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ひめみこ  作者: 転々
第十七章 中学校最後の半年
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冬休みの前

 四回に入って、打席は二巡目。テニス部と女子は軽く打ち取ったが、野球部が粘る。野球ではバットを長く持っていたのに、今は短く持っている。

 ぶっつけだけど、手首を逆にしてチェンジアップでタイミングを外す。無理にファールで逃げようとするが、フェアに落ちたところを、ショートを守っていた原君がサードの前にダッシュし、一塁に送球。が間に合わない。


 二巡目になると、俄仕込みのピッチングでは簡単に捕まる。競技としてやっていた者との違いだな。

 それでも、後続の女子を三振に打ち取りチェンジだ。




 なんだか、昨日に比べて観戦が多い。そしてなぜか一、二年生の女子が多い。


 この回は私にも打順が回る。

 ほぼ全チームが、男子五、女子四のチームで、打順は奇数番が男子、偶数番が女子になっている。つまり、連打が出にくいのだ。

 得点で多いパターンが、男子が塁に出て、次の女子が内野ゴロなどで走者を進めて、男子が長打で返すという形。

 ここで『男子枠でも』の私が入ると、連打になる確率が高い。


 この回は、先頭の新田君が珍しく打ち上げてしまい、センターフライで戻る。

 私が打席に入ると、黄色い声援。女子は私が目当てなのか? 打席から見ると、センターが左よりに守っている。少し遅いタイミングで弾き返すと、セカンドの頭を越えて外野へ。外野はライトがアテにならないせいで、余裕の三塁打。なぜか観ている女子が大喜び。手を振ると、更に黄色い声。うーん。なんか複雑。

 その後、原君のレフトフライで私が戻って追加点。

 この回は三対〇で終わりだが、最終回を守ればお終いだ。


 先頭打者はショートゴロだけどバウンドが高く、送球がギリギリ間に合わない。二人目の女子は難なく三振。

 次の松田君が野球部でもないのに粘る。チェンジアップもファウルにされる。

 何球目かの玉を芯で捉えられ、ピッチャーライナー。ギリギリでグローブが間に合いアウト。観ている女子から悲鳴が上がるが、構わず一塁に投げてアウト。ダブルプレーで試合終了だ。




「お、小畑さん。大丈夫?」


 松田君が走ってくる。いや、大丈夫だって。ちゃんと捕ったし投げたし。でも、松田君は済まなそうな、困った表情。


「大丈夫だって。ほら整列」


 松田君のお尻をベチンと叩いたらようやく納得したのか、整列する。礼の後も気にしているようだけど、そこまで言い出したら、ソフトボールなんて出来ないって。




 決勝には順当に三年二組が上がってきたけど、ここも圧勝。ノーヒットノーランでは無いものの二塁を踏ませることなく、五対〇で三年一組が優勝!




 午後からは、理科(自習)室で自習。恵里奈ちゃんを待つ。


「さっきはごめん」


 松田君がわざわざ謝りに来る。そんなに気にするところかなぁ?


「大丈夫だって。ちゃんと捕ったし。

 それに、四組でも『小畑は男子枠』って言ったのいたでしょ」


「いや、それでもさ」


「気にしない、気にしない。

 ところでさ、松田君、野球とかやったことあるの? 私のボール、きちんと打てたの、松田君だけなんだけど」


「いや、まぁ、兄貴とたまにバッティングセンターに行くから。

 でも、野球と角度が違ったから、打ちにくい」


 あれ? 普通の話題になると、いつものボソッとしたしゃべり方に戻る。


「そういうことか。

 全然関係ないけど、松田君、いつもボソッとしゃべるけど、さっきの慌ててるときのしゃべり方の方が自然だよ。

 その方が、女の子にモテるよっ!」


「で、でも、女の子相手だと緊張するから」


「じゃ、その辺が今後の課題だね!

 とにかく、試合中のことは気にしない!」


 もう一度、お尻をベチンと叩いてやると、納得したのか男子の集団に戻っていった。




「モテる女は辛いのです」


 紬ちゃんがニヤニヤしながら私のやり取りを観ている。でも、あれはそういう感じでもないんだけどな。


「モテるってわけでも……。

 でも、今日は下級生の観戦がすごかった。女の子がいっぱいで」


「おー。これは『キマシタワー』ですか?

 昌クンには新たな扉が開くのですね」


 いや、それはどちらかと言うと、閉ざされた扉なんだけど……。


「つまんないこと言ってないで、課題やっちゃお」


 詩帆ちゃんはお疲れの様子だ。運動不足に久々の日向ぼっこは堪えるからね。




 二時半ぐらいになって、恵里奈ちゃんが戻ってきた。結構疲れた表情だ。多分、順位がやや後退していることの意味を突きつけられたのだろう。

 私立はそのままで良いとして、県立は変えるかどうか……。おそらく、私立の結果が出てからもう一度考えるという結論だろう。




 冬休みに入っても、教室は二十八日までと五日からは、自習室として開放される。塾の冬期講習という生徒もいるだろうけど、私たちは学校で勉強する予定だ。

 私は、三日の夜から四日は恒例の寒稽古なので、結構忙しい。




 クリスマスイヴは家でささやかなパーティ。さすがにこの日ばかりは神子の集まりも無い。


 今年最後の合宿はその前の週で、やはりクリスマスパーティをした。舞ちゃんも、体質が変わったことを理解したのか、結構食べられるようになってきた。他の神子達とも馴染んできて、表情も明るくなったし、胸を張って歩くようになった。

 そう。胸と言えば、私のサイズもついにC! 最近、ちょっとキツいかなと思っていた。まだまだ舞ちゃんに追いつかれないぞ。


 舞ちゃんは、転校先では結構モテているらしい。

 容姿は神子だし、勉強もスポーツも出来るから当然だ。期末試験の後、生まれて初めて告白されたらしい。答えは「ごめんなさい」だけど、嬉しかったそうだ。

 うーん。私でさえそういうイベントは経験していないのに……。こっちは先を越されてしまったか。




 翌週のクリスマスは慶一さんとランチになった。メールで実力試験の結果と球技大会優勝を連絡したら、『一等賞のお祝い』だ。まるで私が誘ってくれるよう誘導したみたいだ。

 でも、慶一さんは私のこと、どう思っているんだろう? そういうつもりならそれで、もう一歩踏み込んできてもいいのだけど、手をつなぐ以上のことはしてこない。

 適齢期なのに、こんな時間の使い方をさせていいのかな?

 本命は別にいるのかな? 今年はイヴのお誘いも無かったし……。

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