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ひめみこ  作者: 転々
第二十章 新生活に向けて
171/202

前撮り予約

 加賀見さんと別れて、私たちはフォトスタジオへ向かう。とりあえず、撮影プランと日程だ。


 二人で手をつないで歩く。私たちは、周囲りからどう見えているんだろう。ちゃんと恋人同士、あるいは婚約者同士と見られていればいいけど。




 フォトスタジオの扉を開けると、空調の空気が心地よい。慶一さんが「電話で申し込んだ高橋です」と、受付のお姉さんに言う。


 私は、壁に飾ってある赤ちゃんの写真に見入ってしまう。

 ここでは七五三や百日参りの写真も撮っているようだ。店内に飾る写真は特に出来が良いのだろう、どの子も天使のような笑顔だ。




「あちらが、ご婚約者様ですね」


 その声で我に返る。私も受付の方へ行き、帽子を取って挨拶すると、やはり私の髪色や外見は驚かれる。


 その後、雑談交じりにプランの紹介。やはりプロだ。雑談を上手く交ぜてくる。

 話していて、お姉さんが私の年齢が十九であることに驚く。これはどっちだろう? 十代でデキ婚ということになのか、私が十九に見えないということなのか。

 雑談に上手く乗せられて、いろいろ話してしまう。妊娠したので学校――高校とは言っていない――を辞めて育児に専念し、一段落したら改めて大学を受けようと思うとか……。


「旦那様、責任重大ですね」


 お姉さんが笑いながら言う。


 話はプラン選びに進む。

 式自体が神前式であることを伝えると、洋装の結婚写真をメインに据えることを勧められる。あとは、細々(こまごま)としたスナップ的なものや結婚指輪の写真、そして一応、和装も入る。

 なんだかんだで、メイクと着付けも含めたフルコースだ。


 その後、プランの申込書に慶一さんが書き込む。内容に、お姉さんは少し驚いた表情。慶一さんの勤務先はそこそこ名前が通っている上、本人も一応は取締役の一人だ。




 衣装合わせに二階へ行く。本番ではここでメイクと着付けもして貰えるらしい。

 ずらりと衣装が並ぶ。普通の礼服から、モールと飾緒がついた軍服みたいなものもある。小道具にはサーベルとか……。コスプレ写真でも撮るんだろうか?


 私の方も見る。男性用より圧倒的に多い。無難なイブニングドレスから、タカラヅカの舞台衣装みたいなもの、果てはディズニープリンセスみたいなものまで。更に、これって女性の体型でも着られるように仕立ててあるけど……、男装の需要もあるのだろうか?


 私の衣装は、目的が目的だから、純白から選ぶべきだろう。髪色と肌の色のせいで似合わないけど。

 フリルとレースがあしらわれたAラインのドレス。この辺が無難かな? 私の髪や肌の色だと、藍色とかグレーとかの方が合いそうな気がする。あ、こっちはギリシャ神話風。私の髪が褐色で、もうちょっと肉感的ならこんなのもアリかも、って、それじゃ別人だ。沙耶香さんあたりなら似合いそうだ。


 うーん、迷う。あ、慶一さんの服との調和も考えなきゃ。もう一度、慶一さんの服選びを見よう。スタッフさんも「迷われたなら、そういう視点もいいですね」と、ついてくる。

 ドレスを一旦ハンガーに戻していると「ところで」とお店の方が訊いてくる。


「旦那様、高橋さんって仰いますけど、お勤め先もそうですし、もしかして……」


「もしかしなくても、社長令息です」


「ちょっと年の差ですけど、素敵な旦那様ですね」


 むしろ『いいの捕まえましたね』と言いたげな表情。どっちかというと『捕まった』のような気がするけどね。とは言っても、客観的には『玉の輿』に見えてるんだろうな。ここで、私の心は囚われのお姫さまなのです、なんて言ったら変だよね。

 でも、一緒に居たい人と共に在ることができるのだから、これは良縁と言えるに違いない。




 慶一さんは簡単に着付けてもらっている。とは言え、男性の礼服は、基本、自分で着られる。横で衣装持ち係だ。

 あれ? 全体にサイズが足りないようで、改めて着替えるようだ。


 上着はウエストが少し絞られたシルエット。フロックコートとまではいかないけど丈が長く、軍の礼装みたいだ。うん。なかなか決まっている。この手の服は欧米で生まれただけに『脚長く、肩幅広く、胸厚い』な体型だと映える。


「どうかな? 昌さん」


「うん。いいと思う。明治時代なら鹿鳴館で踊れるぐらい。東西の貴婦人方からダンスのお誘いがすごいよ、きっと」


「最初と最後のダンスは、プラチナブロンドの女性と決まっているけどね」


「あ、その言い方、ちょっとキザです」


「自分でも、すこし思ったよ」


 そう言いながらも、私はちょっと嬉しい。

 と、スタッフの女性から微笑ましいものを見る視線。思わず赤面してしまう。人前でなんて会話してるんだろう。これじゃ、色ボケのバカップルだよ。




 改めて自分の衣装を選ぶ。結局、始めに選んだ、Aラインの白のドレス。ところが、スタッフさんによると、これはAラインではなくプリンセスラインと言うらしい。プリンセスって言うと、スカートが釣り鐘型になったイメージだけど、いろいろあるらしい。




 とりあえず、軽く着てみよう。私はサッシュを解き、ワンピースを脱いだ。その躯にスタッフさんは「ほーっ」となる。この辺も、もう慣れたものだ。でも、キャミソールと犬印はそのままだ。妊婦はお腹を冷やしちゃいけない。


 ドレスを着てみる。悪くはないけど……、前は普通なのに対して、背中がガバッと開いている。後ろからは犬印が丸見えだ。写真には写らないし、そもそも本番では犬印は着けませんけど。

 鏡に映してみる。うーん、しっくりこない。肩周りの装飾に顔や髪が負けている感じだ。一つに束ねていた髪を下ろしてみる。あまり変わらない。肩や胸元の装飾が大きすぎるのだ。


「こちらはどうですか?」


 私の表情を見たスタッフさんが、別のドレスを持ってくる。

 今着ているものとは逆に、上半身にはふんわり感の無いデザイン。それどころか肩も無い。でもレースの袖が付いている。


 プロの見立てだ。早速着てみると……。あ、これ、これは決まってる! 思わず鏡の前でクルリと回ってしまう。


「お似合いですよ

 この衣装、今までお似合いの方に会えなくて、お客様に選んでいただければ、今回が初仕事になります」


「はい、これで行きます」




 スタッフさんに呼ばれて慶一さんも来る。


「どう?」


「うん。きれいだよ」


 その一言で嬉しくなる。二人で鏡の前に並んでみる。なんだかそれだけで泣けてくる。気がついたら、いつの間にか右手の指を慶一さんの左手に絡めている。

 人前だと言うことを思い出し、慌てて放した。

 私ってこんなにチョロかったっけ?


「ほ、ほら、和装もあるから、急がないと!」




 和装は、男性は紋付き袴だから簡単だけど、私は時間がかかる。いろいろ試してみるが、(ことごと)く似合わない。髪を高い位置で括り直したり、アップっぽくなるよう手で支えたりするけど……。

 おかしいな? 顔は日本人なのに。体つきもどちらかと言うと貧相だし、ここまで合わないというのも……。

 成人式の振袖とかは茶髪のお姉さんもいるのに、この髪色だとどうにも似合わないのはなぜだろう?


 結局、和装は保留となった。いずれ神前式用にも衣装を準備する。料金はちょっと割り増しになるだろうけど、それを持ち込んでもいいだろう。


 あー。でも成人式も和装を準備するんだよね。どうしたものか。

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