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ひめみこ  作者: 転々
第十九章 急転
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試験前だけど

 連休と週末が明けると、中間試験まで十日ほど。今週末も土曜は勉強会だけど、日曜はGWぶりにデートだ。

 それを励みに一週間頑張ろう。


 授業は試験前だからか、かなり駆け足になっている。

 特に、数学と英語は、教えていないが許されないからか、なかなかの『ガンガンいこうぜ』具合だ。

 逆に社会科なんかは通り一遍に説明したら、授業にあまり関係の無い、でも少し関係のある雑談が多い。話の内容自体はかなりレベルが高く、案外面白いけど……、五限目が多いせいかクラスの三分の一は瞑想をしている。

 こういう授業が通用するのは、トップクラスが集まる高校か、進学をあまり考えない実業系だけだろうな。いや、否定するわけじゃないよ。話自体は面白いし。

 要するにテスト勉強は自力でやっとけと言うことだ。




 土曜日はいつものメンバーが試験勉強のために集まる。(つむぎ)ちゃんも、授業中が雑談ばかりなだけに、社会科は真面目に勉強をしている。

 でも詩帆(しほ)ちゃんのクラスでは、社会科はまともに授業をしているらしい。逆に理科の先生が、脱線しがちだという。あと、数学は分かりやすいんだけど、先生が最近読んだ本の話を週に一度はしてくるそうだ。

 この辺、中学校とは違う。


「古文の活用形って、面倒くさいのです」


 由美香(ゆみか)ちゃんも「だよねぇ」と同意する。


「これは憶えるしかないよ」


「私、文系もやってく自信が無くなってきた……」


 詩帆ちゃんはかなりお疲れだ。


「確かにね。古文も味わえば良いのに、わざと面白くなくなる読み方させてるよね。どうせ学校でやる程度の内容なら、解釈に定説があるんだろうし」


「そうなのですよ。プリンの味を説明するのに、糖質何%、タンパク質何%とか並べられても、美味しそうじゃないのですよ」


「まぁ、歌を詠んだり、古文で恋文をしたためたりするなら、必要だろうけど……、普通は要らないよね」


「歌はともかく、古文でラブレターとか、うげーですよ」


「確かにそれ、大抵の人は引くと思う」


 詩帆ちゃんでも、古文で恋文はNGのようだ。


 それもそうか。

 古文で恋文なんて、文語で恋心をしたためるオレかっけぇ、な自意識過剰のナルちゃんに違いない。


 やっぱり、古文は正しく解釈する技術より、定説がある解釈や背景の理解をこそ、重視するべきだと思う。どうせ、解釈が諸説分かれるようなものを読み込む人なんて、そうそう居ないのだ。

 まずは、例えば海外の人に、日本の古典や歴史的、文化的背景を紹介できる教養として学んだ方が、よほど価値があると思う。

 って、自分がしたくない種類の勉強をしなくていい理由を探しているだけかも知れないけど。


 試験の日程表を見る。火~金の四日間に大体二・三科目ずつ。午前だけで終わるので午後は丸々空いている。

 公立高校は日程がほぼ横並びだ。私たちは、試験期間中も集まって勉強することになった。




 翌、日曜日は慶一(けいいち)さんとデート。試験前だけど。

 朝から胸が高鳴る。今日は初めての日からほぼ四週間になる。つまり、そういうタイミングなわけで……。


 いつもの場所で車に乗り込むと、車は音も無く走り出した。

 シフトノブに乗せられた左手に右手をそっと乗せた。

 Dレンジに入れてしまえば、しばらくはこのままだ。私は右手を下に滑り込ませて指を絡め、左手で包み込む。そして、膝の上に置く。


 右脚に慶一さんの体温が伝わってくる。それと共にそこから幸福感が拡がってくる。幸福感の源を身体の中心に近づけたい欲求を感じるが、私は全力でそれを抑える。

 何事も無い顔でこうしているけど、私の心がこんなにかき乱されていること、その原因の人は気づいていますか?




 今日も食事をし、例によっての御休憩。少しの間ゆっくりとした時間を過ごし帰宅する。いつものコースだ。


 帰宅したらシャワーを浴びるわけだけど、ちょっと今日は遅かった。周と円のお風呂は「そろそろ来そうだから」とお祖父ちゃんにお願いする。

 ウソは言っていない。早ければ明日からの予定だから、今夜からその備えをする。今日はちょっと前倒ししているけど。


 シャワーで念入りに流す。今日はちょっと湯船にはつかれないな。洗いながら数時間前のことを思い出す。




 今回は、前回と違っていた。

 前回は百分の数ミリ隔てていたけど、今回は直接。

 初めてのとき以来だ。


 そのときを思い出す。慶一さんから不随意の脈動を感じた瞬間、胎内が熱いもので満たされ、同時に喩えようのない多幸感が押し寄せてきた。

 これは多分、心理的なもの、思い込みでしかないのかも知れないけど、直接愛情を注がれたということが、私の心を幸せにするのだ。


 事後にシャワーを浴びた後も、それ以上幸せが漏れない処置をした。結局漏れてしまうことは分かっているけど、少しでも……。


 ダメだ。完全に依存している。数時間しか経っていないのに、心がまたそれを求めてしまう。

 これで結婚でもしたら、毎晩のように求めてしまうのかも、と考えたところで、どうしようも無い恥ずかしさに、しゃがみ込んでしまう。


 私も人のこと言えない。いい感じにダメになってる。




 夕食時、お母さんも判っているんだろうな。そこに触れないのは、呆れられているからなのかな?


 夕食の後片付けをし、試験勉強をする。十時を過ぎて寝る段、用具を替えると、既に始まっていた。

 私の場合はそれほど重くないからそこまでの影響は無いけど……、人によっては入試の日程にぶつからないよう、半年ぐらい前から周期をコントロールするらしい。でも、内分泌系の薬って、補うならともかくそういう使い方って大丈夫なのかな?


 何はともあれ、明後日から試験期間。それが終わったら神子の合宿、そして高校総体県予選の応援だ。


 でも、来週末は、会うのが難しそうだ……。

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