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ひめみこ  作者: 転々
第十七章 中学校最後の半年
143/202

ステージ

 十月に入り、文化祭も十日後。クラス発表資料はほぼ完成し、残すは室内装飾のみ。一方、ステージ企画の練習も熱が入っている。


 ところが、練習に熱が入りすぎたのか、二人がステージから転落。一人は軽い捻挫で済んだけど、もう一人が骨折した。骨折自体は、(くるぶし)の剥離骨折と軽かったけど……、大事なかったとは言え、二人とも当日はステージに立つことができない。




 翌日、改めてホームルーム(学級会)でステージ企画を考えるが、あと十日足らずでは練習も出来ない。男子は練習期間の短さを気にするし、女子はこういう場面では空気の読み合いを始める。

 正直、面倒くさい。


 結局、その日は何も決められなかった。

 文化祭の実行委員はかなり苦しい状況だ。




「ステージ、どうなるですかね?」


「プログラムに穴を開けるわけにいかないよね」


「では、代わりに昌クンがダンスに参加するのです」


「一人は嫌だよ。踊るんだったら(つむぎ)ちゃんも一緒にしようよ。あるいは、演目を換えるとか」


 ニチアサ番組のエンディングを挙げた。

 去年の職業体験で、紬ちゃん、由美香(ゆみか)ちゃんと私の三人が保育園でやったら、園児たちにものすごくウケたんだよね。あれなら衣装もあるし。


「人数が足りないです」


「じゃぁ、募ったら?」


「昌クンと紬がやる時点で、ガチですよ。一緒にステージに立ちたいって女子が居るはず無いのですよ。

 あと一人女子を見つけて練習するぐらいなら、男子三人に女装させて笑いをとる方が簡単なのですよ」


 これもダメか。

 恵里奈ちゃんは、ステージの最中は保健委員として救護所に詰めているし……。




 更に翌日も『学級会』だ。

 女子の中には、カラオケが得意でそれを披露したいってのも居るはずなのに、自分からは言い出さない。

 やっぱり、面倒くさい。


「もし良ければ、私と紬ちゃんと一緒に……」


 例の企画を出してみたが、誰一人名乗りを上げない。かと言って、このダンスは二人じゃ様にならない。


 ところが、雲行きが怪しいことに……。私が言い出したばっかりに、私が何かする空気になっている。

 言い出すんじゃなかったと後悔するが、後の祭りだ。正直、実行委員の縋るような視線がキツい


 明後日、ステージでの練習順が回ってくるけど、それまでに決める必要がある。

 もう、仕方がない。とりあえず、他にやろうという人がいないか確認し、私が引き受けることに。

 でも、何をしよう? ソロで出来ること、ソロで出来ること……。もういいや、マイコーのモノマネだ。これなら『以前』忘年会の余興に練習したことがある。




 翌日の放課後、教室で練習(披露)すると、ムーンウォークのところで、男子が大喜び。そこだけ練習し出すおバカ男子が出る始末。やりたいなら、いくらでも代わってあげるんだけど。


「この曲なら、ヴォーカル無しのがあるけど、使う?」と音源を提供してくれたのは助かった。なんとか明日の練習に間に合う。




 体育館での練習は、やっておいて良かった。

 体育館の音響だと、ステージがスピーカからの距離もある上、反響してリズムを取りにくいのだ。歌もダンスも微妙に遅れる。

 モニタからワイヤレスで飛ばしたものなら合わせやすい。録画した映像を見ると、その差は一目瞭然だった。本番もこれで行こう。


 翌日のリハーサルは、実際に出演者が演じたりはしないけど、人や物の動きを本番さながらになぞる。中学生なのに、この辺は綿密だ。去年は何気なく見ていたけど、実行委員や生徒会執行部はここまでやっているんだなぁと感心させられる。




 いよいよ本番だ!

 当日は、途中からは控え室代わりの体育用具室にいたので、見られたのはブラスバンド部と一年生の演目だけ。二,三年生のは見られなかった。


 私のステージは、一般生徒の反応を見る限り、かなり良かったみたいだ。

 私自身はそれほど大柄じゃないし、バックダンサーもいないので、とにかく大きく派手に動くことを心がけたのが良かったのだろう。そして歌も本気の英語だ。




 拍手の中、舞台袖に戻る。一曲だけなのに、汗だくだ。

 動きを強調するために着けていた、少し丈の長いジャケットを脱ぐ。正直、今すぐシャワーを浴びて着替えたい。くっそー、水着を持ってくれば、プールの更衣室でシャワーを浴びられたのに。


 と、男性教諭――生徒会指導部の――が、慌てて私にジャケットを羽織らせる。

 汗でブラウスが貼り付いて、いろいろとアレな状態だった。

 だ、誰も見てないよね。


 その先生の指示で、実行委員の一人が養護教諭を呼んでくる。先生が養護教諭に二言三言。その計らいで、職員用のシャワーを使わせて貰えることに。ラッキー!




 少し(ぬる)めのシャワーで汗を流し、シャンプーとリンス。ドライヤーも使わせてもらう。下着も含めて着替えた後、更衣室で改めて洗顔し、化粧水を肌に馴染ませる。


 私は養護教諭にお礼を言って、体育館に戻った。

 が、ステージ企画は既に終了し、文化部や学級の展示企画に散らばるところだった。ステージ企画を仕切っていた生徒会執行部も、一つ肩の荷が下りたようで、すっきりとした表情だ。




 私の姿を認めたのか、紬ちゃんと由美香ちゃんが走ってきた。


「昌クン、すごいダンスで惚れ直したのですよ。練習なんて四日ぐらいしかできなかったですよね」


「あれはちょっと、素人のレベルじゃ無いよ。なにか本格的に練習してたの?」


『私』が忘年会のために一ヶ月ぐらい練習したのに加え、神子の身体能力だから、結構ズルなんだけど……。そんなことは言えないし。


「うーん。柔術のメンバーに、キックボクシングの経験者がいて、その人と練習したからかな?

 アップテンポの曲に合わせてシャドーするのは、ある意味ダンスの練習に近いし。

 実は、今日の曲も練習に使ってて、曲に合わせて踊ったりもしてたんだ」


「だから、土壇場(どたんば)でも引き受けたのですか」


「まぁ、そういうこと。ところで恵里奈(えりな)ちゃんは?」


「保健室ですよ。

 熱中症っぽいので調子が悪くなった一年生に付き添って」


「保健委員か。副委員長だもんね」


「昌ちゃん。お疲れ」


 今度は詩帆(しほ)ちゃんだ。ステージ前で、放送部の機材撤収の指示を出していたらしい。


「すごいステージだったね」


「結構頑張ったから、一曲でヘトヘトの汗だくだったよ」


 養護教諭にシャワーを使わせてもらったことも言うと、詩帆ちゃんも「それは助かるよね」と。




 さて、恵里奈ちゃんと合流して、いろいろ回ろう。

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