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ひめみこ  作者: 転々
第十八章 二度目の高校生活 一 つながり
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言葉と行為と

 一頻り話した後、優奈さんと直子さんが改札に向かう。留美子さんは時間に融通が利くので、私と舞ちゃんにつき合ってくれる。


「ところでさ、すごい下ネタってどんなの?」


「秘密です。女性が言っていい範囲を超えますので。

 聞いたら、ドン引きしますよ」


「私も聞きたーい。みんな知ってるんでしょ?」


 そう言えば、光紀(みつき)さんの送別会のとき、結局アルコールが入った場面でみんなに知られてしまったのだ。知らないのは後から合流したこの二人だけ。

 根掘り葉掘り訊かれて、その発言に及んだ状況だけを教える。


「あまりに下品なので、ここまでです。何を言ったかはご想像にお任せします」


「そこまででも十分下品だけど、それ以上ってことでしょ」


「どうしても知りたかったら、沙耶香さんにでも訊いて下さい」




 新幹線の時間が近づいたので、留美子さんと別れ、舞ちゃんと改札に向かう。途中、だし巻きのサンドイッチと、焼き鯖の棒寿司を買う。お寿司は車内でというわけにいかないので、保冷バッグごと旅行カバンに仕舞う。

 舞ちゃんも同じものを買った。何度かの合宿を経て、私の味覚に対する信頼は篤い




 私たちはそれぞれの車両に別れて席に着いた。慶一さんに予定の列車に乗ったことと、到着時刻をメールで知らせる。


 程なく届いた返事と、その後のことを想像したことで、私の胸は高鳴る。思わずスマホを胸に抱きしめた。

 と、視線を感じる。通路を挟んだ席に座った老夫婦が、何とも微笑ましいものを見る目で私を見ている。私はその視線に俯いてしまう。顔が熱い。

 横目で見ると、お婆ちゃんがニコニコ笑いながら、まだ私を見ていて、私は余計に小さくなってしまう。


 結局、駅で買っただし巻きサンドを食べたのは、目的地が近づいてからだった。




 ホームに降りると列車が動き出す。

 窓越しに舞ちゃんが手を振っていたので手を振り替えした。手を振りながら、さっきの下ネタを思い出す。


 でも、私はこれから慶一さんと……。


 あの頃は言葉として発することは出来たけど、自分が実際にというのは想像することも憚られた。でも、いまはそれを期待して胸を高鳴らせている。一時間か二時間ぐらい後の私は……。そう思うだけで身体の内側が熱を持つ。

 言葉としては口にできないのに。


 自分がどんどんと変わっていることを感じる。




 日が沈む前に帰宅した。いつものように、近所で降ろしてもらう。

 GW中とは言え、泊まりは良くない。通過儀礼の合宿の日程を余分に言っておけばごまかせるだろうけど、お母さんと沙耶香さんはかなり結託している。どこから知られるか分からない。


「お帰り、昌」


「ただいま、お母さん」


 私が旅行カバンの車輪をぼろ布で拭くのを、お母さんがニコニコしながら見ている。


「何?」


「ううん、なんでも。

 そんな重いバッグ,引いて帰るのは大変だったでしょ」


「あ、お、お母さん、お土産だよ!」


 私はいろいろと出す。でも、お母さんが一番お気に召したのは、奈良と関係ない、焼き鯖の棒寿司だった。




 翌日曜日と三連休の中日は、中間試験の勉強会。五日は家族で遊びに行く。必然的に三連休の初日がデートとなる。


 勉強会は中二の頃のメンバーに戻ってしまった。まだ、高校も始まったばかりなので、進度にはそれほど差が無いけど……、英語と数学、特に数学は嫌がらせのような量の宿題だ。教科書傍用問題集のAのまとめとBの*印を全部。そう。試験範囲全部だ。まだ授業ではそこまで行っていないのに。


 コレ、普通の高校生だと消化不良を起こすレベルだ。『私』が高校時代は三人ぐらいで手分けして解いて、それを持ち寄って提出した記憶がある。

 大体、数研の傍用問題集は解答がしっかりしてないから、自習には不適当なんだよね。問題集選びは解答選びだ。出来れば別冊になっていて、分厚い解答が良い。


 とりあえず、模範解答のコピーをみんなに配る。紬ちゃんはともかく、詩帆ちゃんと由美香ちゃんはこれを渡しておかないと、自分で勉強するのも大変だろう。

 このメンバーなら、丸写しするだけで終わることも無い。きっと四日は、いろいろ質問を準備してくるに違いない。


「昌ちゃん、いつの間にこんなの作ったの?」


「こういうこともあろうかと、密かに作っておいたのです」


「おー。我がクラスの技師長は優秀なのです!」


 紬ちゃんはしっかりポイントを押さえた返しをしてくる。

 でも『こういうこともあろうかと』は事実だし、きっと技術に携わる人なら一度は言ってみたいに違いない。少なくとも『私』はそうだった。


「じゃぁさ、期末のときも作ってくれたら、嬉しいな」


「了解!」


 由美香ちゃんのためにも、一冊丸々作っちゃうぞ。実は半分以上終わってるけど。


 二日の遠足を挟んで三日の勉強会も、数学の課題をこなすだけで終わった。でも、高校の先生、生徒のどれだけがコレをこなしきれると思っているのだろうか?




 四日は慶一さんとデート。と言っても、うち三時間ぐらいは御休憩だ。つまり、食事時間と移動時間を除くと、会っている時間の大半がアレという……、まぁ、アレな感じのデート。

 別に、何が何でもしたいってわけじゃないけど、いや、あるのかな? 触れたいだけ。なるべく広い面積で触れ合いたいだけ。面積を広くするために、使えるとこを全部使っているだけで。


 本当は、いろいろ遊びに行きたいけど……、私の姿は目立つ。慶一さんに迷惑をかけるかも知れない。かと言って、いつも変装というのも違う気がする。

 やっぱり慶一さんが褒めてくれた、銀色の髪のままで居たい。ありのままの私を見て欲しい。


 でも、そうすると、どうしてもこういう形になるわけで……。

 私が髪を隠さずに、二人で並んで街をブラブラ出来るのは、いつになるだろう? 高校を卒業するまでは無理なのかな?




 GW最終日は、周と円を連れてショッピングモールのステージを観る。ほとんどお祭りのようなお店を巡ってお買い物。周は、化石復元のノリで部品を組み立てるおもちゃにご満悦。円はニチアサ枠の衣装と変身アイテムだ。

 私もお母さんも、人いきれに疲れて、夕食も回転寿司になった。


 明日一日、園か学校か会社に行けば土日は休み。でも、私は夜に名古屋集合で、千鶴さんの送別会だ。忙しい。

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