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ひめみこ  作者: 転々
第十四章 新学期
117/202

新学期

 年度も改まり、中学校も最後の一年だ。

 由美香ちゃんや詩帆ちゃんとは別のクラスになってしまったけど、紬ちゃんは同じクラスだ。私と一緒に試験勉強をするようになって、紬ちゃんの成績が一桁に入ったから、ペアにしておくことにしたのかも知れない。どうせなら他の二人も一緒にしてくれれば良かったのに。


 三年生ともなると受験に向けた参考書が配布される。三年間の内容を受験向けに整理して、問題集も兼ねて一冊にまとめたものが、各教科一冊ずつだ。

 これを見て懐かしいという感慨を持ってしまうのは『昌幸』の知識だ。大半の生徒はこの厚みに「うっげぇ」となっている。紬ちゃんも積んだ高さに引き気味だ。でも、この程度でビビってたら高校ではチビるぞ。




 初日は入学式と自己紹介、簡単なオリエンテーションでお終い。担任は樫藤(かしふじ)先生。樹木二文字なんて珍しい名字。ちょっと気難しそうな見た目の、社会科の先生だ。

 私たちの自己紹介は通り一遍。結構、知らない顔もいる。昨年度、体育が一緒だった女子は分かるけど、三分の一ぐらいは知らない顔だ。でも、どこか見覚えのある女子が一人。去年の社会見学で、夕食に後れてきた坂本さんだ。


 オリエンテーションでは志望校調査票が配られたが……、実業高校以外は成績で輪切りになるんだからあまり意味は無いだろう。

 大学の附属高校は別格だけど、所謂(いわゆる)合格ラインは、普通科トップグループの公立、私立の特進クラス、公立二番手グループ、私立一般クラスと続き、これに被る形で実業系、その下にも普通科が来る感じだ。

『私』が中学生だった頃とほぼ同じ序列だが、高専のレベルが高くなり、普通科の層が薄くなっている。この辺は少子化と大学の定員増が効いているのだろう。


 実際のところ、進路希望調査には意味が無い。実業系を志望するならともかく、普通科は成績で選ぶしか無いのだ。一応、保護者と相談してという書類なので持ち帰るけど、私も紬ちゃんも詩帆ちゃんも同じ高校を書くだろう。附属は遠いし。

 由美香ちゃんは……、成績から言って県立二番手か、女子校から共学になった市立(いちりつ)高校。案外、推薦で早々に市立って可能性も大かな。




 去年は読み流していた年間行事を見る。大きく違うのは、六月の修学旅行と二、三月の高校入試関連ぐらいか。

 部活動をやっている生徒は市の総体、勝ち抜けば県大会。人によっては、体育祭の応援合戦に力が入るところだけど、私には直接関係ない。

 でも、今年は由美香ちゃんも最後の大会だし、詩帆ちゃんも放送コンクールに出る予定だ。

 私も部活動はちょっとやってみたかったけど、そもそも神子は公式戦に出ること自体憚られるし、特に私は年齢を偽っている設定だから、参加すること自体が話をややこしくするだろう。




 翌日は一年前と同じく、身体計測と委員決め。二時間目の途中までは二年生が計測なので、委員決めが先だ。

 昨年に続いて図書委員をと思っていたら、あっさり他の子にとられちゃった。うーん。しかも、三年次は委員会の定員が大幅増になっているので、せずには済まない。

 体育と応援・美化・園芸は絶対避けるべきだから……。よし、如何にも不人気そうな学習委員にしておこう。定員が男女各三名と、去年より増えているのは、提出物が増えているからだろう。でも、三年の教室は職員室と同じ階だから、去年ほど大変じゃないはず。


 例によって、運動部顧問が一本釣りをかけていた体育委員からすんなり決まる。応援も同様。この辺は体育祭が関係しているのだろうか。

 私がとりあえず学習委員に手を挙げると、紬ちゃんも手を挙げた。二人決定。その後、何故か男子の立候補が重なり、じゃんけんをすることに。

 まぁ、気持ちは理解できる。私たち二人の見た目は、学年で五指に入る(男子有志による調査及び投票の結果)。そんな女子のノートの束を持ってあげるとか、要するに下心とか、見栄とか、スケベ根性とか……。そういう動機だろう。

 いつの間にかもう一人の女子、松本綾乃(あやの)さん。いかにも地味な、眼鏡の少女。でも、眼鏡をやめて髪を下ろしたら雰囲気が変わりそう。化粧映えしそうな顔立ちだ。

 松本さんは、既に学習委員が確定した山下君をチラチラ見ている。ここにも人間模様が……。


「あんなチラ見じゃなくて、好き好き光線を出さないと、男は気づかないですよ」


 紬ちゃんは人の悪い表情で囁いた。でも『好き好き光線』か、表情の悪さに合わない表現だ。『私』の知識なら、単に『色目』って言いそうだけど、言い方一つで印象が変わる。


「そういうことは、なかなか出来ないと思うよ。

 ネタにされたら恥ずかしいもん」


「女子はほとんど、気づいてるですよ。知らないのは男子だけです。

 どうせバレてるですから、今更ですよ」


 こういう機微や感受性は、性差が大きいのも確かだ。

『私』の記憶を辿ると、同窓会で初めて知った想いという、甘酸っぱい、と言うより甘塩っぱくて苦い思い出もある。


 でも、あぁそうか。今の私は初見でもそれに気づけるのか。


「まぁ、秘めた想いを胸に抱いて、ってのも悪くないと思うよ」


「昌クンは、やっぱり恋愛に夢見てるですね」


 私って、そんなに夢みがちに見えるのかな? この辺が理解できない。女子としてはまだまだなのか、それとも伸びしろと見た方がいいのか……。




 今年は会長や代議員もすんなり決まった。もしかして入試に向けた調査書の評価を気にしているのだろうか? でも、あんなの生徒会執行部の役員でもない限り、大した評価にならないと思う。

 私だったら、学祭の実行委員とか、部活動のマネージャとか、そういう立場で頑張れた人の方を評価したくなる。

 結局、社会に出て役に立つ、あるいは人を引っ張っていけるのは、単に勉強できるだけの人より、花見の幹事をできるような人なのだ。私がそうじゃないから、余計そういう人に対する憧れがあるのかも知れないけど。




 階段の方が騒がしくなってきた。身体計測は、そろそろ三年生の番だろうか。

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