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ひめみこ  作者: 転々
第十五章 二重生活
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応援

 通過儀礼を終えてしばらくは平穏な日々。でも、この週末は市の中学校の大会だ。

 私たちは、バスケットボールの試合を観に行く。もちろん、由美香ちゃんの応援だ。


 体育館に入ると、かなりの熱気だ。この暑さの中で試合はかなり大変だ。でも、緒戦は危なげない試合運びで勝ちをおさめる。

 素人目にも、由美香ちゃんの身体能力が、頭一つ以上抜けているのが判る。他のメンバーも他校の選手に比べて劣るわけではない。由美香ちゃんが一段高い所にいるから、そう見えるだけだ。

 チームの司令塔として、あるいは一番の得点源として、八面六臂の活躍を見せる。とくに、隙を突いて裏に回るのが抜群に上手い。これを警戒させて、別の選手にパスを通すのも上手い。


 それでも、三回戦は明らかに苦戦している。苦戦の原因は明らかで、チームの平均身長だ。

 由美香ちゃんは、女バスの中では二番目に長身だ。と言っても、一センチも差が無い。一方、相手チームの大半は、由美香ちゃんに近いかそれ以上の体格に見える。その体格差を運動量とジャンプ力で補うわけだけど、選手層は相手チームの方が厚い。きっと、由美香ちゃんが倍疲れるような試合だろう。

 それでも残り二分で、長身の二年生が放った三点シュートが偶然入って逆転。焦った相手の裏を突いて、由美香ちゃんがもう二点。その後二点返されたけど、終始攻め続けたことで、勝ち残った。


 明日は準決勝だ。残った四校は、北部中を除いてシードばかり。しかも、明日の初戦は第一シードだ。




 いつの間にか詩帆ちゃんも来ていた。


「あ、詩帆ちゃん。試合に夢中で気づかなかったよ」


「いーよ。でも、すごい試合だったね」


「由美香ちゃん、明日も勝てるといいね」


 由美香ちゃんも、観客席に私たちの姿を認めると、笑顔で手を振る。私たちも手を振り返した。

 部員はミーティングをしてから、バスで学校に帰る。私たちは一足先に帰ることにする。


 詩帆ちゃんは、県大会出場を逃していた。詩帆ちゃんが言うには、一年秋に県大会に行けたのはほとんど偶然で、二年は振るわずだし、原稿の質も問われるアナウンス部門で勝ち抜くのは難しいとか。

 表面上はサバサバしているように見える。まぁ、詩帆ちゃんは私たちの前で悔しさを見せるタイプでもないだろうけど。




 二日目の準決勝、観客席からでも、由美香ちゃんの入れ込みが判る。これに勝てば決勝だ。


 しかし、試合に入るとやはり相手が格上。常にエース級の選手が由美香ちゃんのマークにつき、他の選手もパスコースを塞ぐ。由美香ちゃんに司令塔としての仕事をさせない構えだ。

 他のメンバーも決して下手ではないけど、第一シードの選手と比べると、個人レベルでは見劣りする。何とか食らいついてはいるけど、徐々に差がついていく。


 突然、由美香ちゃんが不自然に転倒した。ベンチに戻る足取りは重い。明らかに左脚の動きがおかしい。

 ベンチの様子を見ると、どうやら脚がつったらしい。昨日の疲れに加えこの暑さ、更に地力で勝るチーム相手にこれだけやれば当然だ。

 とにかく怪我でなくてよかった。


 休憩を挟んで、由美香ちゃんはコートに復帰したものの、その動きは明らかに精彩を欠いている。そして、程なくもう一度転倒し、由美香ちゃんの試合はそこで終わった。

 司令塔を欠いたことで試合は一方的な展開となり、最終的には倍ほどの点差がついた。


 結局、この試合で勝った第一シードが、そのまま順当に優勝して、市の大会は終わった。

 閉会式での、遠目にも判る由美香ちゃんの泣き腫らした目元を見ると、その日は声をかけられなかった。




 明けて翌週はいつもの笑顔だ。


「応援に来てくれてありがとう。でもゴメンね。負けちゃったよ」


「試合は運もあるから、仕方ないよ。

 由美香ちゃんが一番頑張ってたのは見てて判ったし、大会出場選手でベストチーム作るなら、誰が作ったとしても由美香ちゃんを入れるよ。きっと」


 由美香ちゃんは、ちょっと表情を曇らせた。やっぱり一緒に練習したチームで勝ちたかったのだろう。でも、スタメンに二年生を入れなきゃいけないチームと、控えもほぼ全て三年で固められるチームとじゃ、地力に差があっても仕方がない。

 受け容れ難いけど、それが現実だ。


 私たちはそれぞれの教室に向かった。




「おはよー、昌クン」


「お早う、紬ちゃん」


「由美香ちゃんは残念だったですけど、あれは仕方ないですよ。選手層の厚さが違うですから。

 素人でも判るですよ」


「確かにそうだよね。でも、あの内容だったら、高校の部活からスカウト来るかもね」


「そうですよ。

 でも、昌クンがバスケ部入ってたら、優勝出来たかもですよ。去年の球技大会でも、由美香ちゃんと黄金ペアで三年生も圧倒してたですから」


「あれは、由美香ちゃんが上手くリードしてくれたからだよ」


「由美香ちゃんのリードに乗れるのは、バスケ部でもなかなか居ないのですよ」


「でも、私は、部活出来ないし」


 私は立場上、選手として活動できないし、そもそも戸籍の年齢も違う。誘われても応えられないし、その事情も話せない。


「まぁ、それは言っても仕方ないですね」


 とりあえず、部活を引退したら受験勉強だ。今は修学旅行が近いから教室も浮ついているけど、あと何週間かしたら、雰囲気が変わっていくに違いない。




 自主プランについては、ルートとシミュレーションを終えている。今は、見学先の歴史についてを調べ、どういう観点で見学するかをまとめる段階だ。


 修学旅行で一つ困るのが、最終日のUSJだけは私服可なこと。自主プランなどは、行き先が主に寺社仏閣なので制服ということだけど、最後だけが私服。地味に面倒くさい。私なんかは、ずっと制服で良いじゃない、と思ってしまう。

 この辺はまだまだ女子力不足だ。


 一応、ドレスコードはある。華美でないこと、露出が多すぎないことに加え、化粧やアクセサリーは原則禁止。サングラスも同様。帽子は可だけど、服と同様に華美なものは禁止。

 これを聞いたら、やっぱり制服でいいじゃないかと思う。確かに、アトラクションが多いところで、スカートってのは問題だろうし、体育のジャージは、宿泊先の部屋着になるからダメなんだけど。

 だったら初めから女子の制服はパンツを選べるようにしたり、キュロットでも、と関係ないことを考えてしまう。


「昌クン、どんな服を着るですか?」


「場所が場所だから、スカート系はダメだね。日差しも強いだろうから、下は七部丈のパンツ、上は長袖か五分袖のブラウスかな」


「やっぱり、その辺が無難ですね。TDLだったら、もうちょっと別の衣装もアリですけど」


「服じゃなくて『衣装』なんだ……」


 恵里奈ちゃんは紬ちゃんのことを少しは知っているけど、本当にディープな部分は知らない。状況が許せば嬉々として衣装を準備するだろう。私まで巻き込もうとするに違いない。


 私たちの班は、地味で無難な服になりそうだ。他の班はどうするのだろう。でも、USJか。テーマパークは生まれて初めてだ。楽しそうだったら、周や円を連れていきたいな。

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