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ひめみこ  作者: 転々
第十七章 中学校最後の半年
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保護者懇談と球技大会

 期末試験も終わり、受験を控えた三年生はともかく、一、二年生は授業も浮つく。そこで、午前中は球技大会が行われる。午後は、一、二年生が保護者懇談、三年生は三者面談となる。


 球技大会では、今年はサッカーが無くなり、代わりにソフトボールがある。ただし変則ルールで、一チームで女子が四人以上、打順は男子が連続しないこと、ピッチャーは女子。更にピッチャー返しは自動的にアウト。

 それでもバッターから近いから、ピッチャーを引き受ける女子がおらず、私が引き受けることに。最近、こういう流れが多い。


 私にはソフトボール経験が無いので、先ずは投球練習だ。

 野球部の正捕手だった脳筋新田君にミットを持たせる。


 軽くキャッチボールをする。意外とボールが大きい。


「おー、小畑さん、肩強え―。投げ方も女子じゃねーし」


 この辺は『私』の経験だ。力をちゃんと下半身から順に肘、手首、指先へと乗せる。


「まーね」


 何球か投げた後、投球練習。まずは立たせてだ。


「下手投げだぞー」


「分かってるって」


 軽くアンダースローで投げる。悪くない。次はこれだ。新田君をしゃがませる。肩を中心に腕を回転させて投げる。放すタイミングが悪かったのか、ボールが明後日の高さに。新田君がジャンプするがミットではじく。


「いきなりウィンドミルはねーだろ! やるなら先に言えよ」


「ゴメンゴメン。じゃ、もっかい行くね」


 もう少し放すタイミングを早く。今度は地面に当たる。五球ほど投げると、大体真ん中に行くようになった。捕るときの音も、小気味良い。でも、新田君は経験者なだけあって、ショートバウンドも難無く捕る。私じゃ、ああは行かない。




 三年生はシードなので、一、二年生の試合から。校庭で二試合が平行して行われる。私たちはAコートの第三試合だ。

 私たちは二年三組とぶつかる。警戒すべきは野球部の二人。でも、楽勝だった。ソフトボールは野球よりも近い上、玉の出所が違う。感覚的にはスピードが三割増しぐらいに見えるらしく、なかなか打てない。

 一方、相手のピッチャーは山なりの球。守備の穴も多く、内野の頭を越せばすぐ長打だ。私自身は球技の経験は無いが『私』が小学生の頃はゴムボールとプラバットで三角ベースをやっていたし、高校の体育でもソフトボールをしたことがある。

 加えて神子の身体能力で望めば、ソフトボール部――北部中には無いけど――並のプレーが可能だ。


 その日は一試合のみ。一人の出塁も許さず、六対〇で圧勝して一日目を終えた。時間短縮のため五回までとは言え、ノーヒットノーランだ。


 試合後は念入りに手を洗う。グローブに込められた青春の香りが、左手にも移っている。




 午後は三者面談だけど、長い生徒と短い生徒が混在だ。私とお母さんを含め、二組ぐらいずつが廊下の椅子に座っている。

 私の前の生徒も長い面談で、既に予定時間をオーバーしている。

 聞くともなく――聞かなくてもいいのに――教室内のやり取りを聞いてしまう。


『私』の頃とは違い、少子化と大学定員増で進学率は大きく上がっている。実際のところ、県立二番手グループからでも、地方の国立ぐらいなら十分手が届くようになっている。


 親世代――株価も偏差値もうなぎ登りだった時代――は、偏差値五十以下だと、特に理系は行くとこが無かったらしい。

 バブル末期は、十八歳人口が過去最大だった。一方、大学定員は進学希望者より少なく、進学率も三割を切っていた時代。

 今より、それこそ『私』の時代よりも厳しかったらしく、いわゆる駅弁ですら偏差値で五十台後半は当たり前、受験地域を選べるのは六十からというレベルだったそうだ。

 ところが、卒業する頃にはバブル崩壊で氷河期に突入。


 私たちの保護者世代で大学を出ている人は、そういう厳しさを経験しているだけに、子ども達に対する要求も高くなる。要するに、県立一番手グループ意外はあり得ない、という考え方だ。

 現在を知っている学校と保護者の温度差も大きい。勉強したくない子どもと親の温度差はもっと大きい。




 ようやく、私の番。

 と言っても、受験に関する限り、私には特に指導すべき項目は無いのだろう。簡単な挨拶の後、お褒めの言葉を頂き、この調子で学習を続けるようにという程度。精々が、私学も一応受験しておくようにとのこと。

 面談の時間よりも、待っている時間の方が長かった。


 お母さんには先に帰ってもらい、私は自習用に解放された理科室へ行った。由美香ちゃんと詩帆ちゃんがここに待っている。




 詩帆ちゃんも私と同様、特にややこしい話は無かったそうだ。当然だけど。

 由美香ちゃんは、市立高校や商業、工業のバスケットボール部、そしてなぜかハンドボール部からも声がかかっていたけれども、一般入試で県立二番手グループを受験することに決めたそうだ。

 学力的には、よほど失敗しない限り大丈夫だし、やはり大学進学を見据えての選択だ。この辺はお父さんの意向らしい。それでも、高校でもバスケは続けるとのこと。




「昌ちゃん、ソフトでピッチャーやったんだって? 経験でもあったの?」


「無いよ。

 クラスの女子がだれも引き受けないから、まぁいっかって。

 由美香ちゃんも、今年はバレーボールだって?」


「さすがにね、女バスの主将が、ってのはちょっとね」


「ソフトボールでも良かったんじゃない?」


「うーん。ルール知らないのよ。でも、詩帆ちゃんがソフトだよ」


「じゃ、明日当たったらよろしくね」


「昌ちゃん、加減してよね。すごいボール投げてたし、男子なんか昌ちゃんのこと、男子枠でもいいんじゃね、とか言ってたよ」


 純粋に、経験値という点ではそうかも知れない。


「昌クン、お待たせなのです」


 紬ちゃんが三者面談から戻ってきた。


「どうだった?」


「別に、コレと言って何もないのですよ。

 きっと、全員やらなきゃいけないから、話が長くなりそうな親と、短く済みそうなのを、かわりばんこに並べて時間調整しているのですよ」


 私たちは課題の確認をし、下校することに。




 翌日はソフトの決勝トーナメント。まずは四組と一試合、そして、二組と二年四組の勝者と決勝だ。


 このチームも、男子では野球部が三人とテニス部が一人、そしてなぜか松田君がいる。

 打席には男女が交互に来るが、テニス部はかすりもしない。女子は……、悪いけどあのスイングでは当たってもまともに飛ばないだろう。警戒すべきは三人の野球部だ。

 でも、野球のときとコースが違うので、初見では上手く打てない。三回までは全員打ち取った。でも、男子は振りのタイミング自体は合ってる。当たれば打ち返す力も十分だ。


 ここはコースを突かないと、と言いたいところだけど、私の場合、真ん中を狙ったのが良い感じにバラついているだけ。全力で投げたら、正直どこに行くかも分からない。


 四回に入って二対〇。打者が二巡目に入る。

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