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ひめみこ  作者: 転々
番外編
195/202

円 姉さんの里帰り 五

「姉さん、ありがとう」


「いーえ。お安いご用だよ」


 皆を送り出したところで、姉さんの携帯が鳴る。


 出て二言三言、姉さんの表情が変わる。どうやら上の娘さんが合宿先で熱を出したらしい。

 最近は会ってないけど、父方のお祖母ちゃんに似た和風美人で、とにかく健康が自慢の元気な子だ。


 姉さんは報せを受けると、病院に連絡する。例の竹内さんのコネで、病室を押さえたみたいだ。そして兄さんにも呼び出しの電話。


「ゴメン、円。

 優乃が熱出しちゃったみたいで、今から迎えに行くよ。お泊まり会はちょっと中止で。皆に謝っといて。

 もしかしたら今晩から病院に詰めることになるかもだから、代わりに周呼んどいた。夕方までには来るだろうから、来たらコレ、渡しといて」


 現金が入った封筒だ。結構、厚みがある。

 姉さんを見ると「電車賃と食費とバイト代」って、それにしては多すぎないかな? 後で、分けて貰おう。


「あと、奏ちゃんも連れてきたら、夜は自重しろって言っといて」


 自重って……、思わず顔が熱くなる。姉さんはこういうときにも平気でシモネタ放り込むんだから。

 そりゃ、歳取ると慎みが無くなるって言うけど、せっかくしゃべり方を見た目に合わせてるのなら、そういう所も合わせて欲しい。


「私なら大丈夫だから、早く行ってあげて。

 あと、そういう話は直接兄さんにしてよ」


「そうだね。あと、呼び鈴が鳴っても、ドアを開ける前に手を見せて貰うこと!

 白い手ならいいけど、オオカミさんは入れちゃダメだからね」


 姉さん、そんな冗談を言ってる場合じゃ無いのに!

 子どもが熱を出したというわりに、あまり慌てていない。それとも、慌ててるからあえてそういうことを言ってるのかな?




 三時間ほど後、姉さんから着信。

 結局、優乃ちゃんはそのまま入院することになったらしい。何でも、急性腸炎と熱中症が重なって、しばらくはベッドで点滴暮らしとのこと。


「悪いけどさ、周が帰ってきたら、ディスクをビデオ屋さんに返して来てって言っといてよ。あと、ディスクがちゃんと揃ってるか、確認も」


 あのラインナップを、弟とは言え男子に確認させるんだ……。


「それは、分かった。

 ところで、優乃ちゃん大丈夫なの? 腸炎と熱中症って、脱水症状とか起こしてない?」


「今は点滴受けて寝てる。円の言うとおり、脱水と発熱さえ注意すれば大丈夫だって。大事を取ってしばらくは入院だけどね。

 心配してくれてありがとう」


 と、呼び鈴が鳴った。ドアカメラには兄さんともう一人の姿。


「兄さんが来たみたいだから、また後でね」




「兄さん、お帰り。奏さん、お久しぶりです」


「急いだら、カギ忘れちゃって。姉さんも円も電話が繋がらなくて困ってたんだよ」


「ちょうど、姉さんと電話してたとこ。優乃ちゃんは入院だけど、あの口ぶりなら大丈夫そう」


 今度は兄さんの電話に着信。「あ、姉さんからだ」


「もしもし。今、家に着いたとこ。

 ……うん、分かってるって。

 お、それは助かる」


 多分、預かった封筒の話だろう。そして予想通り兄さんが顔を赤くして慌てる。大体何を言われてるか予想が付くけど……。


 電話を切って、兄さんはため息。


「とりあえず、ビデオ屋さん、行ってくるわ」




 結局、優乃ちゃんは十日ほど入院したらしいが、お盆には元気な姿を見せてくれた。でも、久々に見たら、かなりのイメチェン。この年頃の女の子は、一年でも結構変わる。


 入院で痩せたのか、全体にほっそりとして、後ろ姿は姉さんを二回りほど小さくした感じだ。でも、一番変わったのが目元。

 前からもぱっちりとした目だったけど、一重だった目が二重になってた。まさか入院ついでにプチ整形でもしたの?

 そして、入院中は外出できなかったせいか、元々色白だったのが更に白く。夏休みだというのに。

 姉さんと並ぶと、母娘と言うより姉妹みたいだ。


 優乃ちゃんは、退院するころから柔術も始めたらしい。大隈先生や、姉さんよりも強いという竹内さんからも手ほどきを受けているとか。病院で知り合った縁だという。

 でも、大隈先生はともかく、竹内さんは怖そうで、私はちょっと苦手かな。




 お盆が明けたら、再び補習。


 お泊まり会以来、優衣ちゃんはもちろん、亜紀ちゃんも凛香ちゃんも家で食事の用意をすることが増えて、特にお母さんが喜んでいるそうだ。

 そして、特に凛香ちゃんが「やっぱ、食事って、大切だよねー」と。訊くと、お泊まり会以来、野菜中心のお惣菜を自分で作って食べているおかげで、本人も妹もお母さんも、お通じと肌の調子が良くなって、体重も少し落ちたとか。

 優衣ちゃんも「考えたら、円んも昌おねーさんも、普段から美容食食べてるみたいなもんだよね」と。

 姉さんを目標にするとか。




 でも、お盆でうちに来たときも、毎晩のように、ときには昼間からサバ缶をアテに呑んでた。この姿を見たらなんて言うだろう?

 見た目だけなら目標にしても良いけど、そういうところは真似しない方が……。お泊まり会が一泊で終わって良かった。

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