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ひめみこ  作者: 転々
番外編
188/202

男の夢

 物語前半の区切り直前(第十~十一章あたり)に、入れようかと思っていましたが、劇中では昌ちゃんの意識はより変化していたので、少なくとも友達とこういう会話はしなかっただろうと思われ、投稿しなかったものです。

 もちろん、内容自体もジェンダーの分野では、危険球を放っているため、批判されるかもという意識がはたらいたこともあります。


 もともと、この小説を書くにあたって、男女間で意識の違いが生ずる要因を考察したときに、この項目だけでも案外いろんなことに説明がつくので、劇中に盛り込もうと思っていました。

 実際、通過儀礼後の回で、留美子ちゃんとの会話に少し入っています。


 エピソードとしては上手く落とし込めずにいましたが、お蔵にするのも惜しいと思い、ここに上げてみます。


 ただし、特に女性の視点だと、利己的遺伝子説を借りたアプローチや、そこからの結論めいた内容は、受け容れ難いと感じる人もいるかと思います。

 読まれるにあたっては、こういう考え方もある、と相対化していただければと思います。

 今朝もいつもの朝。教室に入ると、男子が四人固まって楽しそうにヒソヒソ話をしている。小声で「おー」とか笑い声も。スマホで動画を視ているようだけど……、何だろう?


 覗き込むとゲームの宣伝映像だ。肌も露わな少女が登場するもので、いろいろ揺れるのがウリだ。

 その一団は私の視線に気づいて取り繕おうとするけど、まぁ手遅れだ。そこまで大げさなリアクションをとらなければ良かったのに、アレじゃぁバレバレ。

 中二ともなればああいうのを見たい気持ちが理解できるだけに、覗いたこっちも悪いことをした気になる。




「男子って、お馬鹿ですね」


 紬ちゃんはスマホを片手に、半ば軽蔑した一瞥を送る。この一瞬で検索してその動画を見つけてる。どうやって検索してるんだろ。


「男の子だもん。しかたないよ」


「おー。昌クンは大人です」


「でも、実物はこんな風には揺れないけどね」


 うん。詩帆ちゃんが言うと説得力がある。


「そうですよ。この乳袋には何が入ってるんでしょうかね?」


「男の夢じゃない? こんな風に揺れて欲しいっていう」


 詩帆ちゃん、毒舌。


「まぁ、男の子はそういうもんだよ。

 もう少しレベルが上がったら、あんな直接的なものより、チラリズムとかメタファーにエロスを見つけられるんだろうけどさ」


「おー。さすが昌クン、この分野では尖った発言なのです」


 なんか、それって私が変な性癖を持ってることにならない? 確かにそう言えなくもないのだけど……。




「でもさぁ、ああいうのを見てるのは、ちょっとねぇ」


 詩帆ちゃんは普段からそういう視線に晒されているだけに、この分野では冷ややかだ。


「仕方ないよ。男子と女子じゃ、性欲の方向性が違うもん」


「合宿に続いて、昌クンの恋愛講座ですね」


 紬ちゃんは、こういう話が好きだ。




「要するに、イエスノー枕で言えば、男はノーにする理由が無い限りイエスで、女はイエスに出来る理由が無い限りノーなんだよ」


「イエスノー枕って……」


 詩帆ちゃんの呆れ顔はおいて、私は説明を続けた。


 哺乳類は、オスは何頭のメスとでも交尾できるけど、メスが妊娠出産できる回数には限りがあるし、そのコストも大きい。

 遺伝子を高い確率で残すためには、オスは交尾する機会を可能な限り活かすのが最適解だけど、メスは生き残れる遺伝子を持っている、あるいは妊娠出産や育児のコストをより負ってくれるオスを選ぶことが重要だ。


 恋愛を生殖行動の過程と考えれば、オスはどう交尾に持って行くかに重点があり、メスは貴重な繁殖機会をこのオスの遺伝子に使うかを見極めることに重点をおく。

 プレゼントなどでメスの気を惹く行動は、ヒトに関わらず、多くの動物で見られる行動だ。


「昌ちゃん、恋愛に夢見てるわりに、そういう所は冷静だね」


「別に、恋愛に夢は見てないし」


「見てると思うですよ」


 と言うより、恋愛できるのかどうかも判らないのだけど……。私は本当に夢を見られるのかな?




「だから、女子は他人の恋バナや、ドラマでも恋を実らせる過程の話が好きだけど、男子は他人の交尾映像だけ(アダルトビデオ)でも興奮するわけ。

 結局、興味の方向が、遺伝子を残すために有利になるよう最適化されてるだけで、女子が恋愛ドラマ視たり恋バナをするのと、男子がエロビデオ視たりエロゲの話をするのは、本質的には同じことなんだよ。きっと」




 詩帆ちゃんは絶句。紬ちゃんも「うっげぇ」な顔。

 しまった、ドン引きだ。女子の話題じゃない。


「むりやり納得というか、説得力あるですけど……、昌クン、そういう話って、どっから仕入れるですか?」


「こ、これは、……お父さん、から」


「昌クンのお父さんって、娘にそういう話までする人だったのですか……」


「ま、まぁ、きっと、昌ちゃんのことが心配だったんだよ。そういう目で男性を見られれば、リスクの高い行動は避けるだろうし」


「「「……」」」


 何となく気まずい。




「おっはよー。

 あれ? 三人ともどうしたの?」


「あ、由美香ちゃん、おはよう。もしかして、朝練?」


「朝練じゃないけど、ミーティング。大会も近いしね。

 ところで、何の話、してたの?」


 うーん、答えにくい。


「り、利己的遺伝子説に基づく生物の繁殖戦略の考察、かな?」


「へー、難しいこと話してたんだね」


「まぁ、そんな感じで」




 朝礼中も、さっきの話を思い出す。


 そうなんだよね。女性は基本(デフォが)「ノー」なんだ。だから、ノーなことの表現は、視るのもノーだし、そもそも、それを表現の対象とすることさえノーな人も居る。恋愛ドラマや恋バナ(「イエス」なこと)エロビデオ(「ノー」な表現)を同列に扱うのは、生理的に受け付けないかもしれない。

 このあたり、私の感性はまだまだなんだろうなぁ。

 今は、『前世』の意識がそれを「ノー」にしているけど……、いずれは……。

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