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ひめみこ  作者: 転々
第十五章 二重生活
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商店街

 光紀さん達と別れ、ブラブラと街を歩く。無意識のうちに家電量販店に足が向いたのは『私』の習慣だ。もっとも、当時は家電量販店の中の、CDやゲームソフト売り場が目的だった。

 今ここに入ってしまったら、お昼を食べそびれてしまいそうだ。とは言え、どこで食べよう?

 女性一人だと食べ物屋には入りづらい。


 ご飯ものは全般に難しい。さりとて麺類はもっと難しい。喫茶店も微妙。せめて二人以上なら入りやすいのだけど……。

 女性の『お一人様』は、選択肢が狭い。青年向けの漫画で、女性一人が待ち合わせの(てい)で食事を、というシーンがあったのを思い出す。男性一人で居酒屋行く方が遙かに気楽だ。


 ベーカリーで惣菜パンでも買って、公園で食べるか……。


 この辺は、自動車に乗るようになってからは来なくなった。

 私は十数年前の記憶を頼りに路地を進んだが、お目当ての店は焼肉店になっていた。途中のゲームセンターも居酒屋に変わっている。

 十年もすれば店も換わるし、ゲームセンターも四半世紀前の対戦格闘ゲームでの盛り上がりが失われて久しい。その時代を懐かしく思い出すのは、四十代以上だけかも知れない。


 途中にパン屋さんでもあれば……と、私は駅の方へと足を進めた。

 結局、選んだ道が悪かったのか、パン屋さんも一人でも入れそうな店も無かった。コンビニというのも寂しいので、駅に近いデパ地下で惣菜パンを買うことに。

 さて、どこで食べようか……。駅の中や近辺は、案外と座れるところが無い。改札を抜ければベンチが一杯あるのに。


 結局、公園のベンチで食べるため、外へ向かう。

 確か、公園は……、と。

 入ると、そこそこ手入れされた植え込みはあるけど、遊具は無し。水道も無し。ベンチはあるけどゴミ箱も無し。時間帯のせいか、誰もいない。


 私はパンの紙袋を拡げてお尻の下に敷き、ベンチにかけると野菜サンドのパッケージを開いた。

 無人の公園で一人というのは、すごく寂しい。お一人様でもお店に入れば良かった。あるいはデリカテッセンのフードコート。今考えれば、選択肢はいくらでもあったのに。

 無人の公園で、一人食べている自分の姿を想像すると、どうにも具合が悪い。いたたまれなくなった私は、ゴボウサラダサンドをお茶で流し込むと、ゴミをまとめて公園を後にした。


 慌てて食べたという行為が、余計に私をわびしくさせる。女子が集団行動するのは、単にセキュリティ的な理由だけじゃないということを実感する。

 それを考えたら、普通に単独行動をとる紬ちゃんは、なかなかの豪傑だ。教室ではああいう雰囲気を出しているけど、本当は孤高を保てるだけの強さや自信があるんだろうな。




 途中、悪いなと思いながらコンビニのゴミ箱にゴミを捨てた。

 電気屋さんでも覗こうかな? あ、その前に靴を買わないと。修学旅行では結構歩く。早めに靴を準備して、ある程度足に馴染ませておく必要がある。


 靴屋を覗くと、女性用のウォーキングシューズの品揃えは今ひとつ。男性用は一万円弱から三万円前後までかなり充実しているのに、女性用は三千円から五千円程度が中心だ。服はともかく、靴は良いものを選ばないといけないのに。

 いろいろと見比べるが、全般に靴底が薄い。男性用のは底がしっかりしているのに、なぜだろう? こんなので長距離を歩いたら、足底筋膜炎になりそうだ。それとも、大きめの靴を選んで、安全靴に入れるような衝撃吸収の中敷きでも入れた方が良いのか?


 結局、良さそうなものが無かった。スポーツ店の方が品揃えが充実しているかも知れない。

 スポーツブランドだったら、駅前で選ぶよりも、国道沿いのショッピングモールか。あそこなら、無理すれば自転車でも行ける。

 せっかく街に出たのに、わびしい昼食以外に何の収穫も無く、電車で家に戻ることに。


 帰宅すると、既にお母さん達は遠足を終えていた。よほど疲れたのか、三人揃って昼寝をしている。ここでお母さんに車を出させるのは悪い。

 私は三人にタオルケットを掛けると、改めて自転車で出ることにした。




 スポーツ店は品揃えが違い、靴底が少し厚めのスニーカーもある。サイズ的には二十二・五でも入るけど、私の足は爪先の幅が広く、甲も高い。オシャレな靴が難しい足形なのだ。

 中敷きを先に買い、ハサミを借りて切る。これを持って靴選びだ。これなら、大きめな靴でも安定する。


 最終的に選んだのは、白黒ツートンで底が厚めのスニーカー。衝撃吸収が売りだ。結局、中敷きは無駄になった。

 本当はウォーキングシューズの方が、落ち着いた色合いのものがあるのだけど、なぜか爪先が細くなっている。形としては男性用の方がしっくりきそうだけど、こちらはサイズが二十四・五から。

 実用性を考えると、スニーカーかランニングシューズに落ち着くが、こちらは色合いが派手。制服で使うことを考えると、選択肢が狭くなる。

 どうして女性用の靴は、男性用に比べて実用性を低くするのだろう。間違いなく爪先に負担がかかるデザインばかりだ。

 いずれは私にもフォーマルな靴が必要になるだろうけど、そのときはオーダーメイドにする必要があるかも知れない。


 ついでにスポーツウェアも見るが、めぼしいものが無い。これは慌てなくてもいいから今度にしよう。とりあえず、アンダーウェアを何着か選んで、靴とともに会計する。




 店を出ると、日はかなり傾いている。急げば六時半ぐらいには家に着けるから、日没には間に合うだろう。一応、お母さんにはメールで現在地と帰宅予定時刻を知らせておく。

 最近、私のことを心配するのだ。四六時中では無いけど、ガードもついているんだから、そこまで心配しなくても良いのだけど……。


 私は家に向かって自転車をこいだ。

 普通の中高生は、買い物をどうしてるんだろう?

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