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ひめみこ  作者: 転々
第十九章 急転
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報告

 期末試験の最終日、家にみんな集まる。


「なんですか? 昌クン、改まって」


 紬ちゃんはいつも通りの屈託のない笑顔だ。


「ごめん。わざわざ家まで呼びつけて。ちょっと雑音が入らないところで話したかったから。もうすぐ由美香ちゃんも来るから、話はみんな揃ってからね」


「もしかして、彼氏でも出来たですか? 重大発表ですね」


「確かに、最近の昌ちゃん、雰囲気が柔らかくなったっていうか」


「そうそう! 前より可愛くなったですね。やっぱり恋をするとオンナは変わるのです」


 なんでも色恋につなげるなぁ。まぁ、今回の話はそれも含むけど。




「ごめーん。待った?」


 由美香ちゃんは部活のジャージだ。午後から部活だろうか。


「ううん。それに呼んだのは私だし」


「で、話って何?」


「話って言うより報告だけど……、私、七月いっぱいで高校をやめるんだ」


「「「!」」」


 驚きで、三人とも言葉も出ない。

 十秒ほど経ったろうか? 始めに口を開いたのは、由美香ちゃんだった。


「どこか、引っ越すの?」


「ううん。今しばらくは、ここで暮らすよ」


「なんでやめるのかしら?」


 詩帆ちゃんは抑えた声で訊く。


「いずれ分かることだから言うけど……、子どもが出来たんだ」


 三人とも目を丸くして絶句している。紬ちゃんは何か言おうとしてるのか、口をぱくぱくさせている。


「相手は誰? 私たちも知ってる人? どうするの? 産むの?」


 由美香ちゃんは矢継ぎ早に訊いてくる。


「もちろん、産むよ。

 命なんだもん。私の都合でどうこう出来ないよ。

 相手の人は、まぁ、みんなも会ったことある」


「って言うか、誰? 同級生? 先輩? その人はどうするって言ってるの?」


「結婚しようって言ってくれてる」


「昌ちゃん、簡単に言うけど、子ども育てるって大変なのよ! それに、お金だって……」


「とりあえず、お金のことは心配ない。私自身も持ってるし、彼も稼ぎはいいと思うから」


「稼ぎって、社会人? 何やってる人? 会ったことあるって、まさか……」


 由美香ちゃん、過呼吸とか、大丈夫かな?


「って、まさか、社長の息子ですか? マジでハニートラップから玉の輿コンボきめたですか?」


「よく覚えてたね。うん、その、社長の息子」


「あー、みんなでお茶したときから視線が怪しかったですけど、ガチのロリコンでしたか。自分の半分ぐらいの齢の娘に行くなんて」


「半分じゃないよ! まだギリギリ二十代だし。

 あと、私も本当は十六じゃないんだ。今まで黙っててごめん」


「「「?」」」


「入院してたことは言ってたけど、病気と治療のせいで、身体の成長が遅かったんだ。それに社会との接点も無かったから、精神的にも幼かったし。

 それで、初経が来たときを十三歳ということにして、中学校に編入することにしたけど、でも、戸籍上はもう十九なんだ……」


「ふーん。まぁ確かに昌クン、天然なワリに耳年増だったのです」


「そうね。大人なときとお子様なときの落差、結構あったし。それ聞いたら納得だね」


「でも、昌ちゃんは昌ちゃんだよ」


 歳のことはあまり驚かない。みんなにとって、私の歳は些細なことのようだ。それを聞くと、なんだか分からないけど、涙が出てくる。




「昌ちゃん、ごめん。先に謝っとく。今から酷いこと訊くから。

 でも、友達だと思ってるから、訊くんだからね」


 詩帆ちゃんが抑えた声で始めた。


「結婚とか、出産を決めたのって……、もしかして、家族を亡くしてるのと関係ある?」


「どういう意味?」


「言葉、選ばないで言うと、昌ちゃんって血の繋がった家族は弟と妹だけでしょ。その二人にしても、姉って言うより、親みたいな関係だったし……。

 手っ取り早く家族を持つために結婚を決めたんじゃないかって」


 そうか。客観的にはそういう風にも見えるか。その言葉に由美香ちゃんも紬ちゃんも私を見つめる。

 でも、私の立場は設定だ。『私』は両親を亡くしたわけじゃない。


 私は、にっこり笑って否定した。


「じゃぁ、高校や大学はどうするの?」


「大学は、生活が一段落したら、通信制か高認で受験資格取って進学するつもり。

 もしかしたら、二人目の方が先かもだけど……」


「うゎぁ、今、昌クン、すごい幸せな顔したのです」


「うん。幸せだよ」




 ひとしきり話した後、由美香ちゃんがもじもじしながら訊きにくそうに口を開いた。


「あの、さ。男の人と、その、アレって、……どんな感じ?」


 由美香ちゃん、顔、真っ赤だ! 興味あるだろうけど、三人の中で由美香ちゃんが口火を切るのは意外だ。


「アレって、……初めては、ちょっと痛かった」


「今は、どんな感じ?」


「……」


 二人して真っ赤な顔で黙り込んだ。


「やっぱ、イケメンのえっちは上手いですか?」


「っ、紬ちゃん! 露骨に訊かないでよ」


 顔以外も熱い。絶対、耳も首も胸も真っ赤だ。


「ふーん。やっぱり上手いんだ?」


 詩帆ちゃん、その目つきで見るの止めてよ。

 まぁ、上手いか下手かで言ったら下手なんだろうけど、そんなこと言えないし。

 でも、初めは抱きしめられただけでああなっちゃったし。胎内で不随意の脈動を感じたときなんかは、暖かいもので全身が満たされる気がした。その瞬間の多幸感は……。


「多分、大切なのは気持ちだと思う。上手いかどうかなんて、それに比べたら、大した意味は無いんじゃないかなぁ」


「おおー。経験者の重い一言なのです!」


「紬ちゃん、なんかその言い方、やらしい」


 みんなそろって、顔が赤い。詩帆ちゃん、膝を微妙にもじもじさせてるのがえっちだ。


「一応さ、一学期の終業式の日に言うつもりだけど、それまではみんなには言わないでね」


 全員が頷いた後、紬ちゃんが満面の笑みで「式にはよんでくださいなのですよ!」

 もちろんだよ!


 うーん。退学届けはいつ出すのが適切なんだろ。

 でも、体育の授業のこともあるから、早めに連絡すべきかな?




 全員が帰った後、会話を思い出して一人で身悶える。


 うん。モノの大小やテクは関係ないけど、繋がってる多幸感には硬さと持久力は大事かな。

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