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ひめみこ  作者: 転々
第十三章 心の確認
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バレンタイン

 二月に入ると、イベントがやってくる。言わずと知れた『バレンタイン』

 最近は女の子同士の友チョコが主だけど、少年誌少女誌問わず、マンガで現代もの、特に学校が舞台だったりすると、このイベントが題材になったエピソードが入る。

 中学生だった『昌幸』には縁の無い話だったけど、それなりにそわそわしていた記憶がある。初めから貰えないと思っていても気になるもの。そして予想が当たったらやっぱり少し落ち込むものだ。


 バレンタインはどうしよう? 友チョコの段取りした方がいいのかな? お母さんに訊くと「今頃?」という返事。手作りするつもりなら、道具はともかく材料は二月に入る前にそろえておかないと、めぼしいものは売り切れてしまうと言う。

 ここで出遅れるのは、うーん女子力不足だろうか? 単純に経験不足か。いろいろと初めてだし。


 そもそも、チョコってどうやって作るんだろう? 市販の板チョコを湯煎で溶かして、型に入れればいいのかな?

 困ったときのインターネット頼み。無難なのはパウダーをまぶした生チョコか、混ぜ物を固めるクランチあたり。トリュフというのも捨てがたい。

 材料を押さえておく。お菓子は作ったことが無い。レシピを崩すのは上級者向けらしいから、まずはレシピ通りに作るのが良いだろう。そして、アレンジの試作と本番用を考えると、なかなか要りそうだ。あと、慶一さんにリングのお礼も。




 いつものショッピングセンターで大人買いをする。重量がかさむのは分かっていたから、ベビーカーを持参だ。大きい車輪三つで動作も軽く、ブレーキも付いているので買い物には重宝している。ただし、往路は円を乗せて行かないと変だけど。

 生クリームだけは日持ちしないので一パックだけど、それ以外の材料は満載で帰路につく。




「貴女、何人分作る気?」


 お母さんが呆れ顔で訊く。練習用と、アレンジ試作用と、本番用であることを言うと、更に呆れた顔。


「で、本番以外は作った後、誰が食べるの? 生クリームなんか入れたら、再利用できないわよ」


 あ、そうだ。作った後は美味しく頂かないといけないけど、スタッフが少ない。お母さんは正月明け以後カロリーを控えているし、周や円にこんな量を食べさせるわけにいかない。




「というワケなんだよ。皆で処理できる?」


「どのくらい買ったですか?」


「結構たくさん……。練習用と、試作用と、本番用と。あと、試作検討は何回か出来るように……」


「いくらかかった?」


「そーれーはー、訊かんといてー!」


 詩帆ちゃんの指摘に、私は頭を抱える。その日の私は金銭感覚がちょっとおかしくなってたかも。


 検討の結果「クラス全員に配りましょう」ということになった。結局、配るための袋も百円ショップで買うことに。これについては、由美香ちゃん、詩帆ちゃん、紬ちゃんが出してくれたのが、ちょっと負い目だ。

 作る期日は二月十一日に。バレンタインには前倒しになるけど、翌十二日早朝に持って行く。

 意外にも、詩帆ちゃんと紬ちゃんは昨年にも手作りしているらしく、ぶっつけで十分とのこと。でも、私は一応予行演習しておく。無様なところを見せられないし、用具の確認も重要だ。




 ネットで再びレシピを検索。あ、プリン美味しそう。牛乳寒もいいな。果物の缶詰あたりと一緒に……って、お菓子って、尋常じゃない量の砂糖を使うんだなぁ。

 寄り道しつつレシピを発見。まずはレシピ通りに制作だ。


 結論から言うと、レシピ通りに完成。可も無く不可も無く。全体に甘みが強いけど、今更チョコの生地は変えられない。周りにまぶすココアパウダーや、クランチならナッツやクルミの量で調整するしかなさそうだ。甘さ控えめのチョコ+ドライフルーツで作った方が美味しい気がするけど……、お菓子は途中の味見や調整が難しいから、今年はやめておこう。

 でも、ここまで手間をかけてこの程度なら、普通に通販した方がいい気がする。

 そして、大変だったのが後始末。植物油や魚の脂と違って、常温では溶け切らないから、用具を洗うのが大変だ。

 これ、このまま食洗機に入れても、落ちないだろうなぁ。もしかして冷やしてから剥がした方が良いのだろうか?




 生クリームが意外と余ってしまったので、夕食の材料に使う。お手軽にグラタンだ。

 ジャガイモ、ニンジン、タマネギを切ってレンジで下ごしらえ。マカロニも茹でておく。マッシュルーム代わりの椎茸も準備。

 そうそう。椎茸は買ってきたのを軽く洗って切った後、生のまま冷凍しておくのだ。すると、なんと言うことでしょう! 戻したときには干し椎茸のようにエキスが凝縮されるのに、食感はほとんど損なわれない。コレ、豆ね。


 刻んだベーコンと下ごしらえした野菜をたっぷりのバターで炒める。そこに小麦粉を入れて更に炒める。本当は別鍋で小麦粉をバターで炒め、牛乳を……ってのが正式なのだろうけど、面倒くさいからこうするのだ。具と一緒に炒めると、何故か小麦粉がダマにならないので楽チン。そして牛乳を少しずつ加えて、ホワイトソースもどきを作る。

 ここに、コンソメ代わりのタマネギスープの素を入れて、お菓子作りで余った生クリームも投入。味見をすると、うーん塩気が足りないかな? 塩コショウで味を調える。


 耐熱皿にホワイトソースもどきとマカロニ、そして彩りに、茹でたブロッコリとホウレンソウを入れ、チーズ代わりにパン粉をかける。あとはオーブンで焦げ目をつけるだけ。

 やってみれば分かるけど、グラタンは出来合のを使っても自前で作っても、手間はほとんど変わらないのだ。




 夕食時、周も円も始めて見る料理にビミョーな表情。

 シチューとかは食べたことあるはずなんだけど。周が――少し警戒しながら――グラタンを一口。そこから先はなかなかのペースで食べる。

 円もそれを見て安心したのか、一口含む。二人とも美味しそうだ。そりゃそうだろう。バターと生クリームをこれでもかと使ってある。


「お姉ちゃん。また、白いおうどん作って!」


 うん。また作ってあげるよ。でも、これはマカロニグラタンって言うんだよ。


 これ以後、月に一、二度は『白いおうどん』を作ることに。




 十一日、皆で集まってチョコ作り。結局、作るのはトリュフとクランチ。トリュフは未挑戦だけど、途中までは生チョコ風と同じだし、お団子にしてココアパウダーをつけるだけ。

 ただ、分量が多いので、湯煎にかける行程は何度かに分けてだ。


 苦戦の結果、クラス+バスケ部・放送部・家庭科部の人数に余裕を持って完成! 学校に一番近い紬ちゃんの家に持って行く。

 詩帆ちゃんが放送室に置いておくことを提案したけど、休日に学校に持って行くのはちょっとアレなので、明日は朝一、由美香ちゃん・紬ちゃん・私の三人で手分けして持って行くのだ。




 翌日、誰も居ない教室で、全員の机にチョコの包みを入れる。ついでに授業担当の先生方にも、職員朝礼の前にチョコを持っていく。

 貰えなかった先生は残念そうだけど、そこまで準備していなかったのだ。大人なのだから、仲良く分けて下さい。


 今回のチョコは概ね好評。他の女子から抜け駆けや良い格好をしたと思われないか心配になったが、それは杞憂に終わった。メンバーに由美香ちゃんと詩帆ちゃんが居たからと、明らかに義理チョコだからだろう。




 そして私は、今夜もう一度チョコを作る。リングのお礼には些少だけど。

 コレって、客観的には本命に見えるのかな?

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