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ひめみこ  作者: 転々
第十六章 夏の騒動
136/202

結末

 光紀さん、そろそろかな? 新幹線の時間は、あと二十分弱。上手く出会えれば良いけど……。

 と、メールを着信。光紀さんだ


件名

 発見

本文

 対象を確認。これより接触を試みる。


 何と! 同じ新幹線だったようだ。でも、文が芝居(しばい)がかってる。

 何にせよ、同じ新幹線とは幸先がいい


件名

 Re:発見

本文

 怪しまれないようにね。


件名

 了解!

本文

 T/O(タイトル・オンリー)




 しばらくすると、メール着信。


件名

 順調

本文

 車両は号車違いだけど、行き先が同じディズニーランドであることも含め、私たちを印象づけることに成功。

 本格的な接触は、東京を出て、舞浜へ行く途中に。


 上手く接触できたみたいだ。

 どうやったか気になってメールで確認したところ、ホームで号車を間違えた体裁で、わざと恵里奈ちゃんの荷物を持ち、ディズニーに浮かれすぎてうっかりしたと謝ったとのこと。

 上手いなぁ。


 とりあえず、第一段階はクリア。

 東京駅以後は光紀さんを信じて待つしか無い。




 夕食後、光紀さんからメール。

 恵里奈ちゃんは光紀さんと、例のお高い部屋で宿泊らしい。こちらはセミダブルのベッドが二つだから広々だ。もっとも、大隈さんも一人(独り)でツインを占領だけど。


 光紀さんから着信だ。


「もしもーし。昌ちゃん。

 作戦は九分通り成功よ。恵里奈ちゃん、今は部屋のお風呂を使ってるとこ」


「ありがとうございます、光紀さん。

 でも、どうやってそう持って行ったんですか?」


「舞浜までの電車で、雑談しながら宿泊先が同じで盛り上がって。

 で、部屋のこと訊いたら、二人で一部屋。これに大げさに驚いて見せて……」


 大隈さんはもちろん、光紀さんも既に二十歳の大人。二人とも成人していて、互いに親公認のお付き合いではあるけど、別の部屋に宿泊することを話したそうだ。大人の節度だ。

 一方の恵里奈ちゃん達が、互いの家族も知らない関係で、まして未成年なのに同室は考えられないだろうと。


 二人に厳重注意した上で「知ってしまった以上、大人として放ってはおけません」と、恵里奈ちゃんを自分の部屋に連れてきたそうだ。


 予想外だったのは、恵里奈ちゃんが二学年偽ってつき合っていたこと。電車ではあえて突っ込まなかったけれど、部屋でその部分もきっちりと説教したそうだ。


「高校生って言ってたけど、本当は中学生でしょって、『格』を乗せて突っ込んだらあっさり白状したわ。会話のレベルで丸分かりですって言ってやったら、そこから先は素直なもんね」


「本当に、ありがとうございます」




「でも、昌ちゃんも軽率ね。あんなの渡すなんて」


「どうしようもなくなったら、せめて避妊だけでもって……」


「最悪の事態だけは防ぎたかったって気持ちは分かるけど……、女の側が事前にそれを準備するということは、合意があったと解釈されかねないわよ。

 少なくとも、同室での宿泊は断るという選択があるんだから」


「……」


「まぁ、この辺は情状を酌んで、不問としてあげるわ。隆さんと思わぬ旅行も出来たし。

 あの人、教員採用試験でずっとピリピリしてたし。一次が終わったところで、ちょうど息抜きができて良かったのも確かだから」


「怪我の功名ですか」


「そう。でも、受かるかどうかは五分五分かな。社会科系はどうしても倍率が高くなるし。

 県職員も受けたら? って言ってたんだけど」


「受かると良いですね」


「そうね。あ、恵里奈ちゃんが上がりそうだから切るわね。おやすみなさい」


「本当に、ありがとうございます。

 じゃ、おやすみなさい」


 ふう。これで一安心だ。光紀さんは本当に頼りになる。




 二日後の昼下がり、恵里奈ちゃんから電話があった。私の家までディズニーのお土産を持って来たいそうだ。


「こんにちは、昌ちゃん」


「こんにちは。ディズニー、楽しかった?」


「いろいろあったけど、楽しかった。これ、お土産」


 渡されたのは缶入りのクッキー。


「あと、コレも使わずに済んだ」


 恥ずかしそうに出したのは、未開封の〇・〇一ミリ。




「ありがとう、昌ちゃん。

 そして、ゴメン。すごく心配掛けてたって教えられた」


 大体は想像できるけど、恵里奈ちゃんの口から聞くことにした。


「行く途中にね、すっごい美人で、とっても優しくて、でも厳しい、素敵な女性(ひと)に会ったの」


 光紀さんだ。


「男女で旅行することの意味とか、大人のマナーとか、男女の責任の話とか、いろいろ話してくれて。

 本当は、お姉さんも彼氏さんと一緒に過ごしたかったはずなのに、私のために時間を使ってくれて、私のこと、本気で叱ってくれて」


 恵里奈ちゃんは感極まって目を潤ませ始める。


「あと、お友達にも、謝っておきなさいって。

 アレを渡したのは褒められたことじゃないけど、渡してくれた友達が、どれぐらい私のことを心配したか、どんな気持ちだったか、考えてみて、って。そこまで本気で心配してくれる人、なかなかいないよって。

 昌ちゃん。本当にごめんなさい」


「いいよ。分かってくれたら。

 それに、私の言い方も良くなかったし」


 しばらく、光紀さんの話を聞く。

 恵里奈ちゃんから聞く光紀さんは「それ、どこの誰?」ってぐらいになってる。確かに、才色兼備という言葉があれほど似合う人はそうそういないだろうけど、神子の合宿での光紀さんを知っていると、どうにも……。




「ところで、また、同じようなことがあっても……」


「うぅん。しばらくは無い」


「どうして?」


「結局、彼と別れたの。なんかね、冷めちゃった。

 実は、高校生ってウソついてつき合ってたの。

 お姉さんは正直に言いなさいって。けど、なかなか言い出せなくて。今朝、お姉さんが代わりに言ってくれたの。


 でもね、お姉さんが一時間で気づいたこと、彼は一ヶ月かかっても気づかないし、ディズニーでも、部屋に来るようしつこかったし。きっと、私の中身なんて、何も見てなかったんだなって。

 それに、帰りはあからさまに不機嫌だったし」


 それはそうだろう。

 そういうつもりでお金を掛けてセッティングしたのを、全てフイにされたんだから。


「前の私だったら、部屋に行っちゃったんだろうけど……。

 お姉さんに叱られたら、その上で彼のことよく見たら、なんだか下心が透けて見えちゃって」


 うん。でも、下心のない男性はまずいないと思うよ。


「それに、お姉さんと彼氏さんとの会話を聞いてたら、私が今まで彼としてたことって、すごくレベルが低かったって気づかされて、ああいうのが、大人の恋愛なんだろうなって。

 自分はまだまだ子どもだったんだなって」


「それが判っただけでも、大人になったんじゃない?」


「あー、昌ちゃん、偉そう」


「ゴメンゴメン」


「でも、本当にそう。私は子どもだった。

 昌ちゃん、ゴメンね」




 恵里奈ちゃんの後ろ姿を見送って思う。うーん、光紀さんにどうお礼をしたものか。


 それに私も、人のこと言えないんだよなぁ……。

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