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ひめみこ  作者: 転々
第二章 退院に向けて
14/202

外出 その一

 私が着替えを終えると、程なく沙耶香(さやか)さんが来た。

 落ち着いた出で立ちだが、いつもは隠されているダイナマイツな感じが、今日は服の上からでも分かる。化粧もちょっと違うようだ。どこがどうとは上手く説明できないけど。


「今日は昌ちゃんに合わせて服を選んだのよ」


 合わせるという概念が解らない。

 私は(なぎさ)推薦の乙女なワンピースだが、これと落ち着いたスーツがどう合うのか分からない。これも理解していく必要があるのだろうか?

 昨日着ていたときにはあまり感じなかったが、やはり薄手のスカートはひらひらして頼りない。


「沙耶香さん、どうして私はスカートなんですか?」


「それが訓練になるからよ。

 資料では、貴女のような女の子は、自分の魅力に気付かなくて無防備になりがちなのよ。何かあったとき辛い思いをすることになるのは貴女自身だから、自分の外見を客観的に理解した上で行動できるようになる必要があるの」


「あの……、資料ってネット小説ですよね」


 沙耶香さんは胸を張って頷いた。あ、今たゆんと揺れた。でもそれ、胸を張るところじゃないと思う。

 テーブルの上のタブレットに目を遣る。沙耶香さんが暇つぶしにと貸してくれたものだ。いくつかブックマークがあり、一応は目を通したけど……。


「あれは、主人公が目立つほどの美人なのも含めて、話を面白くするというか、イベントを起こしやすくするためにそうしているだけだと思いますよ。

 私は自分のことをある程度客観的に見ることが出来ます」


「客観的に? それじゃ貴女、自分の外見はどうだと思ってるのかしら?」


「……自分で言うのもアレですけど、美少女と言っていいと思います。多分、男性の五人に一人ぐらいは二度見するぐらいの」


「甘いわね」


「……」


「とびきりの美少女よ。五人に一人どころじゃないわ。

 回り込んでもう一度見たくなるし、思わず服の中がどうなってるか想像するし、むしろ女の子でも貴女を見たら……」


「もういいです」


 だんだん露骨になりそうなので遮る。


「私の言い方が控えめ過ぎました。

 正直に言うと、私みたいな女の子を世の男性がどういう目で見ているか十分に分かっているので、こんな格好じゃ怖くて表を歩けないですよ。正直なところ、世の女性がどうしてあんな無防備でいられるのか不思議なくらいです。

 ……これ、決して自意識過剰じゃないと思いますよ」


「へぇ~。分かったようなこと言うじゃない。

 だ、か、ら、その格好で外に行くのよ。


 それに、目立つような美少女で、今はウィッグ着けてるけど本当は銀髪なんてテンプレ通りじゃない。小説だって十分参考になると思うわ。


 はい、それじゃぁお化粧しますよ。でも、今日は控えめにね。

 貴女、あんまり化粧映えしないから、結構大変なのよ」




 お化粧は昨日に比べるとあっさり終わった。顔に日焼け止めらしきものを塗って、薄くなった眉を描き足して、(まつげ)に何か粉をつけて……、五分もかからず完了。


 でも、化粧って本っ当に不思議だ。顔が少しずつ変わっていくのを見ていると、なんだか魔法にかかったように気持ちが上向いてくる。さっきまで頼りなく感じていたひらひらが、むしろしっくり来るようにさえ思う。

 あれ? 本当にどうなってるんだろう。まさかお化粧にヤバいものとか、混ざってないよね。


「昨日も思ったけど、貴女はお化粧するといい顔になるわね」


「そうでしょうか?

 でも言われてみれば確かに、気持ちの部分が変わるような気がします。それが表情に出るのかも知れません」


 沙耶香さんの方を見上げると、沙耶香さんもこちらを見てにっこり微笑んだ。


「やっぱり貴女は、笑顔でいるのが一番ね」


 療養棟から本館の待合室を抜ける間、何人もの視線を感じる。ほとんどの人が私をチラチラ見るのだ。どこか変なのかな? 横目で鏡を見る。見た限り変なところは無い。


「沙耶香さん、どこか変なとこ有りますか? さっきからほとんどの人が私を見るんですけど」


「別に、変じゃないわよ。とびきりの美少女が、如何にも美少女って空気を(まと)っていれば、つい見たくもなるわね。

 自分で言ってたじゃない、貴女みたいな女の子を周囲がどんな目で見ているか知ってるって。そういう視線に慣れるのも、訓練よ」


 知っていることと、その立場になることは違っている。小説の主人公が無防備なのはこういうことか。案外、小説のテンプレも参考になるもんだ。

 まてよ、こういうとき主人公が最初に連れて行かれるところの定番は……。


「あの、デートって仰ってましたけど、今日のプランはどのようなものでしょうか」


「まずは昨日までのおさらいね。女性としての所作が身についているかを、周囲の視線がある中で確認。ショッピングモールを散策します。

 次は、店員さんとの会話も必要なショッピングを行い、女性としてのコミュニケーションの練習と確認。

 最後は食事です。午後から検診があるので、かなり駆け足になるから、がんばるのよ」


 ショッピングって、やっぱりアレかな? アレだろうなぁ。


「ショッピングって、何か買うんですか?」


「私は別にこれと言ったものは無いけど、貴女の日用品は必要ね。どうせ新たな戸籍と口座ができ次第、支度金が入ってくるんだから、ぶぁーっと行きましょう。現金も五十万ぐらい持ってきてるし」


「豪儀ですね」


「小畑昌幸名義の預金から下ろしましたから」


「……どうやって?」


「奥様に許可をもらって」


「……」


「はい、車に乗って」


「あ、沙耶香さん仏車でしかもCC! 屋根開けましょうよ!」


「ダメよ。日に焼けるし、髪も傷むわ」


「じゃぁなんでこれ選んだんですか?」


「格好いいから」


 ……開けない屋根はただの屋根だ。


「なんか言った?」


「いえ、何も」


「じゃ、出発ーつ!」

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