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ひめみこ  作者: 転々
第十六章 夏の騒動
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登校日

 翌週の月曜は登校日。

 課題や宿題、そして受験勉強の進捗を確認したり。学校としては、意識を締め直したいってことだろうけど、一年でも一番暑い時期に登校日を設けるのはどうだろう?

 少しでも涼しいうちにと早めに家を出たが、暑いモノは暑い。学校に着いて自転車を停めると、とたんに汗が噴き出す。


 一旦教室に荷物を置いてから、校庭側の水道で顔を洗う。本当は頭から水をかぶりたいところだ。タオルで滴を取り、教室に戻って化粧水――これを予期して普段から持ち歩いている――を顔に馴染ませる。

 去年は、体育の授業後なんかに洗顔していると、一部の女子生徒からは「えっ?」という目で見られたものだが、最近は慣れたものだ。


「紬も顔、洗ってくるから、石けんと化粧水、分けてです~」


「いーよ。お肌に合うかどうかは保障できないけど」


「要は、乾きすぎなきゃいいのですよ」


 タオルを持って廊下へ向かう紬ちゃんを見送る。


「いいなぁ」


 恵里奈ちゃんがボソッとつぶやいた。


「何が?」


「昌ちゃんも紬ちゃんも、お化粧しなくてもカワイイし、肌もきれいだし」


 恵里奈ちゃんは薄化粧をしている。

 去年は気づかなかったけど、校内で私の洗顔でびっくりするのは、大抵化粧をしている子だ。でも中学生が、まして学校に化粧をしてくる必要は無いんだけどな。中にはこれでもかとファンデーションを厚盛りしてくる子もいる。

 先生も判っているのだろうけど……、注意することにも莫大なエネルギーが要る。夏休み中と言うことで大目に見ているのだろう。


「たかが、学校に来るのに、化粧なんて」


「それは、持てる者の余裕だよ。昌ちゃん、普段はどんな手入れしてるの?」


「うーん。乾燥させないことぐらいかなぁ」


「昌クン、ありがとうなのです。この石けん、ヒノキのいい香りがするですね」


「でしょ? 最近のお気に入り」


 戻ってきた紬ちゃんが、石けんと化粧水のビンを差し出す。私は石けんをケースごとジップロックに入れ、バッグにしまい込んだ。




「お肌はですね、何もしないのが一番なのですよ。とにかく刺激を与えない。日に当たらない、化粧しない、乾燥させない」


「でもさー、外に出るときは化粧も要るし、日にも当たるし」


 恵里奈ちゃん、外出は化粧が前提か。

 大人だったらそうかも知れないけど、中学生には……。


「だから、こんな日は家から出ずにじっとしているのが、お肌にもいいのですよ。登校日は美容の敵なのです」


「それって、紬ちゃんが家でぐうたら引きこもっていたいって願望なんじゃない?」


「その通りなのです。

 引きこもりこそ、お肌の健康に良いのです。

 さぁ、みんな、引きこもろう! なのです」


 確かに大きく間違ってはいなさそうなんだけど……、それを結論にするのはどうだろう?




「あ、忘れるとこだった。紬ちゃんにも、ハイ」


「おー。ディズニーだ。ありがとうなのです」


 紬ちゃんにもクッキーだ。でも私より小さい缶。これは黙っていよう。


「私も昨日クッキー食べたけど、美味しかったよ。ありがとう」


「よかったぁ!」


「でもね、それ見たらお母さんまで、ディズニー行きたいって言いだしてさ、昨日、旅行会社からパンフレット貰ってきてたよ。電車賃がかからないうちに、って」


 衣装のことは黙っておく。そういうのが大好きな人がいる。


 その後、お泊まり旅行が無事に終わったことの報告を、改めて恵里奈ちゃんの口から紬ちゃんに。


「ディズニーで知り合ったお姉さんに、いろいろ叱られちゃった。

 紬ちゃんにも心配かけてゴメンね」


「まぁ、何事も無くて、良かったのですよ」




 課題の進捗確認の後は英語と数学の補習。英語は学力別に分かれるので恵里奈ちゃんとは別の教室へ。

 移動した教室で、由美香ちゃんと詩帆ちゃんも合流。由美香ちゃんも、二年生以後は教科書の丸暗記で試験に臨んでいたので、英語だけは九割以上を安定して取れている。


 私から二人に、恵里奈ちゃんが無事だったことを報告した。

 そして、後から分かっても変なことにならないよう、恵里奈ちゃんを叱ったのが光紀さんだったことを話しておく。費用の出所は伏せてだけど。


「どうもね、恵里奈ちゃんが会った人ってのが、光紀さんらしいんだ。光紀さんも彼氏とディズニーに行ってたらしくて、偶然泊まりが同じホテルだったんだって。

 北部中の子と会ったけど、知ってる? って、電話で恵里奈ちゃんのこと訊かれて、びっくりしちゃったよ」


 光紀さんの印象は、三者三様だった。

 由美香ちゃんだけは少し接点があって、彼女には、面倒見が良くて優しい美人さんという印象を持っている。

 詩帆ちゃんは、単に高学歴で美人のお姉さん。確かに誰でも行ける大学じゃない。

 紬ちゃんは、ものすごく趣味が合いそうで、お友達になりたい人とのこと。

 由美香ちゃん以外は、駅で私をからかったとこしか見てないしね。


 大学の合気道部では男子を含めても一番の強さで、師範代すら相手にならない腕前だと言うと、詩帆ちゃんはものすごく驚いていた。逆に、由美香ちゃんはさもありなんといった表情。スポーツ女子として、なにか感じるところがあるらしい。




 英語の補習が終わり、次は数学。ここは変わった趣向で、基本は生徒が互いに教え合うのだ。


「教えるのは、面倒くさいのですよ」


「でも、人に教えると、自分の理解が浅いところや、曖昧だった部分が見えてくるから、それはそれでためになるよ」


「それはそうですけど、紬は昌クンから教えられたいのですよ」


「証明問題のところはそうする予定でしょ?

 連立方程式の所は、紬ちゃんも教える側!」




 実際のところ、証明問題は高校のそれよりとっつきにくい。

 純粋に慣れてないってこともあるけど、単に入試問題を解くだけなら、解法が類型化されている大学入試向けの方が楽なのだ。

 とりあえず問題文から、何を示したいのかと、そのために確かめるべき項目を明らかにする。結局、証明問題を解けるかどうかは、このステップが出来るかどうかだ。


 藤井先生――去年の担任の――が、感心したように私を見る。


「今すぐ教育実習しても『優』がつきそうね」


 私は「えへへ」と照れ笑いしたけど、実際『私』は数学ではないけど高校で実習経験がある。それに、社会人としてプレゼンの経験もあるし、詩帆ちゃんからはアナウンスの訓練も受けた。

 中学生のレベルじゃないことは確かだ。


 こうして七月末の登校日は終わった。




 盆前にもう一度登校日、そして八月末は自主――ということになっている――学習登校が数日。受験生らしい夏休みだ。


 一方、その間も比売神子としての活動は続く。

 盆前に新潟で『血の発現』を迎えた高校生がいて、沙耶香さんが走ることになった。その日の合宿は、私が仕切ることとなった。

 なかなか大変だ。

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