表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひめみこ  作者: 転々
第十四章 新学期
118/202

身体計測

 役員が決まったところで身体計測。

 私の出席番号は二番。一番の伊藤真由美さんとペアになる。彼女は小柄で声も小さい。正直、新入生? といった初々しさがある。私たちは軽く挨拶を交わして測定に向かった。


 去年は、事前に体育の服装に着替えない理由に首をかしげていたけど、今なら分かる。内科検診のときは上半身の下着を着けないのだけど、その状態で、男子と同室の視力・聴力検査のスタンプラリーをさせるわけにいかないからだ。




 身長は百六十センチ。大台だ! この数値が公式記録として保存される。高校への資料の数字もこれだ。

 体重も大台突破の五十一キロ。これは骨格と筋肉で決まっちゃうから、気にしてない。

 神子は全般に体脂肪率が低めだけど、私は特に低い。沙耶香さんの指導で、十二%には届いているけど、せめて十五%まで増やした方が良いとのこと。血が出てすぐは「太るわよ」の心配だったのに。


 伊藤さんは百五十センチに微妙に届かなかったのが悔しそう。でも、私が慰めれば余計に傷つくに違いない。

 視力、聴力は問題なし。特に視力は、近視にならないよう気をつけている。


 内科検診に向けて体育の服に着替えると、背後から視線を感じる。伊藤さんだ。


「ん? 何?」


「細いなぁ、って」


「あぁ、うん。体重の割にね。去年もびっくりされたよ」


「どうしたら、こんな身体になれるんだろ。小畑さん、普段何かしてるの?」


 どうって……、合気柔術以外は、特に何かしているわけじゃないしなぁ。あ、あれかも。


「ゲームでボクササイズのと、輪っか持って走るやつ。

 あれを、毎日しているからかな?」


「毎日?」


「ほぼ、毎日」


 本当はどちらか一方だけで、呑む日はボクササイズで有酸素運動、呑まない日は輪っかで筋トレ。もちろんトレーニング後は三十分以内にタンパク質だ。

 始めは半引きこもり状態の運動不足解消に買ったんだけど……、意外とガチなフィットネスで、続けるためのモチベーションコントロールが上手い。老舗のゲームメーカーは、この辺の調整が抜群だ。


「私もやってみようかな」


「いいと思うよ。体重を落とすのと健康維持が目的なら、ボクササイズで有酸素運動だし、太りにくい身体を作るなら輪っかで筋トレがいいらしいよ。

 本当は、筋トレしてから有酸素運動というのが、一番効くらしいけどね」


「だから小畑さんはそういう身体なんだ……」


「そ、そうかも」


 すみません。本当はどちらか一方しかしてないし、しない日もあります。


 伊藤さんを見ると、下着を締め過ぎな気がする。特に上は一段緩めにして、幅の広いやつの方が良いと思う。

 背中から見える脇の肉がちょっと、……って、こんなことは直接言えないし。


「伊藤さん、体重は少なそうだし、筋トレで太りにくい身体を目指したらいいんじゃないかな。その方がバストアップ、ヒップアップだよ。

 それに基礎代謝を増やせば冷え性の予防になるし、お通じもよくなるみたいで、健康にもいいから」


「そうかな? 私も試してみようかな」


「何か始めてみるといいよ。お金をかけたら、元を取らなきゃって頑張るだろうし」


 伊藤さんの体つき、太っているとまではいかないけど、明らかに運動不足の身体だ。この状態で食事制限とかしたら、その後のリバウンドが激しそうだ。


「でも、筋トレすると体重が増えるって言うし……」


「体重は気にしなくていいよ。

 私なんかこう見えても五十キロ超えてて、多分クラスじゃ重い方だよ。でも、看護師からはもうちょっと増やすように言われてるくらいだから」


 クラスの女子の大半は、五十キロという『大台』を超えることを気にして食事を制限したりしてるけど、それこそ不毛だ。それをやるとリバウンドし易くなるし、何より健康に良くない。

 筋肉を増やせば基礎代謝も増える。数字は増量になっても結果としてスマートな見た目になるし、なにより健康にも良いはず。

 この辺、BMIの数字よりも、ぱっと見のバランスの方が、よっぽどアテになるのだ。


 内科検診も特に注意すべきことはナシ。これも、比売神子としての月次検診と同様だ。中学校を卒業したら、月次の項目のいくつかは三ヶ月毎になる予定。




 更衣室として準備された被服室に戻る。入り口から衝立(ついたて)がクランク状に設置されている。

 これは現生徒会執行部のお手柄だ。毎年、女子の着替えがボトルネックになる。もっとも、おしゃべりも原因だと思うけど。




 この校舎が出来た頃は、男子は技術、女子は家庭だったけど、現在は男女とも同じカリキュラムになっている。そのため、どうしても現状の被服室は手狭な上、ミシンの台数が足りなくなる。

 少子化で空き教室が増えたため、そこをリフォームして被服室にするのだが、せっかくある土禁の部屋を遊ばせるぐらいならと、生徒会執行部が働きかけてくれた。

 最終的には体育館に近いここが正式な女子更衣室になる。


 そもそも、体育館に併設された更衣室は狭すぎるのだ。最低二クラスの女子が同時に使うし、授業が連続する場合だってある。どうせなら、どこかの空き教室を暫定の更衣室にしてくれればいいのに。


 男子は教室でそのまま着替えているけど……、本来は男子更衣室も整備するべきだと思う。この辺、まだまだ意識が遅れている。と言うより、実際のところは、単に予算が無いから、声が大きいところを優先しているだけだろう。




 更衣室はこれから体育の服装に着替える女子がたくさんだ。

 例によっておしゃべりが姦しい。「朝食抜いてきた」とか「水分を控えた」とか、確かに今日の数字が公式記録として残るから、気持ちは分からないでもないけど……。


「おー、昌クン。身長どうだった?」


「百六十の大台に乗ったよー」


「体重は?」


「五十一キロ」


 その瞬間、周りの視線が集中する。多分、ぱっと見の体重はもっと軽そうに見えてたんだろう。


「やっぱり、筋肉質だと重いですね。紬と二キロ違いますよ」


 紬ちゃんも四十キロ台死守の構えか。私より背が少し高いんだけどな。それでも、見かけの割に体重はある。私ほどじゃないけど、女子の中では筋肉質なのだ。この辺は神子の血だ。脱いだ姿は、少年誌のグラビアに出ても違和感が無いだろう。


「いつ見ても、凄い背筋です」


 私がスポブラを着けていると、紬ちゃんが声をかけてきた。いや、皮下脂肪が薄いだけです。


「ダブル・バイ・セプス!」


 紬ちゃんの言葉に乗っかって、背中の筋肉を見せびらかす。

 とは言え、私はインナーマッスルこそ結構発達しているけど、外から見える部分は大したことがない。腕や肩はむしろ貧相だし、腹筋も割れてはいない。

 それでも、ここまで背中から脇腹の筋肉がくっきり出るのは珍しいのか、視線が集中する。




 その後、クラスの女子から『小畑昌は脱いだら凄い』という評価がついたが……、これを聞いた男子は、絶対違うことを想像していると思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ