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ひめみこ  作者: 転々
第十六章 夏の騒動
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次席比売神子として

 新潟から転院してきた少女は、既に変容をほとんど終えて眠っている。

 その少女はもともと小柄で、『血の発現』による変容でも身長自体はほとんど変わらなかったけど……、それ以外が結構変わった。

 ここまで外見が変わると、やはり別人として生きざるを得ない。なんとかならないものだろうか?




「沙耶香さん、彼女の父親が国家公務員なんだから、どこかに異動させて、そこで『里親』になって貰うわけに行きませんか?」


「それが許されるのは、母親が神子だった場合だけよ」


「でも結局、里親にもある程度の事情を理解して貰った上で、神子として生きるのだから、同じでしょう?」


 沙耶香さんは、そのあたりの基準を変えることには慎重だ。


 しかし、この少女は別人として生きなくてはならず、両親も面会謝絶のまま別れ、亡骸(なきがら)の無い葬儀をすることになる。

 私の場合は、心理的なケアという意味があったにしても、変わりすぎたから家族として生きられた。

 でも、彼女の場合は……。

 それは、あまりに不憫だ。




 比売神子様も交えて話し合ったが、結論は出ない。


 でも、この基準の目的は、神子の情報漏洩を防ぐことなのだから、それさえ可能ならば良いのではないか?

 極端な話、情報漏洩には娘の社会的権利を脅かす可能性があること、個人の権利よりも情報漏洩の防止を優先することを示せば、家族も理解せざるを得ないだろう。

 家族が元神子なら可というのは、当事者で利害関係があるからだ。ならば利害関係に引き込んでしまえば条件を満たす。

 情報漏洩に対しても、私たちにはマスコミの抑えも可能で、国家権力を使うことも躊躇しないことを臭わせれば良いのではないか?

 実際、私たちの情報は写真も含め、ネット上からは『無かったこと』にされているのだ。


 私の言を請けて、今回に限り『特例』の範囲を拡げることとなった。父親が国家公務員ということで、我々が影響を及ぼし易いこともある。

 ただし、本人が意識を回復した後、別人として生きなくてはならないことを知らせた上で意思確認をする。その上で、本人が家族と暮らすことを望んだ場合に限り、この対応を採ることを確認して、話し合いは終わった。




 お盆休みを返上して、私と沙耶香さんが病院に詰める。待っている間は、ご両親にどう話をするか相談する。それも終わってしまえばヒマだ。

 高瀬先生にも部外者として意見を求めたところ「心情的には小畑さんに賛成したいが、非常に難しい判断と対応が必要になりそうだから、基準の変更には慎重であるべき」という答え。

 うーん。『大人』な意見だ。




 新たに神子となった少女――滝澤さん――が目を覚ましたのは二日後、私たちも少し()れてきた頃だった。


 看護師が病室から出て、入れ替わる様に沙耶香さんと私が入室する。沙耶香さんは濃紺のパンツスーツに白のブラウス。場所が場所なので、上着の代わりに白衣を羽織っている。こういう服装だと、沙耶香さんは新進気鋭の医師にも見える。

 私はというと、やはり白衣を羽織っている。その内側は中学校の制服だけど。


 少女は私に訝しげな視線を向ける。沙耶香さんはともかく、私は明らかに場違いだ。最近は意識しなくなってきたけど、純粋日本人には見えない姿だから当然か。




「初めまして、滝澤さん。

 私は竹内沙耶香、こちらは小畑昌と申します。


 私たちは『比売神子』と呼ばれ、古来からこの国にある、異能者の集団です。今日、貴女に会いに来たのは、貴女にもその資質があるからです」


 沙耶香さん、ド直球だ。しかも『異能者集団』なんて、中二病を(こじ)らせそうな表現。いいのかな?

 沙耶香さんは通り一遍に説明する。そして、別人として生きなくてはならないことを説明する際、本人を姿見の前に立たせるという演出。

 彼女は、鏡の中の、体型と体重のコンプレックスが消失した自身の姿に見入る。そして、ほっそりどころかげっそりした自分の頬にペタペタ触れた。


 一頻りの確認作業の後、沙耶香さんが今後について話すと、彼女は両親とともに暮らすことを希望した。




 予後の経過を診る必要があるということで、彼女を入院させたまま、今度はご両親に会いに行った。

 一人娘が、命に関わる感染症で面会謝絶状態ということになっているからか、二人とも憔悴(しょうすい)している。


 まず、沙耶香さんが『病院関係者』として挨拶し、彼女が別人になってしまっても一緒に暮らしたいかどうか、その意思を確認した。




 意思の確認後、私も交えて自己紹介と説明になるのだが、この衣装はちょっと……。時代がかっているというか。

 何に近いというと、やはり巫女の衣装。淡い浅葱色でやや細身の袴に、上は青みがかった白の薄衣を重ね着した感じ。

 変な装身具が無いのがせめてもだが、コスプレ感アリアリだ。ディズニープリンセスとどっちがマシだろう?


 私は微妙に『格』を放出しながら、ご両親と対峙する。

 計画通り、二人とも完全に気圧されている。公務員の夫とパートの妻という、ごく一般的な社会に身を置く夫婦だからか、私の外見と『格』には十二分な効果がある。


 クールに、静かに、ゆっくり、厳かに……、これらを心がけつつ話すものの、こんな衣装、要らなかったのでは? と思う。これではまるで私が筆頭みたいだ、と思っていたら、沙耶香さんが私のことを、本来筆頭にあるべきで、若すぎるから暫定で次席にしている、と紹介する。


 沙耶香さんが説明を続ける。『異能』のくだりでは、打ち合わせ通り、少し格を強める。と言っても出力は一割もいってないけど。


 予定通り、夫婦は家族が共に在ることを選んだ。でも、なんだか筆頭拝命に向けてどんどん外堀を埋められている気がする。




「沙耶香さん、こんな衣装、要らなかったと思うんですけど」


「一応、初めての挨拶だから、ちょっと仰々し過ぎるぐらいが良いかな? と思って」


「でも、ケレン味、効かせすぎですよ」


「次に会うときは学校の制服よ。社会的身分との対比を際立たせることも、情報漏洩防止の一環よ」


 はぁ。こんな会話、さっきのご両親には聞かせられないな。




 翌週、彼女は滝澤『真衣(まい)』から『(まい)』となった。

 お母さんが舞ちゃんを抱きしめて泣き、お父さんも傍で二人の背中をなでている。その姿に、私もホロリとさせられる。法的には里子でしかなくとも、家族で暮らせることは何事にも代えがたい。


 明後日、ご両親だけで帰宅し『娘』の葬儀を手配する。その後、お父さんは十月一日付けで、神奈川に異動となる運びだ。


 舞ちゃんは新たな戸籍を得た上で里子となるが、それまではお母さんとホテル住まい。新居が決まり次第、引っ越しとなる。一月ほど後には、家族揃っての新生活が始まる。




 うん。次席比売神子として、初めて仕事をした気分だ。

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