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ひめみこ  作者: 転々
第十五章 二重生活
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お弁当

 皆でお弁当を出した。と言っても、私は家にあるものを出すだけだ。調理自体は大したこと無いけど、弁当向けの献立を考えたり、何よりコンパクトに隙間無く詰めるという作業が難しい。

 冷蔵庫から常備菜を取り出すと、紬ちゃんが目を輝かせる。


「昌クン、電子レンジ使ってもいいですか?」


「いーよ。

『レンジ』押してから、出力と時間ね。

 あ、そうだ。卵巻きとか、がんもどきとか、いる?」


「欲しいです!」


 昨日のうちに段取りしておいた飛龍頭(がんもどき)の鍋を温める。

 平行して、丼で卵液を作る。味付けは砂糖とミツカン昆布つゆ、ふんわり仕上がるように牛乳も少し入れる。


 卵巻き用の角鍋に油を拡げ。暖まったところで火力は三、半個分の卵液を入れる。底の方に火が通ったら、固まった部分を隅に寄せ、固まりきらない卵液を均等に拡げる。

 卵液が再び固まり始めたら巻いていく。半熟のうちに巻いて内側はしっとりさせる。

 火力を二に落とし、改めて卵液を薄く入れる。既に巻いた卵の下にも卵液を巡らせ、同様に巻いていく。これを繰り返せば完成。

 オムレツとは違って、弱い火力で作る。


「おー。昌クン、箸だけで巻くなんて器用です」


「うちの角鍋は小さいから。

 卵三個分ぐらいいけるやつだったら、さすがにフライ返しが要るかな。本当は銅製の角鍋が欲しいんだけど、うちのIHじゃ使えないんだよね」


 そうこうしているうちに三つ目の卵巻きも完成。五等分してお皿に並べる。


「じゃぁみんなで」


「「「「「いただきまーす」」」」」


「こっちのサラダとかも、遠慮無く食べてね」


 どうしても、お弁当は野菜が不足しがちになるからね。


「卵巻きは、醤油?」


「あ、何もかけなくても、味はついてるよ。でも、これが結構合うんだ」


 私は、取り皿とともに、大根おろしドレッシングを出す。




 皆、まずは自分のお弁当に箸――由美香ちゃんだけフォーク――をつける。由美香ちゃんは、スポーツ女子だからか、タンパク質多めで量も多い。あ、ジャガイモにミートソースとチーズを乗せて焼いたの、美味しそう。弁当じゃなく、出来たてだったらなお美味しいに違いない。

 今度、周や円のお弁当に入れてやろう。


 詩帆ちゃんは無難な、というか、如何にも女子なお弁当。分量は少なめ、タンパク質も少なめ。肉は野菜に巻いたベーコンだけだ。野菜とフルーツ多めで油ものは無し。

 恵里奈ちゃんは、お惣菜的なのが多い。レンコンのきんぴらにヒジキの煮付け……常備菜で半分埋めて、ウインナーと冷食のフライを足した感じか。私の作り方に近い。


 紬ちゃんは……レンジで温めた匂いからも予想できてたけど、焼きそば弁当だ。どんだけ焼きそば好きなんだよ。焼きそばは中華風の塩焼きそばだけど、表面のテカり具合から言って、結構クドそうだ。

 しかもおにぎりと焼きそばなんて、炭水化物ばっかり。これであの体型は……、他の女子からズルいって思われていそうだ。




 由美香ちゃんが卵巻きを一口。笑顔がこぼれる。出来たてだからね。皆も冷めちゃう前に食べてね。

 恵里奈ちゃんはポテトサラダを小さな鉢に取った。


「あ、このポテトサラダ、手作り?」


「うん。電子レンジ頼りのお手軽無水調理」


 普通のレシピだと、信じられない分量のマヨネーズを使うから、ジャガイモの半量はサイの目に切ったままで、後から混ぜるのだ。

 代わりではないけど、みじん切りのタマネギをレンジで加熱して水分を少しとばし、常温で冷ましたのを練り込んである。

 他の野菜も、キュウリ以外は全てレンジで蒸し焼きだ。




 昼食の後片付けを終え、少し休んだ後は、勉強会午後の部。午後は英語と社会だ。

 英語は、中学校の定期試験レベルなら、教科書を丸暗記しておけば九割は堅い。丸暗記という言葉に恵里奈ちゃんはちょっと引き気味。でも、由美香ちゃんはこの効果を実感しているから、既に暗記作業は終わっている。


「恵里奈ちゃんも、丸暗記はお勧めだよ。私もこれをしだしたら、英語だけはいつも九十点以上取れるようになったし」


 由美香ちゃんも勧める。実際は、丸暗記と言っても意味を考えながら関連付けをするから、それ自体が勉強になるのだ。




 最後に公民分野を軽くおさらいしていると、着信音。見ると沙耶香さんだ。

 とりあえず持って廊下まで出る。


「沙耶香さん、こんな時間に珍しいですね」


「今、大丈夫?」


「大丈夫だから出たんですよ。戸を挟んで向こうには、学校の友達が四人、試験勉強してますけど」


「じゃぁ、手短に。

 来月、通過儀礼を神戸近くですることになったわ。詳しいことは後でメールするから、宿と足は自分で手配して。

 貴女は前日午後三時までに現地入りよ。行き帰りと宿は私とは別口になるから、そのつもりで。


 あと、聡子ちゃんの送別会は連休明けね。近江牛を食べたいんですって。あの辺で行くとこある?」


「定番は彦根城だけど、竜王にアウトレットもあるし……。車で足を伸ばすなら、ミホミュージアムもいいですよ。仏立像がいい顔してるんです」


「へぇ。ミホミュージアムは行ったことが無いけど。いいの?」


「好みは分かれますけど、主に古今の宗教芸術と、あとは建物がすごくいいです。一度しか行ったこと無いですけど、免許取ったら、また行きたいと思ってました」


「ふーん。こっちでも調べとくわ。聡子ちゃんも興味があればいいんだけど」


「主賓は聡子さんですもんね。沙耶香さんから訊いてもらっていいですか? 私は直接かけられないので。

 でも、光紀さんのときもそうでしたけど、私は試験前ですよ」


「中学校レベルだったら、試験勉強なんて要らないでしょ?」


「まぁ、そうですけど。

 あと、次からは、メールを送ってから「メールしました」で十分ですよ。分からなかったらコールバックするかメールしますので」


「じゃ、今度からはそうするわ」


 ふぅ、試験前は送別会、試験後は通過儀礼か。日曜が潰れるなぁ。




 ダイニングに戻ると、紬ちゃんがニヤニヤしている。


「昌クン、もしかして彼氏ですか? デートの約束ですか?」


「違うよ。柔術の先生から電話。集まりがあるんだけど、試験前と開けの土日だよ。二連続で週末が潰れちゃうよ」


「やっぱり、デートですね」


「だから違うって」


 私は着信履歴を見せる。『竹内さやかさん 看護師,柔術』の登録名。


「そうですか。昌クンは百合の住人なのですね」


「いや、だから、違うって」

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