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ひめみこ  作者: 転々
第十四章 新学期
120/202

自主プラン作成

 修学旅行に向けての学年集会が終わった。

 基本的には紬ちゃんから聞いた通りで、一日目は奈良に入り、東大寺の見学から。二日目は清水寺を見学してから自主プラン。三日目はUSJだ。


 ここからは班ごとに分かれてプラン作成、というより予備資料集めに入る。『私』の時代と違い、必要ならばネット環境も使えるので、(はかど)るに違いない。

 私たちと同じ班になる男子は、藤堂君、新田君、原君の三人。それぞれ、柔道部、野球部、野球部の脳筋揃いだ。ということは、私たちが主導してプラン作成になるのかな?


 机を寄せて三対三で向かい合う。合コンみたいだ。

 ここでちょっとした工夫。紬ちゃんと私が恵里奈ちゃんを挟むように座る。

 こうしないと、どうしても私と紬ちゃんとの会話が中心になってしまうからね。五十音順という理由で、無理にでも会話に巻き込むための配置だ。




 まずは、行きたいところ、興味あるところのリストアップ。と言っても、脳筋達が固有名詞で知っているところは限られる。

 出てくるところは、金閣寺、銀閣寺、京都タワー、大文字焼き。最後のは季節が違うから……。そして、漠然とした要望。


「鳥居が沢山並んでいるところ」――伏見稲荷だろう。

「竹林がある」――嵐山か? でもちょっと遠いぞ。

「石庭があるところ」――竜安寺かな?

「五重の塔」――メジャーなのは東寺か。

「天井に龍の絵」――えーと、どこだっけ? 検索だ。


 個人的には、詩仙堂と曼殊院は外したくないとこだけど……。いや、こういう所は自分で行けばいいか。




 清水寺スタートで、北野天満宮がゴール。ってことは、時間的にも豆腐屋でうどんというわけにはいかない。でも、発送の時間ぐらいはあるかな?

 公共交通機関で回ることを考えると難しい、地下鉄の路線から徒歩圏内は限られるし、バスは慣れてないと乗り継ぎが難しいだろう。

 いっそ、バンのタクシーを半日借り切って、それで回るのもアリか。いくらぐらいかかるんだろう。ネットで調べるが、金額は出てこない。


 いや、今はプランを決めるのではなく、候補地を選ぶところか。なるべく沢山リストアップして、地図上にプロットしていこう。絞り込みは次の段階だ。でも、私の行きたい所って、盆地の(へり)と言うか、行きづらいとこが多い。




 他の班に比べると、地図上のポイントは多い。この辺は『私』の知識だな。断片的な情報から、具体的に史跡を挙げるのは、普通の中学生には難しいだろう。


 更にお昼ご飯のスポットも探す。これも、中学生が行けるレベルとなると……、別に天一の総本店でラーメンでもいいんだけどね。詩仙堂からも近いし。あるいは、京都駅の地下街でファストフードでもいい。たしか、ウインナーなどの軽食(おつまみ)と生ビールのテイクアウトの店が……って、今はダメだ。


 行き当たりばったりでも、案外なんとかなるもんだ。と思うのは、成人の知識と十代としてはほぼ青天井の財布があるからか。

 でも、遠足とか旅行って、当日よりも準備しているときが楽しいんだよね。




 男子は花より団子の口で、ガイドブックのグルメ情報を見ている。あ、あの豆腐懐石美味しそうだ。でも予約が要りそうだし、金額的に中学生が行ける店じゃないな。いや、脳筋達は動物性タンパク一択か。


 自分で運転できれば、こういう計画も楽なんだけど……。中学生は運転も出来ないし、当然ながら呑むことも出来ない。修学旅行は縛りが多い。

 自主プラン中は制服だから、アルコールも買えないだろうし、我慢の旅行になりそうだ。と、全く関係ないことを考えてしまう。




 そうこうしているうちに本日は時間切れ。

 次はこの絞り込みや、史跡の歴史を調べたり、公共交通機関の繋がりを調べたり。そういった、教科書に載っていない内容を学ぶ、あるいは調べるのだろう。ここの部分では、私は一歩下がっておいた方が良さそうだ。


 給食時間も、親睦を深めるため、三人で机を寄せる。

 去年とは大違いだ。紬ちゃんと初めて話したのは、去年の今頃よりもちょっと前か。教室で孤立しかけていて、松田さんとやり合ったのが、随分前のことのように思われる。

 それに比べると、今年は随分スムーズな滑り出し。他の子のことを気にかける余裕がある。




 週が明けて水曜日、連休にはまだ一週間ほどあるけど、慣れてきたのか教室内も浮ついてきた。今日の午後も、自主プランの予備調査をする。

 ところが給食時間、恵里奈ちゃんの顔色が良くない。箸も進んでいないようだ。私と紬ちゃんとで保健室に連れていくと、微熱があったので、五時間目は休むことになった。




 五時間目は先週の続きで、自主プラン作成準備。

 前回の反省を活かし、今日は私物のウルトラブックを持ってきたのだ。学校のタブレットやスマホ――本当は禁止――などより快適な調査が出来る。大きくて解像度の高い画面を皆で見られるし、ブックマークの登録やローカルへの保存を出来るのが私物の強みだ。


 ただし、これ以外のときには、貴重品という体裁で職員室に預けておくことになっている。実はこのPC、アップデートに失敗し、しかも再セットアップメディアも無くて文鎮になっていたもの。

 無料のOSを入れて使えるようにしたけど、バッテリーも持たないので、無くなっても惜しくはないのだけどね。


 閑話休題。

 交通の便とかを調べて、ルートを作成するのだが……。男どもは真面目にやらない。熱心なのは食べ物屋の下調べだけで、ルートを考えるときも「二キロぐらいなら歩けばいい」という発想しかしない。

 自主プランのラストで二キロも歩くのか? 天満宮までは微妙に登り坂だから歩けば三十分ぐらいはかかるんだぞ。


 バスの乗り継ぎを考える。乗り換えが大変だし、案外タイムロスは大きいかも知れない。乗り換えポイントと見学地が一致するよういろいろ考えるが……、これはバス利用前提のモデルコースをベースにした方が早いかも知れない。


 結局、大した進展もなく時間切れ。メンバーが欠けた状態で決めるわけにもいかないけど。




 休み時間、紬ちゃんとともに、保健室に恵里奈ちゃんの様子を見に行く。


「お母さんが迎えに来てくれるって」


 というわけで、そのまま早退するとのこと。早退届は養護教諭が手続きをしてくれている。


「じゃぁ、教室から荷物取ってくるね。

 とりあえず、体育の服は絶対だけど、机の教科書とか以外に持ってくるものある?」


「ん。それで十分」


「では、急ぐですよ」


 ちょっと悪いな、と思いながらも、机の中のものをバッグに詰め、体育の服装とともに保健室に持って行く。

 漏れが無いか恵里奈ちゃんに確認してもらってるうちに六時間目が始まったが、この辺は授業担当に事情を説明すれば問題ない。何たって私たちは、二人揃って校内順位一桁の優等生だ。


 教室に戻ると既に授業中。


「すみません。同じ班の坂本さんが熱を出して早退することになったんです。それで、荷物を届けていて遅れました。

 これ、坂本さんの早退届です。坂本さんは、お母さんが車で迎えに来るそうです」


 下手に出て、かつ事務手続きの書類を渡す。学年五指に入る美貌の二人が上目遣いにしおらしく言うと、あっさり通る。

 先生は出席簿に早退届を挟むと、私たちに席に着くよう指示し、何事も無かったように授業を再開した。


 見るとも無く窓から外を眺めていると、軽自動車が一台出て行く。きっと恵里奈ちゃんとお母さんだろう。


 私はそれを見送り、意識を授業に戻した。

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