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ひめみこ  作者: 転々
第十六章 夏の騒動
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対策

 翌日、終礼が終わると、恵里奈ちゃんは先に帰ってしまった。

 やっぱり怒ってる。


「朝からおかしかったですけど、昌クン、恵里奈ちゃんと何かあったですか?」


「ここでは話しづらいから、帰りに寄っていい?」


「昌クンなら、いつでもいいですよ」




 紬ちゃんの家まで、自転車を引いてついていく。いつもなら雑談だけど、私が黙っているからか、紬ちゃんもあえて話しかけてこない。家まで来ても「お帰りなさいませご主人様」はナシだ。


「それで、どうしたですか?」


 私は昨日の顛末を話した。


「昌クンらしからぬ下手を打ったですね」


「うん。でも、紬ちゃんはどう思う?」


「基本的には、昌クンに賛成ですけど、今からだと遅いですね」


「どうすれば良かったんだろう」


「昌クンは、恵里奈ちゃんに『()めて欲しい』『こうして欲しい』を全面に出し過ぎたですよ。

 こういうのは、相手に自分で選んだって思わせないと、他人がどうこう言っても無駄なのですよ」


「私の言い方が良くなかった?」


「良いか悪いかでなくて、恵里奈ちゃんがどう受け取るかです。そういう意味では失敗でした」


「どうしよう。このままだと、恵里奈ちゃん……」


「そうなると決まったわけでないですよ。本当に、宿泊だけで終わるかも知れないのです」


「でも、もしかしたら私のせいで……」


「昌クンのせいじゃないですよ。昌クンが言わなくても、恵里奈ちゃんは行ったのです。同じ結果だったですよ。

 昌クンは危険を予想して、友達として必要な忠告をした。

 けど、恵里奈ちゃんが容れなかった。

 そういうことですよ」


 紬ちゃんはかなり割り切った考え方だ。でも、私はここまで割り切れない。




「変な例えですけど、紬は小二でファーストキスしてるですけど、これはカウントに入るかどうか怪しいのです。

 でも、今キスすれば、それが初めてなら、二十年後の紬にとっても確実にファーストキスです。多分、恵里奈ちゃんでも同じですよ。


 小二のときと今が違うことが判るなら、もう子どもじゃないのです。あとは、行動のリスクをどう評価するかの問題なのですよ」


「紬ちゃんって、大人だね」


「本当の意味での大人ではないですけど、中三ならそれぐらいの判断できて当たり前なのです。来年には結婚できる歳なのですよ。

 だから昌クン、詩帆ちゃんにまで、恋愛に夢見過ぎって言われるのですよ」


 多分、紬ちゃんや詩帆ちゃんが特別だと思う。

 それとも、生粋の女の子なら、中学生でもそこまで考えられるのが普通なのかな? あるいは、私が中学生を、無意識のうちに子どもだと思っているのか……。




 家に帰ってからも考える。今からでも私に出来ること。

 そうだ! せっかく宿泊情報を押さえたんだ。


 ホテルに問い合わせし、二部屋押さえる。物理的に別の部屋を準備する。

 高い。特に残ってたうちの一部屋は、単なる宿泊としては考えられない値段だ。でも、迷う場面じゃない。軍資金はある。こんなときに使わないでいつ使う。




「もしもし、こんばんは、光紀さん。遅くに済みません」


「まだまだ宵の口よ。でも、昌ちゃんからなんて珍しいわね?

 もしかして恋愛相談かしら?」


「それとは少し違いますけど、光紀さん、ディズニーランド行きませんか?」


「何? 藪から棒に」


 私は経緯(いきさつ)を話した。


「申し訳ないですけど、こんなこと頼めるの、光紀さんしかいなくて。私が行くのはあからさまですし。

 一応、同じ宿で部屋を二つと新幹線も二席押さえました。新幹線は一本早いかも、ですけど」


「さすが、次席比売神子様。手回しがいい!」


「結果的にダメでも、純粋に大隈さんと楽しんで貰って構いません。多分、半分以上自分に対する言い訳ですから」


「そこまで言われちゃ、頑張らないわけに行かないわね。

 ここで退いたら女が廃るってもんよ!」


「ありがとうございます」


 きっと、光紀さんは最善を尽くしてくれる。




「あ、恋愛相談ではないですけど、女の人の恋愛観って……」


 紬ちゃんとのやり取りをかいつまんで話した。


「女の人って、中学生でもここまで割り切った考え方をするものでしょうか? 光紀さんはどうでした?」


「それは、人によるとしか……。

 私の場合は、神子という立場上禁じられていたから、考える必要が無かったというのが実際かしらね。

 その子とは話したこともないけど、聞く限りは頭が良くて精神年齢も高そうね。だから、自分を客観的に『子どもじゃない』って見られるんじゃないかしら」


「ですよね。皆が皆、そうじゃないですよね」


「こればかりは、人それぞれよ。

 ところで、昌ちゃん、その恵里奈ちゃんって子に随分入れ込んでるけど、どうしてかしら?」


「それは、友達だし。友達が間違えそうなときは、それを止めるのも大事だと思うし。

 失敗から学ぶにしても、今回はそれを授業料って思える範囲を超えかねないから」


「そうね、ゴメン。変なこと訊いちゃった」




 電話の後、修学旅行の写真をメールで送信した。

 大丈夫。光紀さんなら上手くやってくれる。


 私はもう一つ出来ることをするべく、恵里奈ちゃんに渡すものをバッグに忍ばせた。




 定期試験と模試は無事に終了。

 私と詩帆ちゃんはあまり変化せず。紬ちゃんは定期試験こそ十一位と振るわなかったけど、模試は詩帆ちゃんと同得点で四位。過去最高だ。

 由美香ちゃんは逆に、定期試験の二十六位に対して、模試は四十八位。この辺は部活を引退したばかりだから仕方がない。

 未だに気まずいままの恵里奈ちゃんの成績は、紬ちゃんを通じてだけど、定期試験は二十二位。模試は不明だ。

 でも、それなりに手応えは感じている様子。


 あれ以来ギクシャクしているけど、気持ちが上向いている様子だから、今日こそ声を掛けないと。




「恵里奈ちゃん、今日、午後、空いてる?」


「ゴメン。午後は、ちょっと用がある」


「じゃぁ、帰りに恵里奈ちゃんの家、寄らせて。五分で済むから。

 渡したいものがあるの。私は家に寄ってから行くから、先に帰って待ってて」


「だったら、私が昌ちゃん()に寄るよ」




「恵里奈ちゃん。これ、余計なお世話だってことは判ってるし、もしかしたら余計怒らせるかも知れないけど……」


「だから、何?」


 私はおずおずと小箱を取り出した。


「どうしてもって状況になったら、コレ、使って」


 未開封の〇・〇一ミリ。

 丸二年は経つけど、使用期限はまだのはず。


「恵里奈ちゃんが望んで受け容れるなら、私はそれについては何も言えないけど、子どもが出来ちゃったら、大変なのは恵里奈ちゃんの方だから。

 本当は、男の方が用意、すべきだと、思う、けど……」


 恵里奈ちゃんはその箱に顔を赤くする。私も感覚的に耳や首まで赤いに違いない。


「コレ、昌ちゃんが買ってきたの? 恥ずかしくなかった?」


「亡くなった父の部屋にあって。

 でも、使用期限も来てないし、未開封だから」


「使うような予定は無いって」


「でも、もしもってこともあるし、そうなったら拒否できないし。

 お願いだから、持って行って。本当は、そういう状況にならないのが一番だけど」


 恵里奈ちゃんはため息をついた。


「昌ちゃん、考えすぎ」


 そう言いながらも、恵里奈ちゃんは小箱をバッグにしまった。私の顔を立てたというところか。


 でも、その箱を恥ずかしそうに持つ恵里奈ちゃんを見たら、こっちも変な気持ちになってしまう。

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