表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひめみこ  作者: 転々
最終章 新生活
180/202

嫁ぎ先で

 買い物から帰ると、料理の支度だ。


「中学生の頃から家事をしていたそうだけど、どれぐらいかは見とかないとね」


 三十ほどの女性からすれば、この見た目の私がどれだけ出来るか、少し疑わしいだろう。それでも、買い物での野菜の選び方で、見る目を少し変えてくれたようだけど。


 お義母さんの料理とバッティングしないよう、切り干し大根の煮付け、ゴボウのきんぴら、大根と厚揚げの煮物という選択。

 例によって鍋で昆布を水に戻す。そして、小鉢で干し椎茸を一つ水で戻す。さぁ、下ごしらえだ。


 大根は、先の方の辛い部分は大根おろし用に残し、輪切りにした後で皮を桂剥きにする。煮崩れしないように面取りをし、隠し包丁を入れる。

 家ではピーラーで剥いて、イチョウ切りにするけど、初回だから少し気合いを入れるのだ。

 それを寸胴鍋で水から茹でる。アクを絡め取るために米粒もおちょこに半分ぐらい。


 それと平行して、昆布出汁をとる。戻し時間が短かったので、弱火で三十分以上かけて加熱することになる。

 ここでしばらくは待ちになるので、買ってきたゴボウを全てささがきにしてあく抜きをする。また、ニンジンと薄揚げも細切りにしておく。


 お義姉さんに米粒の意味を訊かれて、アク抜きのことを教えた。本当は米の研ぎ汁を使うのだが、今回はその代用だ。

 私が案外、料理のことを知っていることに加えて、包丁の使い方でお褒めの言葉を頂いた。


 出汁が十分出たので、昆布を引き上げて沸騰させる。今度は八宝出汁を入れて三分ほど煮出し、干し椎茸の戻し汁も入れる。

 今回は煮物と切り干し大根用なので、味付けまでしてしまう。旨みはだしの素も使うけど。


「へー、手際がいいわね」


「いつもしていることですから。味見をお願いできますか?」


「おぉう! 何と上品な!」


 でも、高橋家の味はもう少しミリンと醤油が多めになるようだ。


「私やお母さんならこれでいいけど、お父さんは物足りないかも。

 でも、健康のことを考えるとこっちの方がいいわね。お父さん、ちょっと血圧も高いし。

 お母さんの言うことはなかなか聞かないけど、かわいい娘の言うことなら聞くかもだから、これで行きましょ」


 そのまま切り干し大根ときんぴら、煮物を作り、粗熱を取る。明日のおかずだ。




 今夜は、仕出し屋さんの食事になる。お店に行った方がいい気がするのだけど、お義母さんがあまり外食をしない人らしい。そしてお義父さんと慶一さんも、コースで順番に食べるよりも、一度に全部並べて、それをアテに飲むのが好きという我が儘な理由。


 日も沈み、慶一さんとお義父さんも帰ってくる。

 慶一さんには「お帰りなさい」、お義父さんにはお義母さん同様、「不束者ですが……」の挨拶だ。




 料理が届いたので、仕出しの平たい木箱を持とうとしたら、お義姉さんからストップがかかった。「妊婦さんにはこんなの持たせられません」とのこと。この程度の重さは大したことないけど、ものを持って立ったり屈んだりは避けた方が良いと。


 私は椀の蓮蒸しに、銀杏と椎茸を乗せて餡をかける。これは慶一さんのリクエストだ。きっと、私と初めて食事をしたときにこのメニューを知ったことを、話題の一つにするつもりだろう。

 美味しいもの、それが初めての食べ物なら、食事の話題としてはいい選択だ。


 ご飯とお吸い物以外がテーブルに並ぶと壮観だ。

 ホームパーティが出来そうな大きなテーブルは、これが目的だったのか。前回はお昼ご飯だったから、ここまでの品数じゃなかった。




 食事が始まると、やはり蓮蒸しが物珍しく、慶一さんの作戦は大成功!

 お義姉さんは無論、意外なことにお義父さんも初めて。お義母さんも、知識としては知っていたけど食べるのは初めてで、食べたことがあったのは、お祖父ちゃんだけだった。それも、神子に柔術を教えに行ったときだ。

 その流れで、私が月に何度かは神子の指導のために出ることを話すことに。

 この件についてはかなりぼかした内容だったが、それでも他言無用の前置きだ。

 正直なところ、特に義両親に対してどのタイミングで、どれぐらい知らせるか迷っていたことなので、私としてはとても助かる。


 昭和初期から『比売神子』が開店休業状態になり、昭和も後半になる頃には、財界の要人や閣僚でも比売神子について知る人は少なくなっている。『比売神子』に会ったことがあるのは、私人ではお祖父ちゃんが最終世代であろうことも話した。

 この辺は、下手に隠すより、知っても大した意味が無い範囲で伝えてしまった方が良いという判断だ。




 後日、お義姉さんに『格』について訊かれ、具体的に感じてみたいという話になり実演することに。お祖父ちゃんの全力の半分ぐらいで、何となく判ったらしい。


「お祖父ちゃんは、この倍ぐらいでしょうか。比売神子の最低ラインがお祖父ちゃんの三倍から五倍です」


「慶一はどこまで聞いてるの?」


「今、お話ししたこと以上は……、具体的に比売神子や元神子と会った程度でしょうか。

 あと言いにくいのですが……、お腹の子は、私が女児を産めば、ほぼ確実に神子になります。私の『格』を数字にしたら、普通の比売神子の倍じゃきかないので」




 ちなみにこの会食以後、高橋家の食卓では揚げ物が増えた。過熱水蒸気のスチームオーブンで温め直すと、特に海産物のフライが美味しく仕上がるのだ。

 お義姉さんからは「全国で美味しいものを食べ歩いてる人は、道具まで贅沢ね」と言われることに。




 その日はお客さん扱いで、客間に布団を敷いて寝ることになった。明日は早い。神前式やその後の食事会とは違って、新郎新婦は疲労宴になるに違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ