表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひめみこ  作者: 転々
第二十章 新生活に向けて
174/202

二転三転

 初めは、披露宴が終わったら慶一さんの家族と同居するという話しになっていたけど、まずはリフォームということで、私たちは仮住まいになりそうだ。

 いろいろと話し合った結果、まず第一期工事として義両親が生活することになる離れを整備し、そちらに生活を移してから、私たちが住む母屋の工事となる。


 打ち合わせには、この家を建てたハウスメーカーの営業担当と設計士も加わった。まず挨拶を交わし打ち合わせが始まる。ここで私が「若奥さん」と呼ばれることに。ちょっと照れる。

 でも、呼ばれる度に笑みがこぼれてしまう。きっと、こういうのを『嬉し恥ずかし』と言うのだろう。




 閑話休題。

 計画を含めると、一年越しの事業となるので、その間は仮住まいが必要になる。というわけで、しばらくはマンション暮らしだ。


 このマンション、今は会社の持ち物だけど、慶一さんが一時買い上げることになる。そして、私たちが出た後はお姉さんの持ち物になる――それまでに結婚していなければ――予定だ。


 立地としては、慶一さんの勤め先に近く、私の実家にもそこそこ近い。電車だと少し不便だけど、車で移動する分には何の問題ない。さすがに、スープが冷めない距離、と言うほどではないけど、日常的に料理を届ける程度なら十分だ。


 そして、産科を持った総合病院も近くにある。沙耶香さんと産婦人科の先生――堀口さんというらしい――も、一時出向というか、転籍というか、そこに詰めてくれる。

 十月以後はこちらで診察を受けることになっている。ここなら、実家からでも車なら近い。


 そういう事情もあって、沙耶香さんと慶一さんが相談して選んだ立地だ。

 でも、医療従事者の転籍ってそんなに簡単なのだろうか? どうやったんだろう?




 実際にそこに住めるのは、式や披露宴も終わった十月も中旬からで、それまでは実家暮らしの予定だ。

 私としてはアパートより実家暮らしの方がいろいろ楽だけど、それだと慶一さんが気を使うだろう。それに、出産後アレが来てアレが解禁になったら、実家だといろいろ都合が悪い。




 式の準備は指輪も含めて順調に進む。貸衣装の振袖を除いて。


 結局、私に似合う振袖は見つからなかった。

 とは言え、黒留袖というわけにもいかない。それ以前に仕立ても間に合わないけど。

 迷った末、着付けとヘアメイクを担当する方に投げることに。私にはどれを選んでも差が無いように見えるし、慶一さんはこの辺の感覚が私より更に落ちる。

 まだしもプロの肥えた目で、というわけだ。


 冗談で「ニチアサヒロインの衣装の方が似合いそう」と言ったら、スタッフさんも「そうねぇ」と言う。その挙げ句「じゃぁ、新郎さんにはタキシード仮面でもしてもらいましょうか? 番組は違うけど」と。このスタッフさんはそっちの世代だった。




 逆に順調だったのが、新居――仮住まい――用の家電。

 過熱水蒸気を使うアレは欠かせない。レンジ機能は加熱ムラがあって微妙だけど、揚物の暖めはコレ一択だし、焼物、蒸物も出来る。正直、IHについている魚焼きグリルは使いたくないんだよね。手入れは面倒くさいし、臭うし。

 炊飯器は、ちょっとお高い水蒸気を出さない機種。オーブンは食パンを四枚同時に焼けるサイズ。この辺は妥協できない。ケトルはごく一般的なもの。


 洗濯機は、慶一さんが大容量のドラム型にこだわった。毛布も洗えるのはいいとして、節水タイプは排水が詰まりやすい。詰まりを避けるために流し濯ぎをすることになるから、節水の意味が無い。


 オーディオは、多分置いていくことになるから妥協した。普通の液晶テレビ――一応低遅延のゲームモード付――とHDDレコーダにCDラジカセ。カセットテープは使えないけど。


 全て十月の第一週に、仮住まいに届けてもらう手配をした。




 寝具は初めからいいのを選ぶ。特注のスノコベッド。フレームはウォールナットの集成材で、そこに厚みのある桐の板を入れる形。展示されているのは、板の面積が広いけど、私たちのは特注品で、通気性を優先。その分、板は厚く重量もかさむけど。


 こういうのを選んでいるときが幸せだ。

『初心忘るべからず』と言うけど、こういう気持ちを忘れないで毎日を送れればと思う。




 その間も夏休みの宿題を手伝ったり、神子の合宿に参加したりと、結構忙しい日々を過ごす。

 そして、最近はなかなかの頻度で光紀(みつき)さんが遊びに来る。

 一度など、由美香(ゆみか)ちゃん達の宿題を見ていたら「近くまで来たから行くよー」と電話が有ったと思うと、十分もしないでやって来た。

 光紀さんは年代も違うのに、普通に由美香ちゃんや(つむぎ)ちゃんと打ち解けてしまう。詩帆(しほ)ちゃんだけは遠慮があったのだろう、最後まで微妙に距離感があった。

 それでも、三人を護身術講座に上手いこと誘っていた。




 今後の予定についてお母さんに話すと、「式を挙げたら、家を出るべき」とのこと。私と暮らすのが具合悪いのかと訊いたら、結婚したら、義両親と同居する期間をなるべく早く設けた方が良いと。


「正直なことを言えば、貴女がこっちに居てくれた方が、私にとって都合がいいのも確かよ。

 仕事から帰ってきたら、献立を決めてあって、夕食の下ごしらえが終わってて、洗濯物もたたんであって……、要するに『おさんどん』をしなくていいのは助かるのよ。


 でも、この間お会いしたときも、明らかにお姑さんと距離があったでしょ。あれ、このまま放置したら大変よ。順当に行けば、お祖父ちゃんの方が先に逝くんだから」


「つまり、同居できない理由が無い限りは、同居した方が?」


「そう。

 そうしないと、タイミングを逃すことになるわ。

 特にお姑さん、専業主婦でしょ。本当の意味で社会に揉まれたことが無いから、余計に貴女への当たりが強くなるわよ。貴女を認めさせることはしないと。

 リフォームの工事自体はまだなんだから、それまでの間は同居した方がいいと思うわ」


 うーん。そういうものか。変に衝突してくるようなら『格』で一発かませればって思っていたけど、そういうわけにもいかないか。


「解った。今週末にも、慶一さんと相談する」


「その方がいいわ。こういうの、初めが肝心だから」


 お母さん、こういうところまで考えていたんだ。こういうことを判断できるのが、ちゃんとした大人の女性なんだろうな。




 金曜夜に慶一さんとその件について話し合う。実際のところ、慶一さんもそういうことは実感が無い。でも、その分野での先輩の言うことは重みが違う。




 準備期間が要るとのことで、式の翌日とはいかなかったが、披露宴の前日から、義両親と同居することになった。家財道具が無いので、しばらくはお客さん扱いだけど。


 冷蔵庫と洗濯機を除く白物家電を、納期を前倒しして引き取りに行き、台所に並べる。食器類も、短期間なので百円ショップで揃えた。

 近くにはショッピングモールもあるし、実家も車で一時間程度。必要なものが出る都度、動けばいい。




 いよいよ式の日が近づく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ