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ひめみこ  作者: 転々
第四章 比売神子の責務
30/202

課せられたもの

「初めまして、小畑昌と言います。よろしくお願いします」


 私は挨拶しながら、五人の美少女を前にドキドキしていた。


 彼女たちも自己紹介、と言っても名前だけだ。


 山崎(やまざき) 光紀(みつき)さん

 神崎(かんざき) 千鶴(ちづる)さん

 牧野(まきの) 直子(なおこ)さん

 芝浦(しばうら) 優奈(ゆうな)さん

 (もり) 聡子(さとこ)さん。


 皆、見た目は中高生ぐらいだろうか。アイドル的な雰囲気がある。

『血の発現』を経ている以上、年齢は見かけ通りではない。少なくとも三~五歳上を想定すると、実年齢は十七、八から二十歳過ぎぐらいだろうか? でも、私ほど実年齢が離れているのは居ないだろう。




「では、私達は比売神子様に挨拶をして参りますので、これで」


 あれ? これだけ?


 沙耶香さんはすたすたとドアの方に行く。私も五人に一礼して、慌ててつづく。


「あれで、お終いですか?」


「今日は、顔合わせだから。それにいろいろ話してボロが出てもよくないでしょ」


「そうですね。

 ところで皆さん、美人揃いでしたね。比売神子候補には書類選考でもあるんでしょうか?」


「『血の発現』による変容で、自分の望む姿に近付きます。それは容姿だったり、能力だったり、いろいろですが」


「それでみんな美人になるんですね。

 初めて見たときは、芸能人、アイドルグループかと思いました」


「確かに、そう見えなくもないわね。

 で、貴女がセンターで歌うと」


「別に、そこまでは考えませんよ。

 それに私は、姿の面では性別なりの変化だったように思います」


「あら、以前の姿を美化してない? 自分大好きのナルちゃんだったんでしょ。それとも、お母さん似だから、マザコンの気があるのかしらね」


「マザコンって……。でも自分好みになるなら、もうちょっと肉感的な感じになりそうなものですけどね」


 私は膨らみの薄い胸を見下ろした。つい沙耶香さんと見比べてしまう。いや、別に羨ましくなんかないですけど。


「貴女の年齢なら、それで普通よ。

 それに、意識を失ってる間は何も食べられなかったし、もともと体脂肪率十パーほどでしょ? それを引き継いでるんだから仕方ないわよ。


 ところで、貴女にはどんなギフトがあったのかしら?」


「岐阜?」


「比売神子の血が出た以上、何か新たな能力を得ているはずよ。

 最低でも学習能力が上がるから、勉強が得意になったり、スポーツののみこみが早かったりは基本だけど」


「あ、ギフト、授かりもの。

 えーと、今のところ気づいているのは……、まず、英語が聞き取れるようになりました。今は字幕なしで海外ドラマを視られます。あと、歌とダンスが上手くなりました。

 って、今ひとつ微妙な……、英語以外は使いどころの限られる能力ですね」


「あら、本当にセンターで歌えるじゃない! でも、神子は元も含めてショービジネスやスポーツ選手は厳禁ですけどね。

 貴女の場合、神子の力が内面に強く出ているのかも知れないわ。『血の発現』が遅く起こるほど、その傾向があるそうです」


「沙耶香さんは、どうだったんですか?」


「さぁ、どうでしょう」


 あ、沙耶香さんの頬が少し染まってる。こんなのは初めてかも。


「私はね、このナイスバディよ」


 本当かなぁ。はぐらかされた感じがする。


「さ、比売神子様に御挨拶です。一度会ってるわね」


「あの、お婆ちゃんですね」


 私たちはミーティングルームらしき部屋に来た。つくづく本来は神社だったことを忘れさせられる建物だ。

 ノックすると、程なくドアが開いた。黒スーツが控えている。室内なのにグラサンってどうなんだろ?

 今回は事前に話が通っていたのか、スミスとKは無言のまま一礼し、部屋を辞した。




 沙耶香さんが二言三言挨拶を交わしたので、私も続くことにした。


「こんにちは、その節はどうも有り難うございます」


「こんにちは、『小畑昌』さん。こちらへ」


 比売神子のお婆ちゃんはニコニコ笑いながら、椅子を勧めてくれた。私たちが椅子に座ると、手ずからお茶を入れてくれた。


「頂きます。あ、美味しい!」


 お婆ちゃんは「分かるかい。ちゃんと良いお茶を飲んだことがあるんだね」と嬉しそうだ。


「今日来てもらったのは、今後の話をするためよ。

 比売神子候補として、血を受け継ぐ者として、『昌さん』にして頂きたいこと」


「はい」


「まず一つ、比売神子となれるかどうかがはっきりするまで、男女の交わりは禁忌となります。禁を破れば比売神子とはなれません」


「え? じゃぁ私はもう比売神子にはなれませんよ」


 沙耶香さんの顔色が変わった。


「昌ちゃん! 貴女、いつの間にやっちゃったの? するはず無いと思ってたのに。もう男をつくったの?

 そりゃ、貴女ぐらい可愛ければ簡単でしょうけど、いくら何でも早過ぎ……」


「あの、沙耶香さん? 何か勘違いしてません? 私にはそっちの気は無いですよ!

 私は結婚もしてたし、子どももいるんですよ。つまり、既に交わりを……」


「あぁ、そういうこと。納得。

 血が出る前のことはノーカンだからいいの。でも、今後も結論が出るまでは、男とはやっちゃだめよ」


「言われなくても、そっちのシュミはありませんって! って、『男とは』って限ったってことは、女とだったら良いんですか?」


「じゃ、今晩は私とつきあう?」




「さて、話を続けていいかしら?」


 お婆ちゃんは「やれやれ」といった面持ちだ。


「もう一つのお願いは、今の『昌さん』には酷かも知れません」


「何ですか?」


「比売神子になれるかどうかに関わらず、血を残して下さい」


「?」


「子をなして下さい」


「え?」




 お婆ちゃんによると、過去にも男性が『血の発現』を経た例はあるそうだ。性別の壁を乗り越えるほど強力な血によって、生まれた娘は例外なく格の高い比売神子となったらしい。


「あの……、私には既に娘がいますが」


「『血の発現』以後の子で無くてはなりません。

 それは、血を受け継ぐ者に課せられた責務だと考えて下さい」


 ちょっと待って欲しい。自分が子どもを産むということは、その前にすべきことがあるわけで、今の自分だとその相手は当然……。


 それって、課せられるじゃなくて科せられるだよ。

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