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ひめみこ  作者: 転々
番外編
196/202

渚の告白

 早朝、お母さんと伴に二人だけで墓参りに出た。昨日は遅かったのだろう。周も円も子どもたちもまだ寝ている。

 お参りを終えると、遠くからラジオ体操が聞こえる。お盆なのに、お休みじゃないのかな?


「多分、気づいてると思うけど、優乃は『血の発現』を迎えたよ。やっぱり、産まれながら神子になることが定まってたみたいだ」


「うん、判ってた。でも、優乃ちゃんは優乃ちゃんのままで暮らせるから、きっと幸せよ」




「ところで、(なぎさ)も話したいことがあるんじゃない?」


 渚の肩が跳ねる。

『お母さん』ではなく、十数年ぶりに『渚』と呼んだからだ。


「隠さなくてもいい。きっと、祝福できるから」




「よく……、気づいたわね」


「『昌』の洞察力だよ。『昌幸』だったら気づけない」


 渚は深呼吸か、ため息だろうか、一呼吸おく。


「実は旅行先で紹介されたの。ある人が、私を後添(のちぞ)いにと。

 まだ返事はしてない。それに円も高校生だし……」


「そういう言い方をするってことは、いい人、なんだね。少なくとも君のお眼鏡にかなうぐらいの」


 渚は無言だった。


「いいんじゃない? 今までもずっと、家族の幸せのために生きてたんだし、そろそろ自分の幸せを求めても。踏み切れない理由から言うってことは、そういう気持ちもあるんでしょ?

 ずっと前に言ったとおり、『私』は祝福するし、きっと、周も円も理解してくれる」


「あなたって……、そんな言い方、ずるいわ」


「ずるいかな?」


「じゃぁ今度、私と一緒にその人に会ってくれる?」


「それは、ちょっと……。

 第一、客観的には夫の隠し子で血のつながりも無い人間だよ。それに私を見て、その『いい人』が目移りしても困るでしょ」


「ほら。やっぱり、ずるい」


 悪戯っぽく笑う。そうくるか……。


「いいよ。一度会ってみよう。ちょっと妬けるけど」


「妬けるの?」


「『ちょっと』だけね。

 私にも子どもが居るんですから。

 さて、そろそろ戻って朝ご飯にしようよ。子どもたちも起き出してるだろうし」


「そうね。でも、やっぱりあなたはずるい。悪女の才能ありよ」


 そうなのかな?




 周も円も子どもたちも、墓参りは夕方にしたようだ。

 それでもこの季節、日が沈んだ後でもなかなか三十度を下らないだろう。早朝でさえ暑かったのだから。


「周、美少女を三人連れてるんだから、責任重大だよ! 何かあったら、死ぬ気で護りなさい」


「分かってるって。

 一朝事あらば、一撃必殺! 全国大会よりも本気出す」


「ばーか。本気出したら、自分が怪我するよ。自分はクールに、適度に手加減しつつだよ。

 あと、姉さんを舐めるんじゃない。そのセリフの元ネタ、知ってるんだから」


 周は、決まり悪そうに苦笑いする。


「この辺で、俺が一緒に居て何かあったり、ましてやケンカ売ってくるヤツは居ねぇよ」


「だからだよ。それでも来る相手に対する覚悟の問題」


「難しいこというなぁ」


 私たちのやり取りに、美少女三人組はうんざりした顔。

 円もそこそこ出来るし、優乃も神子の身体能力だ。まず心配は無いだろうけどね。


「そこまで言うなら、お母さんもついてくれば良いのに」


「やだよ。暑いもん。それに夕食の支度もあるし」


 周と円、そして子どもたちは、周の運転で墓参りに行った。




 お寿司は取ることになってるけど、それ以外の料理を二人で準備する。と言っても、下ごしらえは終わっているから、温め直しと盛り付けだけだ。


「それでどうするの? 私も会おうか?」


「それは、いいわ。

 それに、せめて円が高校を卒業するまでは、親として一緒に居ないと」


「別に、私たちがここで暮らしてもいいし。

 慶一さん、早ければ来年にも大津か大阪に単身赴任だし」


「うぅん。貴女の家族まで私の都合に巻き込めないわ。

 とりあえず回答は保留。娘が大学に行ってから、家族で相談して決める、って答えようかと」


「相談は、今でもいいんじゃない? 再婚するかどうかは、そのときになってから決めてもいいし。

 とりあえず、結婚を前提としない恋人として、お付き合いから始めてもいいんじゃないかなぁ。

 ところで、どんな人?」


「いろいろ訊くわね。らしくないわよ」


「女の子は、恋バナが好きなんです」


「そうだったわね」




 紹介されたのは、取引先の専務さんらしい。同族会社だから、社長にはなれないけれども、二代目を一人前の社長になれるよう助けるのが、会社で最後の仕事とのこと。

 八年前につれあいを亡くしたそうだ。子どもは居ないものの、大学生の姪を下宿させているとか。

 小さい子どもが居て、『この子の母親になってくれ』って話だったら、どうしようかと思っていたが、そういうことも無い。


「いい人そうだね」


「あら、私の『男を見る目』も捨てたもんじゃないわよ」


「それには、どう応えたものか、ちょっと迷うとこだけど」


「そうかもね。

 うん。考えもまとまったし、今度、合って話してみるわ」


「結婚を前提としないお付き合いからでも、私は応援するよ」


「昌、あなた……、うぅん、何でも無い」


「何? そういう言い方、ちょっと気になる」


「何でも無い」




 私がいろいろと感じてること、判ってるんだろうな。

 丁度いいタイミングでエンジン音が帰ってくる。思ったより早い。きっと、お参りはおざなりなものだったんだろう。


「周、お寿司取りに行くから、もう一回、車出して」


「えー。姉さんが行けばいいのに」


手弱女(たおやめ)に、重い荷物を持たせる気?」


「どの口が手弱女だよ」


「何か言った?

 そういうこと言うなら、車、貸さないよ。それに二十歳になったら、あの車、上げようと思ってたのに」


「喜んで、お供させていただきます」


「よろしい。じゃ、行くよ」




 お盆を終えた次の週末、私は探偵の真似事。そしてその夜、お母さんに電話をかける。


「もしもし、お母さん」


「あら昌、どうしたの?」


「今日、会ったんでしょ? どうするの?」


 まぁ、知ってるんだけど。お母さんの口から聞きたいだけだ。


「円の大学進学まで、待ってくれるって」


「二人にさっさと言って、お付き合いから始めちゃえばいいのに」


「そういうわけには行かないわ。ここで暮らす以上、大人のケジメよ」




 全く、お母さんは頭が硬い。そういう堅いところも望まれた理由だとも思うけど。

 それにしても「家族と亡くなった夫を愛している君を、私は愛するよ」なんてセリフ、リアルで聞くとは思わなかった。

 慶一さんじゃ、絶対言えないだろうな。


 でも『手付け』ぐらいは、今からでもいいと思うんだけどなあ。なんだかんだ言っても、大人の恋愛では、特に男性にとっては、それも重要なんだし。

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