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ひめみこ  作者: 転々
第十七章 中学校最後の半年
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私学入試

 年も明けて一月、中学生生活も残り二ヶ月弱。思えばあっという間だった。

 冬休み中は、かなり頑張った。主に恵里奈ちゃんがだけど。英語、理科、社会はかなり力もついているに違いない。

 でも、国語や数学、特に国語はここから大きく伸ばすことは難しい。あとはどこまで取りこぼさない答案を書けるかだ。




 初詣は、今回は由美香パパのバンで、ちょっと遠くの天満宮だ。皆が実力を発揮できるよう祈った。でも、やっぱり混んでいる。


「こんなときばかり神頼みなんて、日本人は信仰心が足りないのですよ。神様にお願いするなら、普段からゴマを擦っておかないと、なのですよ」


「そういう紬ちゃんは、普段はちゃんとゴマ擦ってるの?」


「たまに擦ってるですよ。神棚の榊を換えたり」


「たまにじゃ、ダメなんじゃない

 私は毎日お参りする習慣だし。家の仏壇と神棚だけど」


 詩帆ちゃんの意外な一面だ。


「私も、朝のジョギングは神社まで行って、ついでにお参りしてくるよ」


 由美香ちゃんもか。でも、お参りが『ついで』ってのは宜しくないと思う。


「まぁ日本人の大半は、神様に対してツンデレなんだよ。デレるのは年に一回だけだけど」


「なんかその言い方だと、ありがたみが無くなるのです」


「つまり、普段からデレておきましょうと言うことで」


 私は、神子の集まりがある都度、その土地土地の氏神様にデレて、もとい、感謝して回ってるぞ。


 お参りの後は、そのバンで順に送ってもらった。遠いところから順になるので、詩帆ちゃん、恵里奈ちゃん、私、紬ちゃんの順だ。




 新学期の全校集会後、教室に戻ると空気が締まる。私立高校入試に向けてピリピリとしている。私と紬ちゃんはのほほんとしているけど。


 私たちは付属高校でも大丈夫だが、通学時間を考えて近くの県立高だ。私と詩帆ちゃんは常に五番以内、紬ちゃんも定期試験こそ詩帆ちゃんに負けるけど、範囲を特定しない模試になると紬ちゃんを上回ることがある。

 一番緊張感があるのは、恵里奈ちゃんだろうか? 学年二十番ぐらいから伸び悩んでいる。定期試験はそこそこ行くけど、模試になると良くて二十二番。結構厳しい。


 由美香ちゃんは、県立二番手グループに一般入試で臨む。学力的には大崩れしない限りは安泰だけど、油断はしないというところ。この辺は由美香ちゃんの性格だ。




 私学受験当日。

『私』が本学で受験した頃とは違って、試験会場があちこちにある。自転車でも行ける範囲だ。

 これが本学のみだったら、早朝から電車なので大変だ。


「電車は、大変なのです」


「だよね。でも、公立落ちたら電車通学だよ。朝も早いし、時間は限られるし……」


「落ちないように、頑張るのですよ」




 周囲りの中学生は結構緊張している。

 大半の生徒にとって生まれて初めての入試。人生の岐路とまでは言わないまでも、中学生にとってはそれに匹敵する試験だ。

 でも、昨年度の受験者数、合格者数を見ると、ほとんど不合格がいない。一部の大都市の私学とは異なり、現実的には、県立高校の滑り止めとして機能している上、送り出す中学校も『十五の春は泣かせない』を合い言葉に、成績で輪切りにして受験校を決めている。


 そして私は『私』の大学受験の知識もあるから、そういう緊張とは無縁でいられる。




 試験会場について、ようやくウィッグを取れる。

 髪が伸びてきたのと、単に会場が暑いことで、着けているのが辛い。


 試験の部屋は、ほぼ中学校ごとになるが、三割ほど他校の生徒がいる。ウィッグを取って数瞬、視線を集めてしまうが、それも慣れたものだ。まぁ、初めて見た人たちには、緊張がほぐれるよう、笑顔をプレゼントしておこう。




 由美香ちゃんは、あまり緊張の色がない。やっぱりチームを率いる経験は、メンタルを強くするようだ。一方の恵里奈ちゃんはガチガチだ。成績自体は由美香ちゃんよりいいのに。


「恵里奈ちゃん、今からそんなに緊張してたら、実力出せないよ」


「……だって」


「大丈夫だって。過去五年の合格率知ってるでしょ? この部屋はほぼ全員合格。運悪く落ちるのは、多くても一人か二人だって」


「そうそう。恵里奈ちゃん、いつも私よりいいんだから、大丈夫」


 由美香ちゃんも励ます。


「落ちたとしても、この部屋のビリッケツだけなのですよ」


「いつもの七割の力が出せれば、余裕で合格だよ」


 ようやく、恵里奈ちゃんもぎこちなく笑う。




 試験は拍子抜けするほど簡単だった。

 当落線は、県立の二番手グループだから、その層で得点に差がつく内容だ。そして、採点のし易さもあるのだろう。理科や社会科では記号問題も多い。


 国語や数学は、一問こけてもそこから先がドミノ式になるものは少なく、まずまずの良問だ。

 英語で面白かったのが、あるモノを説明した文章で、その単語が伏せられている。その伏せられたものが何かを日本語で回答する問題だ。配点的には多くて五点だろうけど、受験者層を考えたら二割ぐらいが捨ててしまう内容かも知れない。一応、最後の問題だけは、ちょっと考えさせるモノにしてやれ、というものかな。




 試験を終え、会場を出るときなど、恵里奈ちゃん「緊張して損した」と言う。

 確かに、いつもの勉強会メンバーにとっては物足りない内容で、恵里奈ちゃんなら総合で八割は下らない。由美香ちゃんも、変なミスさえしていなければ、八割に届くかも。


 そして数日後、全員が合格していた。




 バレンタイン前は連休になるので、チョコは十二日に作成だ。去年に続き、今年も作る。ただし、今回は二クラス分だから大変だ。


 事前に買い出ししておいた材料で、例によって私の家で作る。材料費は、別に私が全部持ってもいいけど、中学生でそれは具合が悪い。千円ずつ徴収だ。

 作ったのは去年とほぼ同じ。クランチとトリュフ。本当はドライフルーツもと思ったけど、種類が増えるということは、一人あたりの配る個数が増えるということで材料費五割増しだから、今回は見送ることになった。


 紬ちゃんの家、詩帆ちゃんの家で、各クラス分を保管する。運搬は、詩帆ちゃんのお父さん。娘特製のチョコで買収された。


 去年と同様、休み明けの早朝に全員の机に入れて完了だ。




 今年のバレンタインは今までに無い経験をした。

 なぜか、下級生の女の子からチョコを沢山貰った。由美香ちゃんは毎度のことだけど、私はこんなの初めてだ。


 うち、幾人かの下級生がモジモジしながら顔を赤らめて渡してくれたけど……、正直、対応に困る。なんだか、変な気持ちにもなる。

 でもこの大きさ、明らかに本命チョコだよね。お返しと言っても卒業式前日はバタバタするし。

『私』はこんなに貰ったことがない。昌の方が女性にモテるって、どういうことだろう?




 ちなみに、今回、慶一さんに上げたのは、通販したボンボンの詰め合わせ。一応、受験生なので。私が貰ったのをお裾分けするのは、さすがに具合が悪いよね。でも「これだけ貰ったよ!」って言ったら、どんな顔をするかな?

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