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ひめみこ  作者: 転々
第十八章 二度目の高校生活 一 つながり
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高校仮入学

 高校のクラス発表。

 この日に教科書等の購入、その他必要書類の配布が行われる。

 各クラスごとに分かれ、オリエンテーションから始まる。実際は、あちこちの教室を巡りつつ、順番にアイテムを回収する(買う)オリエンテーリングみたいな半日になるのだろう。


 教室は三分の二ぐらいだろうか、同じ中学の生徒は、……今のところは二年のとき同じクラスだった松田君の姿がある。他にも居るはずなんだけど、男子は判で押したように学ランなので、後ろ姿だと同じ中学でも判らない。

 あとは、(つむぎ)ちゃんも同じクラスのはずだけど、北部中の制服の姿は無い。女子は学校ごとに制服のデザインが違うから判りやすい。どうせなら、詩帆(しほ)ちゃんも同じクラスならよかったのに。

 多分、芸術科目の選択でクラスを分けたのだろう。私と紬ちゃんは美術を選んだが、詩帆ちゃんは書道を選んだようだし。




 席に着いたところでウィッグを外した。当然のように周囲りがどよめく。その後一段階か二段階静かになった後、そこかしこで小声のやりとりが始まった。途切れ途切れに聞こえる単語から、私のことを話しているのが判る。


「おー、(あきら)クン、早ーい」


「おはよう、紬ちゃん。ギリギリだね」


「受付で手間取ったのですよ」


「確かに、あれは人の流れに再考の余地ありだね。増えてきたら大変だもん」


「そうですよ。スーパーのレジを見習ってほしいのですよ。コーンバーとか置くだけでも違うのですから」


「じゃぁ、来年は紬ちゃんが生徒会にでも入って仕切ってよ」


「めんどくさいのですよ。そういうのは詩帆ちゃんの仕事です」


 詩帆ちゃんもやらないだろうなぁ。




 全員揃ったところで、先生が入ってきた。雑談していた生徒も黙る。学区一番の進学校だけに、生徒も行儀がいい。

 担任は松本先生という五十歳ぐらいの男性だ。日程もタイトな上、入学式前ということもあってか、書類を配布された後は通り一遍の説明。そして、クラス単位でゾロゾロと動く。やはりオリエンテーションというより、オリエンテーリング。ただ受け取るのが分厚い紙製品なので重い。

 私は――あとよく話をする友達は――布製の取っ手が太くて食い込み難い袋に入れているけど、もらった袋だとキツいに違いない。持って帰るのも大変だろう。




 校門前で待ち合わせていた詩帆ちゃんとも合流。三人で帰る。と言っても駅近くの駐車場までで、詩帆ちゃんのお父さんのお迎えに便乗するのだ。


「昌ちゃん、こういうバッグ、用意しといて良かったよ。

 考えれば当たり前だけど、荷物多いから」


「だよね。本当はホームセンターとかに売ってる手押し台車が欲しくなるよね」


 私たち以外にも、バッグを準備している生徒は多い。女子生徒は半数を超えるぐらいだろうか。男子生徒は、腕力でカバーだ。


「でも、いきなり進路希望調査、なんて言われてもピンとこないのですよ」


 紬ちゃんが言うのももっともだ。

 学校的には、なるべく早く意識付けをして、勉強に向かわせたいってことなのだろうけど、やっと高校入試が終わって「さぁ、羽根を伸ばすぞ」ってなっている生徒に、そこまで意味があるのだろうか。

 志望大学は具体的に学部学科の欄まであったけど、中学校を卒業したばかりの生徒にそれは難しいんでないかな。そもそも、どんな学部学科があって、そこで何やってるかなんて、知っている方がまれだろう。


「昌ちゃんは、なんて書くの?」


「一応、国立は京都大学理学部で、私立は慶応義塾大学」


「なんで?」


「うーんと、京都は天文学を専攻できるから、慶応はピタゴラ装置を作りたいから」


「昌ちゃん、情報が古いよ。天文学とか宇宙物理は他でも結構あるし、ピタゴラ装置の方、今は慶応じゃ無かったと思う」


「え? そうなの?」


「それに、分野がバラバラな志望だと、突っ込みがはいるよ」


 うーん。これは困った。とりあえず、近郊か新幹線が停まる大学の理工系を書いておくか。




 詩帆パパの車の中でもその話は続く。

 結局、進路希望調査も、意識付けと次年度のクラス編成の予備資料でしかないだろう。それも、あわよくば、レベルの。

 とりあえず、文系か理系かだけ見えてれば良いだろうな。

 詩帆ちゃんは文系、私は理系を考えているけど、紬ちゃんは……。


「そもそも紬は、何が得意で何が不得意か分からないのですよ」


「出たっ! 地頭良い発言」


「あー、それ昌ちゃんが言うと落ち込む。昌ちゃんも紬ちゃんも、勉強で全然苦労してないもん」


「でも、詩帆ちゃんも、いつも五番以内だったですね」


「私は必死で勉強してるんだよ。

 何でもすんなり出来ちゃう昌ちゃんと、ほとんど授業だけでついて行けちゃう紬ちゃんとじゃ、レベルが違いすぎるよ」


 あ、変なスイッチ入った。話題を変えたいところ。


「ところで、進路希望調査って、フワッとした感じで書いておけばいいよね。て言うか、フワッとしか書けないよね」


 確かに、オリエンテーションのとき、将来の職業を見据えて必要な資格や知識を調べ、とか言っていたけど、世の中にどんな仕事があるかとか、それに必要な知識が何かなんて難しい。


「仕事と大学で学んだことなんて、ほとんど関係ないよね。実際のとこ、学歴なんて努力賞みたいなもんだし」


 結局、研究等の一部の職種や資格が必要な職業を除けば、仕事と大学で学んだことなんてほとんど関係ない。実際、企業もそれを期待していない。

 ではなぜ学歴が重視されるかと言えば、入試をくぐるには勉強だけど、この成績はほぼ努力に相関する。要するに『この大学に入れるぐらいの努力ができます』という証明でしか無い。

 どのぐらい頑張れるかの指標として見ているわけだ。


「はっはっは。そこまで見切られてたら、人事部門の人の立つ瀬が無いな」


 詩帆パパが口を挟んできた。でも、大企業ほどそういう傾向があるように思う。


 とりあえず、進路希望調査はフワッと書いて、勉強しながら得意なことを探すという無難な結論になった。でも、今の段階でそれ以上のことをできる人はほとんどいないと思う。




 帰宅後、荷物をまとめていたらメールを着信。慶一(けいいち)さんだ。

 近々、合格祝いと十六歳の誕生祝いに、食事でもというお誘いだ。その頃には、戸籍上は十九なんだけどね。

 OKの返事を返しておく。




 四月は早々に(あまね)の入学式、自分の入学式。それだけでなく次席比売神子として、(まい)ちゃんの指導、千鶴(ちづる)さんの通過儀礼と、多分、送別会……。


 結構、忙しい。

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