引き継いでるんだから仕方ないわよ。
ところで、貴女にはどんなギフトがあったのかしら?」
「岐阜?」
「比売神子の血が出た以上、何か新たな能力を得ているはずよ。
最低でも学習能力が上がるから、勉強が得意になったり、スポーツののみこみが早かったりは基本だけど」
「あ、ギフト、授かりもの。
えーと、今のところ気づいているのは……、まず、英語が聞き取れるようになりました。今は字幕なしで海外ドラマを視られます。あと、歌とダンスが上手くなりました。
って、今ひとつ微妙な……、英語以外は使いどころの限られる能力ですね」
「あら、本当にセンターで歌えるじゃない! でも、神子は元も含めてショービジネスやスポーツ選手は厳禁ですけどね。
貴女の場合、神子の力が内面に強く出ているのかも知れないわ。『血の発現』が遅く起こるほど、その傾向があるそうです」
「沙耶香さんは、どうだったんですか?」
「さぁ、どうでしょう」
あ、沙耶香さんの頬が少し染まってる。こんなのは初めてかも。
「私はね、このナイスバディよ」
本当かなぁ。はぐらかされた感じがする。
「さ、比売神子様に御挨拶です。一度会ってるわね」
「あの、お婆ちゃんですね」
私たちはミーティングルームらしき部屋に来た。つくづく本来は神社だったことを忘れさせられる建物だ。
ノックすると、程なくドアが開いた。黒スーツが控えている。室内なのにグラサンってどうなんだろ?
今回は事前に話が通っていたのか、スミスとKは無言のまま一礼し、部屋を辞した。
沙耶香さんが二言三言挨拶を交わしたので、私も続くことにした。
「こんにちは、その節はどうも有り難うございます」
「こんにちは、『小畑昌』さん。こちらへ」
比売神子のお婆ちゃんはニコニコ笑いながら、椅子を勧めてくれた。私たちが椅子に座ると、手ずからお茶を入れてくれた。
「頂きます。あ、美味しい!」
お婆ちゃんは「分かるかい。ちゃんと良いお茶を飲んだことがあるんだね」と嬉しそうだ。
「今日来てもらったのは、今後の話をするためよ。
比売神子候補として、血を受け継ぐ者として、『昌さん』にして頂きたいこと」
「はい」
「まず一つ、比売神子となれるかどうかがはっきりするまで、男女の交わりは禁忌となります。禁を破れば比売神子とはなれません」
「え? じゃぁ私はもう比売神子にはなれませんよ」
沙耶香さんの顔色が変わった。
「昌ちゃん! 貴女、いつの間にやっちゃったの? するはず無いと思ってたのに。もう男をつくったの?
そりゃ、貴女ぐらい可愛ければ簡単でしょうけど、いくら何でも早過ぎ……」
「あの、沙耶香さん? 何か勘違いしてません? 私にはそっちの気は無いですよ!
私は結婚もしてたし、子どももいるんですよ。つまり、既に交わりを……」
「あぁ、そういうこと。納得。
血が出る前のことはノーカンだからいいの。でも、今後も結論が出るまでは、男とはやっちゃだめよ」
「言われなくても、そっちのシュミはありませんって! って、『男とは』って限ったってことは、女とだったら良いんですか?」
「じゃ、今晩は私とつきあう?」
「さて、話を続けていいかしら?」
お婆ちゃんは「やれやれ」といった面持ちだ。
「もう一つのお願いは、今の『昌さん』には酷かも知れません」
「何ですか?」
「比売神子になれるかどうかに関わらず、血を残して下さい」
「?」
「子をなして下さい」
「え?」
お婆ちゃんによると、過去にも男性が『血の発現』を経た例はあるそうだ。性別の壁を乗り越えるほど強力な血によって、生まれた娘は例外なく格の高い比売神子となったらしい。
「あの……、私には既に娘がいますが」
「『血の発現』以後の子で無くてはなりません。
それは、血を受け継ぐ者に課せられた責務だと考えて下さい」
ちょっと待って欲しい。自分が子どもを産むということは、その前にすべきことがあるわけで、今の自分だとその相手は当然……。
それって、課せられるじゃなくて科せられるだよ。




