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ひめみこ  作者: 転々
第十五章 二重生活
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中間テストに向けて

 中間テストに向けて、恒例の勉強会。

 どちらかと言うと、詩帆ちゃんと由美香ちゃんの希望だ。いつものメンバーに加えて、今回は恵里奈ちゃんも参加する。


「今回、数学は問題ないんだけど、理科がちょっとね」


 詩帆ちゃんは物理分野が苦手のようだ。そう言えば、去年もオームの法則にも何となく納得していないようだった。




「要するに、仕事とエネルギーは同じなのですよ」


 紬ちゃんが口を挟む。


「エネルギーが増えたら、仕事をされたということなのです」


 うん。その考え方で問題ない。


「じゃぁさ、これ、一問目は分かるんだけど、二問目がさ」


「あ、そこ、私も」


 おお、由美香ちゃんと詩帆ちゃんが同じ所で躓いている。珍しい。


「これは引っかけですね。物体の位置エネルギーが増えてないですから、ゼロですよ」


「じゃぁ、押すって仕事はどこに消えたの? 押した力×押した距離が仕事でしょ?」


「それは、昌クンどうぞなのです」


「結論から言うと、熱かな。

 ごりゅごりゅごりゅって押すときに力が要るのは、摩擦があるからだよね」


「昌クン、ごりゅごりゅって音は変です」


「まぁ、音は置いといて……

 摩擦が無ければ、風が吹いただけで滑るでしょ。だから、押す力は摩擦力に逆らって動かすために使われたとうわけ」


「摩擦熱になって消えちゃうから、仕事はされていないというわけね」


「うん、そういうこと。

 エネルギー自体は消えないけど、熱という形で拡散して、物体の位置エネルギーとしては残らない」


 中学校の範囲だと、位置エネルギーの変化とエネルギー保存で説明するしか無い。運動方程式は扱わないし、仕事の原理も概念としては学ぶけど、方程式で使うことがほとんど無いから、余計に混乱しそうだ。




 練習を続けていくと、もう一つのヤマ、動滑車の問題だ。


「これもさ、よく解らないんだよね」


「そうそう。授業では、何本で引っ張ってるから、何分の一の力とか言ってたですけど、たまに間違えるのです」


「あ、これね」


 動滑車も引っかけが多い。まず、一番簡単なパターンで、動滑車が一個の場合。


「これだったら、二本で吊ってるから半分でも正解になるけど、もう少し詳しく言うと……」


 荷物が動くためには、ロープが縮まないといけない。一メートル上げるために、ロープを引っ張る量に注目してもらう。


「恵里奈ちゃん、これ、一メートル上げるには、ロープは何メートル引っ張る必要がある?」


「えっ? えっと、二、メートル……、かな?」


「正解! で、ここからが大事なところ。

 同じ仕事のために、二倍引っ張るから、力は半分でいいんだよ」


「え、そんなの、習ってない」


「習ってるよ。さっきも、力×距離が仕事って言ってたじゃない」


 習ってるけど、こういう形で積極的には使わないんだよね。でも、それと知ってて使えるだけで、問題を解くのが簡単になる。


「あ、そうか。同じ仕事で距離が倍になるから、力は半分なんだ」


「おー、昌クン賢い!」


「いや。授業で一応は習ってるから」


 類題を探す。割と分かりやすいところでは、これか。

 ロープ――固定端――は一カ所で、定滑車と動滑車が沢山。


「複雑になるだけで、やることは一緒だよ」


 理屈が分かってしまえば、このレベルはスイスイだ。


「じゃ、次は一段階アップね。ロープが二本の場合」


 ロープの本数――固定端――が増えると、間違えやすくなる。




 二十分後、何となく、みんな解けるようになった。物理分野は、ほんのちょっとの理解の差が、モロに出てしまう。

 結構、濃い時間だったから、ここで休憩だ。




「これが学年順位一桁の勉強かぁ……」


 クッキーをかじりながら、恵里奈ちゃんがポツリと言う。


「昌ちゃんと紬ちゃんは別格だよ。私はここまで理解できてない」


 詩帆ちゃんが言うと、由美香ちゃんも続く。


「証明問題とか、授業だけで普通に理解できる方がすごいよ」


「何か、特別な勉強法でもあるの?」


 恵里奈ちゃんは興味(しき)りだけど、勉強に特別も何も無いんだけどな。『学問に王道無し』って言ったのは誰だっけ?


「紬は、真面目に授業を受けてるだけです。あとは、授業が終わったら、その時間にやったことを休み時間に思い出すだけです」


「あ、それは私もやってる。すぐに思い出す三分は、家に帰ってから三十分復習するより価値があるよね」


 私が言うと、由美香ちゃんも詩帆ちゃんも「えっ」という顔でこちらを見る。


「そういう秘訣があったんだ」


「一年のとき、担任の先生が言ってたですよ?」


「私は、お父さんから教わった。

 それに私、理系科目は中学の範囲は一通りやってるから」


 本当は高校どころか、物理と数学は大学レベルだけど


「「「「え?」」」」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


 全員固まった。やっちまった感じ?


「昌ちゃん、書斎にあった難しそうな本って、もしかして読んでるのかな?」


 詩帆ちゃんが恐る恐るな雰囲気で訊く。実際は半分も理解できてないけど、一通りは大学で勉強してるし。でも……。


「あ、あれはさすがにね。お父さんの、大学のときの教科書とか参考書だから。ほら、捨てるに忍びないっていうか。

 飾っておいたら格好いいかなー? なんて」


 ウソです。光紀さんのレポート解くために、数学ワンポイント双書からいろいろポチりました。こんなの、数学科の学生ぐらいしか買わないと思うけど……。多分、分野によっては学部生のレベルで理解してると思う。




 休憩後は数学。

 今回の試験範囲は、式の展開や因数分解。この辺は練習するしか無いから、あまり勉強会という雰囲気じゃ無い。それぞれが宿題を黙々と進める。この辺になると慣れの差か、詩帆ちゃんでも、私とは計算速度に差が出る。


「恵里奈ちゃん、もしかして、足してxの係数になる組み合わせをしらみつぶしにしてない?」


「え、そうだけど……」


「因数分解は、掛けて定数項になる数字に注目だよ」


「そうなの?」


「その方が、試す組み合わせが少なくなるから」


「あ、本当だ」


 由美香ちゃんも同じことをしていたみたいだ。授業では「掛けて○、足して△」という言い方はしていたけど、定数項に注目することは明確に言ってなかったかも。

 でも、詩帆ちゃんや紬ちゃんは普通に定数項に注目している。この辺の感覚は、勉強慣れしているかどうかなんだろうなぁ。




 課題もキリのいいところまで来たみたいだし、ここでお昼だ。

 一旦テーブルを片付け軽く拭くと、皆お弁当を出した。

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