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ひめみこ  作者: 転々
第十五章 二重生活
129/202

幕間 連休明け

 ゴールデンウィークも明けた。と言っても二日学校に出て、また土日。ここでも勉強会の予定。

 翌週と翌々週末は定期試験を挟むのに、送別会と通過儀礼だ。

 しかも、送別会は試験前なのに金曜もズル休みして滋賀県へ行くことになる。学校には、私の『検診』が金土に行われると連絡され、それが都合で中止になるという筋書きだ。




 例によって、五人が家に集まって勉強。私たちは授業でやっていないところも、高校受験用の参考書で進めている。

 その勉強法のおかげか、試験直前の一週間は濃い勉強になる。特に由美香ちゃんと恵里奈ちゃんは、ほぼ予習した状態で授業に臨むのは初めて。理解の深さがこれまでとは段違いだ。

 どこが解らないかを知って授業に臨み、授業後は三分復習。中学生レベルだと、この二つだけで学習効率が全く――それこそチート級に――違ってくるのだ。




 次の週末は聡子さんの送別会。送別会は特に何事も無く終了した。


 一日目のミホミュージアムは、平日とあってか私たちの貸し切り状態。それでも半日足らずで回ったせいか、消化不良なのに物足りない。二日目に持ってくるべき場所だった。

 意外だったのは、優奈さんの食いつき。建物とそこに至るまでの整備された庭園、そして古代エジプト関連の展示がツボに来たらしく、中間試験が終わったら個人的にもう一度、予定を組むとか。

 でも、車で行くならともかく、公共交通機関だと、最寄りの駅からでもバスで小一時間はかかりそうだ。どうするつもりだろう?


 今回の旅行で困ったのが食事。聡子さんの希望で、初日がしゃぶしゃぶ、二日目がステーキと近江牛づくし。

 個室だったしゃぶしゃぶは、こっそり冷酒を飲めたけど……、ステーキはホテルのレストランで、当然ながら周囲の目がある。しかも、私たちの外見は目立つ。部屋飲みまでは、アルコールは沙耶香さんと聡子さんだけ。

 とは言え、選べたのは主にビールとワイン。今の私はビールを飲めないし、ワインの味はもともと分からないから、別に悔しくはないですけど。


 ただ、二日連続の肉は、希望した聡子さんも食傷気味だったようで、三日目の昼は、焼き鯖の棒寿司を食べていた。

 石川で暮らしていたら、やっぱり魚だよね。あるいは鯖ということは、聡子さんが神子になる前は、福井あたりで暮らしていたのかも知れない。神子でなくなっても(さと)には戻れないから、せめて味覚だけでも郷土の、とかは私の考えすぎか?




 アウトレットモールは皆にもそれなりに好評だったけど、聡子さんと買ったのはお揃いのキーホルダーだけ。聡子さんも物欲が薄い方だ。服装もよく見ると質素だし。

 この辺は神子全般がそうだ。直子さんはわりとオシャレだけど、それ以外の神子達は里親への負担を考えるのか、質素な服を選んでいる。化粧もほとんどしないし、アクセサリーも最低限だ。変な比較になるけど、下着の質が明らかに私や沙耶香さんと違う。


 私に成人としての経験があるからかも知れないが、里親に対しては、もっと甘えても……、と思う。


 神子達は皆、才色兼備で持参金付きの里子だ。神子としての合宿をする以上、ある程度のことは話を通しているし、里親としての資質もかなり厳しく見られている。

 実際、聡子さんと、たしか直子さんの里親も、短期留学生のホストファミリーをしているし、優奈さんは実の息子よりかわいがられているらしい。千鶴さんなんか、里親の甥――義理の従兄弟――の嫁に来ないかと冗談半分に言われたそうだ。

 私が「冗談半分ってことは、半分は本気じゃない?」と言ったら「大学落ちたら、それも良いかな」と。結構大きな会社の跡取りらしい。


 次席という立場になったから、と言うより、比売神子という立場で別れを経験したからか、親元を離れて暮らし、ここでも別れを経験する彼女たちを、不憫に思ってしまう。


 比売神子は、過去には政治的に求められたかも知れない。あるいは権力者の側室候補という意味もあっただろう。

 しかし、少なくとも現代においては、社会的にも政治的にも、私たちの存在は不要だ。ならば、そのあり方も変えていくべきなのではないか?

 神子達のプライバシーとの兼ね合いは難しいだろうけど、そのあたりを変える必要があるように思う。


 現状維持か変えてしまうか、もし変えることになるなら、自分の代で筆頭という立場をなくすのが、比売神子としての私の仕事になるかも知れない。……ってのは、格好のつけすぎか。




 最近は、こういう思考に捕らわれてしまう。

 この場では送別会を楽しまなきゃ。それが聡子さんへの礼儀でもあるし、比売神子としての務めでもある。


 とは言え、アイドルそこのけの美貌の集団は目立つ。アウトレットでは周囲りからの視線がすごかった。金沢で光紀さんの送別会をしたときも、ここまで視線を集めることは無かったと思う。

 結局、買い物という雰囲気でも無いので、出る予定を早めてしまった。

 それに、聡子さんの場合はすぐ隣県にもアウトレットはあるから、車に乗ればすぐだ。免許も既に取得済みらしい。


 最後の別れ際も、光紀ちゃんのときほど湿っぽくならなかった。普通に大学の話もし「石川なら案内するよ」とか、ちょっと拙くないかなぁ。一応、接触は避けることになっているんだから。


 こうして、聡子さんとの最後の旅行は終わった。

 個人的には佐川美術館とか、延暦寺とか石山寺とか、そっちを回りたかったところだけど、これは個人的に行こう。今度は大津あたりで合宿というのも悪くない。




 明けて翌週、火・水の二日で中間テスト。

 一学期の中間試験は範囲も狭い。理科と社会は、高校受験を見込して一年生の範囲も入っていたけど、連休中からきっちりやった私たちに死角は無い。


 金曜には全ての試験結果が帰ってきた。

 私、詩帆ちゃん、紬ちゃんは、それぞれ学年で四位、五位、八位。恵里奈ちゃんも「こんなに試験勉強して臨んだのは初めて」の言葉通り、順位を一気に二十位上げて、十八位。由美香ちゃんだけは、あまり振るわず三十二位だった。

 由美香ちゃんの場合は、もうすぐ中学最後の大会がある。受験勉強は大会が終わってからだ。




 この日は急いで帰り、土日に向けて荷物をまとめる。土日は神戸だ。結構、忙しい。

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