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ひめみこ  作者: 転々
第十四章 新学期
119/202

班分け

 身体計測、対面式を終え、毎年恒例の班分けだ。


 六月に予定されている修学旅行では、この班がそのまま自主プランのグループになる。その顔ぶれ如何(いかん)で、旅行の雰囲気も変わるから、皆それなりの心構えで臨むようだ。

 紬ちゃんと私は同じ班になるつもりだけど、もう一人はどうしよう。見知った、体育が同じだった女子は、それぞれで班をほぼ完成させている。

 紬ちゃんに心当たりが無ければ、あぶれちゃった子を入れることになるかな?




 紬ちゃんが側に来た。


「もう一人、どうするですかねぇ」


「うーん。私は心当たりが無いし、紬ちゃんが選んでくれればいいよ」


 そうこうしている間にも、班はボチボチ決まっていく。私たちを除いた四人から一人だ。あっちも、二人は仲よさそうだけど、もう一人をどうするかというところだろう。




「あの、私、一緒の班になっても、いいですか?」


 坂本恵里奈(えりな)さんだ。

 名前は洋風だけど、見た目は和風で儚げな、まぁ整った顔立ちの子だ。どこかで会った気がするけど、教室でも地味な感じで、憶えが無い。


「昌クンもいいですか?」


「あ、うん。いいよ」


 急に振られて首肯する。断る理由も無い。

 でも、どっかで会った気がするんだよなぁ。まぁいいか。話をしていくうちに分かるでしょ。




 その日は班分けだけで、男子班と女子班のペア作りは無かった。多分、メンバーのバランスを見て、後日改めてとなるのだろう。


 そして、修学旅行についての話もナシ。ところで、修学旅行はどこに行くんだろう? 定番は奈良京都で寺社仏閣巡り、広島で平和教育、首都圏で社会見学あたりがメジャーだけど。


「毎年、京都・奈良とUSJですよ。自主プランは、京都市内を回るか、奈良で自転車借りるパターンのどっちかですけど、最近は京都が多いみたいですね」


 私の質問に紬ちゃんが応えた。京都と奈良は地名なのにUSJだけは固有名詞なんだ……。でも、どうして知らないの? と言いたげな顔だ。いや、完全に意識の外にあっただけで。神子としてあちこち旅行するから、あまり考えてなかった。


 京都は何度か行ったけど、奈良は東大寺の大仏殿と興福寺の阿修羅像、あとは鹿ぐらいしか印象が無い。

 昌として行ったのは一昨年の京都だけで、USJは行ったことも無い。テーマパーク自体、行ったことが無いんだけどね。


「では、USJは紬に任せてなのです。その代わり、自主プランが京都だったら、いろいろお願いなのです」


「いーよ」




 その話を沙耶香さんにすると、懐かしそうだ。


「私も修学旅行は、中高と二回ずつ行ったけど……。

 中学は一回目が京都・奈良で、二回目は東京とTDLね。高校では、一回目は阿蘇山から長崎へ行ってフェリーで帰る流れ。二回目は沖縄まで飛行機で」


「いろいろですね。私は、二回とも京都・奈良みたいです。

 高校は秋芳洞から長崎へ行って自主プラン。そしてフェリーで帰るパターンでした。今回はどうなるか分からないですけど」


 でも、沙耶香さんは長崎ではハウステンボスにも行ったそうだ。最近の修学旅行は、テーマパークへ行くのが定番らしい。これが世代の違いというものか。


「でもね、最後のフェリーがね」


「フェリーも案外楽しかったですよ?」


「揺れるのよ」


「それは、船ですから。って、沙耶香さんって船酔いする方?」


「今は平気。でも血が出る前は弱かったから」


 うーん。今の沙耶香さんからは想像できない。




 年度が改まって初めての合宿。この四月から沙耶香さんが筆頭に、私が次席になることを皆に報告した。ただし、実際の動きはこれまで通りだ。


 新たに神子は二人加わったけど、岡山と宮城出身で、それぞれ神戸と宇都宮で中学二年生として再出発している。

 直接指導するのは高桑さんと宗像さんだから、私たちには合流しない。班を組み替えても良さそうだったけど、体制が変わったからなるべくそれ以外は変えない方針らしい。

 でも、神子の里親やバックストーリーの整備には、元神子の官僚が走り回ったのだろうな。いずれは、私もそれに参加するのだろう。


 私は高校を卒業するまでは、神子と同様に合宿に参加する。もちろん、比売神子としての沙耶香さんを補佐すると同時に、私自身も活動に参加することになるから、少し忙しくなる。

 それに、少なくとも武術の指導は出来るようにならないと。


「昌クン、給料上がるの?」


「さ、さぁ。まだ、次席としての給料ではないし……」


「残念。比売神子のお手当は平も次席も同じでーす」


 沙耶香さんが無情な事実を告げたところで、この話はお終い。




「ところで昌クン、私には何か一言、無いの?」


「あ、聡子さん。大学入学おめでとうございます。地元ですよね」


「そう。一応、医学部よ。作業療法士を目指すの。

 でも、通うのはきついから、大学近くに引っ越したけど」


「あれ? 聡子さんって理系でしたっけ?」


「あー! 数学は全範囲やってたでしょ! そりゃ、昌クンや光紀ちゃんとはレベルが違うけどさ。それでも、センターの数学は満点だったんだから」


「ゴメン、ゴメン。分かってますって。

 じゃぁ、次は比売神子の通過儀礼ですね。これからはボクも試験官ですよ」


「そうね。なれないとは思ってるけど、試験では全力以上出すつもりだから! 昌クン、そのときはお手柔らかにね」


「通過儀礼は、一応連休前に予定してるけど、とりあえず、昌ちゃんは、あと二・三年は見るだけね。昌ちゃんが本気で『格』をぶつけたら、現役の比売神子でも厳しいだろうから」


「え? そんなに?」


「昌ちゃんの本気がどれぐらいかは分からないけど……、分かる範囲で言うと、昌ちゃんを十としたら、前の比売神子様の全盛期で六ぐらい。私で五と六の間ってところでしょうか。通過儀礼のときも、昌ちゃん、比売神子様に合わせただけだったし」


「ホントに?」


「本当よ。

 ちなみに光紀ちゃんも通過儀礼の後、昌ちゃんの格を受けてみたけど、半分どころか三分の一ぐらいでギブアップしたわ」


「「えー」」


「だから昌ちゃんは、しばらくは見学ね。

 並の比売神子のレベルを知っとかないと、貴女じゃ全員落第にしてしまいそうだし」


 いやいやいや。ちゃんと沙耶香さんを基準にしますって。




 合宿も無事終了。皆を見送る。


「給料、上がらないんですね。いや、まぁ、今でも十分以上に貰ってますけど」


「額面は変わらないけど、次席になるといろいろ特典はあるわよ」


 沙耶香さんによると、本業の保障が篤いのだ。

 次席として他の比売神子とも会わなくてはいけないし、比売神子様の名代(みょうだい)として行動することもあるから、本業を犠牲にせざるを得ないからだ。

 私の場合は出席日数と単位ぐらいだけど、職業を持っていたら身分と休業の補償がある。それは、比売神子として休暇を取ったとしてもだ。

 更に、領収書があれば大抵の出費は活動費として落とせる。例の一千万越えの高級セダンや大型のバンも、所有権自体は国にあるものの、実質的には沙耶香さん専用だ。

 もちろん、沙耶香さんはその辺のケジメはしっかりしていて、普段は自分の財布で買ったカブリオレクーペだ。


 私も免許を取ったら何に乗ろうかな? 実用性だったらダントツでVWのEOSだけど、新車はもう国内では買えない。次点でISのCCか。いや、普段は普通のセダンかステーションワゴンで、お一人様用に軽登録できるフレイザークラブマンをチューンして……。


 いろいろと、夢が広がる。

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