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ひめみこ  作者: 転々
第十九章 急転
159/202

通過儀礼

 試験期間に突入。

 私はまずまずの手応えだけど……、紬ちゃんと詩帆ちゃん、特に詩帆ちゃんは、日程が進むほどにどんよりしてくる。


 それも当然だ。

 中学校での上位一割強だけを対象とし、その中で差が付く試験。ここで平均が六割前後ということは、他の高校では手も足も出ない生徒が出る内容だ。


 詩帆ちゃんは中学校通じて学年で五位以内。どの教科も八、九割取れて当たり前だったのが、初めて取れなさそうを経験。紬ちゃんも、数学の試験で時間が足りないを経験した。

 中学校では学級でトップクラスでも、この高校では平凡な生徒。

 コレがここで最初の通過儀礼なのだ。




 久々の合宿は、メンバーが一人欠けただけなのに少し寂しかった気がする。千鶴(ちづる)さんは、そんなに口数が多い人でもなかったのに。


 武術訓練では、留美子(るみこ)さんが改めて沙耶香(さやか)さんから柔術を学ぶことにしたらしい。神子になるかどうかを決めるまで一年も無いけど、学べる機会を活かしたいらしい。

 結果、沙耶香さんが留美子さんと(まい)ちゃんを見る間、直子(なおこ)さんと優奈(ゆうな)さんを私が見る。と言っても組み手をするだけだ。

 このメンバーでは、舞ちゃんに次いで格闘技歴短いのに。


「人に教えることで、(あきら)ちゃんの理解も深まるわよ。

 パワーとスピードに頼らない技術を身につけるためには、そういう経験も大切よ」


 沙耶香さんは軽く言う。確かにそうなんだろうけど……。大変だ。




 勉強は高三が二人もいるので、私は結構忙しい。特に直子さんは理系なので、数学・物理・化学を重点的に頑張っている。

 ここでも、教材は数研の教科書傍用問題集。進学校はコレが好きだけど、解答がアレだから自習には向いていないと思う。


 今回は二人なので、会議室のホワイトボードを使って解説。客観的にはすごく変な絵面(えづら)だ。


 想像してみて欲しい。

 アイドルそこのけの少女たちが勉強している。そこで、高校生になったばかりの私が、大学入試の物理や数学を解説する。

 会議室には部外者は入ってこないけど、客観的にはすごく変だ。


 かなりの問題数を解説したけど、全然終わらない。

 結局、これの模範解答作りも、私の夏までの課題になった。仕事でやってる人以外で、ここまで問題を解いてる人っていないと思う。




 明けて月曜日、先週末は試験が終わったことで、ほとんどの生徒が羽根を伸ばすか、部活に打ち込んだことだろう。

 でもね、この学校に来る生徒の大半が、初めての定期試験結果に愕然とするのだ。


 入学後すぐの実力テストは、順位的には振るわなくても、点数自体はそこそこ取れてしまうから、それで安心してしまう。振るわない順位も、各中学校の上位層ばかり集まるからと、割と理性的に受け容れられる。


 ところが、準備して臨む定期試験で、半数は中高でのレベルの違いに直面する。


 中学校で上位一割ぐらい――小中通じて優等生――でも、この学校では下から数えた方が早い。点数は五割を切り、平均点を下回る。

 全く未経験のことだ。

 この通過儀礼を経て、勉強を、そして高校生活をどうするか、改めて考えることになるのだ。




 試験の結果が返って来た。

 紬ちゃんは、総合で上位三割に届くかというところ。特に、数学と世界史、そして古文が足を引っ張った。

 地頭が良いだけに、反復練習が問われる部分が弱く、授業が試験に直結していない科目では、勉強方法から身につけなくてはならないのだ。


 詩帆ちゃんもかなりどんより。訊いたら、総合でこそ上位四分の一には入っていたけど、理科と数学が平均をやや超えるレベルでしかなかったという。

 でも、この生徒層にあって、悪くても平均以上というのは、客観的に言って悪くないと思う


 私は、自慢だけど総合四位。えっへん!

 現代文と世界史、英語で満点を逃した。

 中学校レベルでは、大学受験の勉強経験はあまり効いてこないが、高校レベルになるとその経験が如実に現れる。実際、数学で満点を取れたのは学年では私を含めて三人だった。


 ちなみに、同じ中学の松田君は、ほぼ全ての科目で返ってきた答案を前に机に突っ伏していた。ドンマイ。君は空手を頑張るんだ。




 試験週間が終わると、一週挟んで高校総体県予選。

 詩帆ちゃんは放送コンクールのアナウンス部門に出場する。

 私と紬ちゃんは部活動をしていないから出る予定は無いけど、女バスの試合を観に行く。目的はもちろん由美香ちゃん。ウチの高校と当たっても、由美香ちゃんを応援してしまうぞ。


 そして、総体期間中は生徒の半数以上が公欠になるので、授業は午前のみになる。その午前も半ば自習に近い。どうせなら、気持ちよく全て休みにしてくれれば良いのに。


 でも午後が丸々空いていて、その週末も空いている。

 しかも、午後短縮の初日は観戦予定が無い。ということは、およそ半月ぶりに慶一さんに会えるということ。待ち遠しい。




 自習時間もウッキウキで問題を解く。三コマ分の課題をさっさと片付けて、由美香ちゃんたち用の模範解答をどんどん作る。これをやっている分には気が紛れるし、時間も早く過ぎる。

 早く十一時半にならないかなぁ。そしたら慶一さんと落ち合って、少し遅めのお昼を食べて……。


「やっぱ、学年四位は違うな」


 珍しく、松田君が話しかけてきた。「まぁね」と返す。クラスで私に話しかけてくる男子は少ない。しかも今日は運動部所属の生徒がほとんどいないから、声をかけてくるのは松田君ぐらいだろう。


「松田君もコピー要る?」


「え? マジで? コピー代払うから、俺にも頼む」


「いーよ。でも、宿題とかでコレ丸写ししたりってのはダメだよ。

 絶対バレるし、私にまで指導が入っちゃうかも知れないから」


 松田君もその辺は判っているだろう。二言、三言交わした後、席に戻っていった。

 話ながらもどんどん解く。まぁ等式の証明は、答えが分かっている計算問題だ。機械的に答案を作る。


 時計を見ると、あと三〇分足らず。早く時間が過ぎないかなぁ。

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