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ひめみこ  作者: 転々
第二十章 新生活に向けて
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合宿で報告

 八月の合宿は平日だ。

 他の班はともかく、沙耶香(さやか)さんが、他の看護師が休みを取るお盆期間中に出る関係で、この時期は平日に合宿をすることが多い。


 暑い時期なので避暑地で、と言いたいところだけど、今はどこでも暑い。今回は福井県だ。と言っても市内ではなく山の方。




 昼前に福井駅で集合。その日はそのままレンタカーで移動して武術訓練になるけど……。


「さて、今日は昌ちゃんから重大発表がありまーす。

 前回の合宿に来られなかった理由でもあるわ」


「さ、沙耶香さん。今、ここでですか? 夕食のときとかじゃなくて?」


「じゃ、私が言う? それとも、武術訓練するの?」




 そうだ、この身体で武術訓練は避けた方がいい。

 深呼吸を二回してから言う。


「えっと、私、小畑昌は、この度、結婚することになりました」


「えーっ!」

「本当に?」


 神子たちは口々に驚きを表現する。


 一通り、驚くのを待って説明を続ける。

 事情は言えないが、戸籍上は十九歳ということになっていること。

 既に、妊娠していること。

 高校は退学したこと。


「と言うわけで、しばらくは武術訓練には参加できません。勉強はこれまで通りだけど」


「そういうわけで、昌ちゃん、しばらくは武術訓練の参加は見合わせになるし、冬ぐらいからは産休に入ることになるわ。

 でも、武術訓練には心強い外部講師を呼んだから」


 え? まさか慶一さんのお祖父ちゃんでも呼んだの? でも、膝を悪くしていて指導なんか出来ないんじゃ……。




「それじゃ、入ってくださーい」


「初めまして。山崎光紀(やまざきみつき)と申します。

 大学では合気道をしており、ボランティアで小中学生にも指導しています。

 先日、審判員の集まりで知り合った竹内さんの紹介で参りました。


 ……という体裁です。みんなー、久しぶりっ。

 そして昌ちゃん。改めて、おめでとう! ドアの脇で待ちくたびれちゃったよぉ」


 入ってきたのは光紀さん。


 サプライズゲストに、面識の無い(まい)ちゃん以外は、皆、呆気に取られている。確かに、柔術の指導で彼女以上に頼りになる人は、そうそういない。沙耶香さんも「すぐに動けて信頼できる指導者は彼女だけ」と言う。


「光紀さん、お待たせして済みません」


「いーの、いーの。私と昌ちゃんの仲じゃない」


 そして、私の耳もとで「ファーストキスを捧げるぐらい恋したのよ。報せを聞いたとき、嫉妬の炎で心がウェルダンになりそうだったんだから」と囁く。

 どこまで本気なんだろう。




 その後、私のなれ初めを根掘り葉掘り尋問される。

 慶一さんの第一印象、お腹がすいたの歌、ナンパから助けてもらったこと……。

 そして、一昨年の冬頃から、月に一、二度は一緒に遊びに行く関係になって、私が十九になってすぐ告白、と言うよりプロポーズされたこと。


「でもさ、手しか握ったことがない相手に、いきなり結婚を前提としたお付き合いを申し込まれてもね。ある意味『一回ヤらせて』より、困るよね」


「昌ちゃん。それ、普通は困らないと思う。

 一年余りもそういう付き合いを続けられて、会社の跡取りで……、大抵の女の子だったら、お付き合いはOKするとこじゃない?」


 直子(なおこ)さんは目を細めて「ちょっと自慢してるでしょ」と続けた。


「見た目はどんな感じ?」


 留美子(るみこ)さんも興味津々だ。


「うーん。普通。水泳してたから身体はがっしりしてるけど」


「昌ちゃーん。あれで普通って言うなんて、贅沢よ~。

 二人がフォトスタジオに入るとこ見たんだからね。今にして思えば、あれは結婚写真の前撮り? 衣装合わせ?」


「光紀さん、なんで?」


「あの辺は、私の行動範囲よ。

 うん。かなりイケメン。見た目だけでもそこそこモテそう。

 昌ちゃんと並んでも、そこまで不釣り合いじゃないわね」


「確かに、美男子という程ではないけど、好男子ってとこかしら。芸能人みたいな押し出しは無いけど、背広とかのモデルならはまりそうね」


 沙耶香さんも褒める。それは……、こういう場面で貶したりはしないだろうけど、なんだか照れる。




 結局、半分近くの時間、旧交を温めるだけに終わった。

 ようやく練習という段になって、最近物怖じしなくなった(まい)ちゃんも、光紀さんに話しかける。


「初めまして。滝澤舞(たきざわまい)です。昌さんにはお世話になっています」


「初めまして、山崎光紀よ。光紀って名前で呼んでね」




 光紀さんは舞ちゃんの指導を始める。私は見ているだけだけど、小中学生にも指導しているだけあって丁寧だし、ポイントの押さえ方が的確だ。

 神子としてはそれなりの身体能力しか無いのに、沙耶香さん以外はほとんど相手にならない技を持つのは、合理的な動きを理詰めで身につけているからだろう。ものすごく参考になる。正直、ちょっと身体を動かしたくなる。


 その後は、留美子さんとの組み手。突きも蹴りもアリだ。

 沙耶香さんのような鋭さは無いけど、舞うような体捌きでスッと入っていく動き。あの留美子さんが簡単に懐を取られる。

 確かに体格では光紀さんに少し分がある。でも、スピードは明らかに違うし、突きも蹴りも一段落ちる。にもかかわらず、一手ごとに留美子さんが劣勢になり、追い詰められる。

 私も何度かやられて分かっているけど、外から見るとこういうことなのか。動き自体は沙耶香さんよりも洗練されているようにさえ見える。


 神子は全員が見とれている。特に舞ちゃんはこのレベルの動きを初めて見るのか、憧れの混じりの視線を向ける。




 その後、我慢できなくなったのか、沙耶香さんも光紀さんと組み手。さすがに、体格も身体能力も沙耶香さんが上。そしておそらく技術にもかなりの差がある。

 沙耶香さんは光紀さんが相手でも危なげなく勝つが、私たちに見せたことのない疾さで動く。つまり、その領域の組み手であり技なのだ。


「ありがとうございます」


「ウデを上げたわね。高級な戦闘法が身についているわ」




 その後は沐浴。でも、私と光紀さんは見送りで、直接浴場だ。

 光紀さんは湯船の私をじっと見る。


「昌ちゃん、オンナの身体になってきたわね」


「光紀さん、その言い方、ちょっとえっちです」


「そうね。でも、まだお腹は判らないのね」


「まだ、三ヶ月ですから。もう二月(ふたつき)ぐらいすると、目立ってくるでしょうけど」


「つわりとかは?」


「今のところありません。炊きたてのご飯も食べられます」


「順調ね」


 光紀さんは何か言いたげだ。

 そうか、このメンバーの中では唯一私の出自を知っている。でも、沙耶香さんほど連絡を密にしていないから。




「『母方のお祖母ちゃん』は、貴女はこのときのために、昌になったのよって、言ってくれました」


「そう。良かった」


 光紀さんは、この一言で大体のところを理解してくれた。


 そして、私をそっと抱き寄せる。

 でも、不思議なことに以前は感じた緊張感も無い。私もこういうスキンシップに耐性が……、と思ったらお尻に変な感触。光紀さんが私のお尻を揉んでいる!


「何ですかっ、光紀さん」


「うん。随分ほぐれてきてるわね。やっぱり内側からもマッサージされたからかしらぁ?

 でも、昌ちゃんの弱いところはここでしょ」


「ちょっと、くすぐったい。光紀さん、やめて下さいよっ!」


 湯船でバシャバシャしていると、沙耶香さん以下、神子の面々。


「昌ちゃーん。久々に会ったからって、日も落ちる前から不純同性交友ってのは、如何なものかしら? ここは公共の場所よ」


「違いますっ!」

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