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ひめみこ  作者: 転々
番外編
194/202

円 姉さんの里帰り 四

「何から作る?」


「つみれ!」


 亜紀ちゃんは、あれがよほど気に入ったみたいだ。


 材料は、鶏胸の挽肉、ネギ、ショウガ、卵。あとは酒、ミリン、醤油。皆は「意外と少ない」という印象を持ったみたい。

 ネギをみじん切りにし、ショウガを下ろした絞り汁を準備。結構多い。

 フライパンに油が温まる前にネギを半量入れ、香りが移ったところで肉も半量入れる。火が通りだしたところで、ショウガの絞り汁、酒、ミリン、醤油を入れて更に炒め、そぼろにする。

 それをすり鉢で擦ってペースト状になったら、残りの肉、ネギを生のまま入れて擦る。つなぎに卵も混ぜる。

 みんなはこのドロドロに不安そう。私も一度見ていなかったら、固まるのか不安になるだろう。


 出汁に薄めの味をつけて中火にしたところに、ペーストを団子にしては入れる。手の上ではかなり歪なのに、出汁の中に入ると案外丸くなるのが不思議。

 しばらくして団子が浮き上がってきたら、落とし蓋をして弱火で煮含める。

 擦るという手間はあるけど、予想外に早くできる。




「次はサイドメニューね。煮浸しと、切り干し大根。どっちも油揚げ使うからまとめていくよ」


 油揚げを細切りにする。一方のフライパンにやはり酒、ミリン、醤油で濃いめに味付けした出汁を張り、油揚げを煮詰める。

 もう一方は、ゴマ油でニンジンを炒めた後、切り干し大根、干し椎茸、油揚げ、出汁を足してやはり煮詰める。こちらの味付けは煮詰まってきてからだ。


 それぞれ粗熱を取り、油揚げはホウレンソウ、モヤシと和える。それと平行して、きんぴらゴボウや白菜のお浸しも。つみれを一つ崩して、汁と伴に白菜のお浸しに和えている。姉さんの料理は、出汁とか材料の使い回しが案外多い。

 見ているうちに副菜の数が増え、いつの間にか下ごしらえに使った器などが洗われて行く。この辺の手際の良さは主婦歴の長さだろうか。




 ホイル蒸しは普通通り。塩を振って出てきた水分をキッチンペーパー除き、あとはタマネギやシメジ等の具材やバターと伴にホイルで包む。包み方がお店みたいだ。


 一通り下ごしらえを終えると、姉さんは「先、お風呂入っちゃうねー」と脱衣所に行ってしまった。




「円んのお姉さんって、手際がすごいよね」


 凛香ちゃんは感心しきりだ。「お金取れるレベルだよ」とも。亜希ちゃんから見てもそうってことは、かなりのレベルなんだろう。訊くと、全て目分量で作った後、味見して微調整というのは、なかなか難しいらしい。


「そうそう。味見しているうちに舌がバカになっちゃって、何が足りないんだか分からなくなるよねー」


 優衣ちゃんは家でも料理をしているだけに、その辺は実感がこもっている。


「でも、健康に良さそうなメニューだよね。円んの食事って、いつもこんな感じ?」


「うん。大体、こんな感じ。普段はここまで品数は無いけど」




 話していると脱衣所から姉さんが顔を出す。もう上がったみたいだ。


「円ぁ、鮭をそろそろオーブンによろしくー」


「姉さん! そんな格好で顔出さないでよっ」


「ゴメンゴメン。髪を乾かしたら服着るから」


 そう言って引っ込むと、程なくドライヤーの音。それもしばらくで止み、姉さんが出てくる。七分丈のパンツとタンクトップ。お客様の手前、下着はきちんとしているみたいでちょっと安心。昨日の夜はトップが透けてたし。あれは、私でも目のやり場に困る。

 でも、経産婦で二人も母乳で育てたというのに、カップの割に控えめなトップがツンと上を向いている。どうやってあの体型を維持してるんだろう?




「さ、食べよか!」


 姉さん、「呑もうか」の間違いじゃない? 手に持ってるのは冷酒の瓶。

 私が慌てて今日作ったものと、昨日の残りのサラダを出すと、姉さんもきまりが悪かったのか、菜箸や取り皿を並べ始めた。


「みんなも呑む? 冷酒もあるしカクテルとか酎ハイもあるよ。ビールとかブランデーが良ければ、祖父(じい)ちゃんのところから貰ってくるし。

 円は梅サワーだよね」


 結局、全員の前に呑むためのグラスが並ぶ。優衣ちゃんと凛香ちゃんは甘いカクテルだけど、亜紀ちゃんだけはビールを所望。姉さんが「キリンとアサヒ、どっちが良い?」と訊くと、「キリン」

「うちのダンナと同じだ」と言いながら取りに行った。


「ビールって、メーカーで違うの?」


「違うよ。お父さんのお店でも、キリンを出してるから、そっちの方に慣れてるの」


 そう言えば「一番搾り」ってノボリがあった。


 程なく全員揃って乾杯し、食べ始める。やっぱり美味しい。皆も「美味しいね」と舌鼓を打つ。

 亜紀ちゃんはやっぱりつみれが気に入ったようだ。優衣ちゃんも「今度、家でも作ろう」と張り切る。姉さんもそれに嬉しそうだ。




「と、ところで、お姉さん」


「ん? 『昌』って名前で呼んでくれればいーよ」


「じ、じゃぁ、昌、さん? 風呂上がりに、またお化粧されたんですか?」


「してないよー。って言うか、普段からしてないし。

 そりゃ、(かしこ)まった場ではリップぐらいはするけど、基本ノーメイクだよ。それに私、お化粧下手だし」


 全員が顔を見合わせる。それもそうか。皆、プライベートではなんだかんだで薄化粧してる。私がノーメイクだってことにも驚いてたぐらいだし。


「普段、手入れとか、どんなことに気をつけてるんですか?」


「保湿以外は、特に。

 とにかく、刺激を与えないことかな。日に当たらない、乾燥させない、化粧もしない。

 随分前に、私の友だちも言ってたけど、お肌の健康には引き篭もりこそが最強、なんだって。

 あ、あれも食べなきゃ」


 何かと思えば、昨日のサバ缶の残り。毎晩、サバ缶をアテに晩酌してる。見た目だけはこの中で一番若い美少女なのに、やってることはオッサンだ。




 一応、後片付けは私たちがすることとなり、その間、姉さんはビデオ鑑賞。アニメは私が止めたから、海外SF映画だ。例によって冷酒を呑みながら。


 そして、交代でお風呂タイムだけど、優衣ちゃんが終えて凛香ちゃんが入ろうというとき、姉さんが「着替えさせて」と脱衣所へ。

 幸い、凛香ちゃんは脱ぐ前だったけど、そこで姉さんはパジャマに。




 姉さん、その後のパジャマパーティからは、さっさとお暇して寝てしまったけど……、話題は当然の如く姉さんのこと。


「昌さんって、脱ぐとすごいね」


「うん。すごかった」


 優衣ちゃんと凛香ちゃんがしみじみと言う。見てない亜紀ちゃんは怪訝な顔だけど、訊くと、パジャマに替えるとき、二人の前でパン一になったらしい。

 だろうなぁ……、と思う。身内の私でさえ、姉さんのヌードには驚かされるもん。

 そして、話が進むにつれ亜紀ちゃんまで「私も見たかった」と。


「後ろ姿は、明らかにアスリートな感じだよね」


「そうそう。インハイの陸上選手みたいな感じ」


「でも胸がすごいの。大きさは普通かちょい大きいぐらいだけど、形が日本人じゃないよね。もう、ゲームとか深夜アニメのキャラか? って感じ」


 優衣ちゃんらしい喩え方だけど、言ってることは伝わる。でも、あの胸、半分とは言わないまでも、三分の一ぐらいは筋肉なんじゃないだろうか?


「円ん、お姉さんって、なんかスポーツしてるの?」


「うーん、合気柔術を中心に、格闘技をいろいろ。私もしてるけど、そこの大隈先生も、姉さんにはもう(かな)わないって。

 あと、兄さんが一度中学生のとき姉さんを怒らせて、ボコボコにされたけど、兄さんに言わせると、今でも勝てる気しないって」


「周先輩が?」


「……うそ」


「兄さんに言わせると、人間のレベルを超えてるって」




 翌朝はいつの間に作ったのか炊き込みご飯。薄い出汁にショウガと油揚げ。姉さんによると、北陸で食べたのが美味しくて真似したらしい。

 夏場の食欲が落ちるときとか、冬場でも身体が温まるから健康にもいいらしい。

 そして、出汁殻を甘辛く炒めて、ゴマ、山椒を加えたふりかけ、豚汁風の味噌汁(でも野菜と油揚ばかりで肉は無い)や出汁巻、昨日の野菜中心の惣菜……。

 皆も「美味しい美味しい」と食べる。そして、朝からこんなに食べたのは久しぶりと。

 私は朝からご飯だけど、普通の女子高生で、朝からこんなにガッツリ行く人は少数派だろう。




 朝食後は姉さん監督の下、夏休みの宿題を皆で進める。そして、お泊まり会を延長することに。


 お昼を前に一旦帰宅して、もう一泊の準備をすることになった。

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