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ひめみこ  作者: 転々
第十三章 心の確認
112/202

初詣

「開けましておめでとう」


「今年もよろしく」


 時報とともに挨拶を交わし合う。例の四人で待ち合わせて初詣。今年もいい年になるといいな。


 そのまま初詣の列に混ざる。

 一昨日まで、詩帆ちゃんは来られないと言っていたけど、急遽(きゅうきょ)お父さんの車で来ることに。お父さんはお父さんで、私たちとは別口で初詣らしい。さすがに女子中学生四人に囲まれてってのは気兼ねする様だ。


 二礼二拍手の後、祈る。友達と待ち合わせて初詣なんて『私』の中学生時代には無かった。こんな素敵な人たちと巡り合わせてくれ、友情を結ぶことが出来たことに感謝する。

 来年も同じように挨拶と感謝をできたらいいな。いや、来年はここじゃなくて天満宮かな? 修学旅行でも北野天満宮を参ってくるだろう。神子としての合宿であちこち巡るから、その土地土地の天満宮を回るのも悪くない。いや、お参りのハシゴは良くないって言っていた人もいたような……。


 お参りの後はすぐ帰路につく。夜も遅い――朝も早いか――。風邪をひいても良くないから、すぐに帰宅する。

 詩帆ちゃんのお父さんが車で送ろうかと言うが、私たちは自転車だ。それに新年早々足代わりも気が引ける。


「昌クンは初売り、いくですか?」


「どうかなぁ? 私はあまり行く気は無いけど、お母さんが私を着せ替え人形にしたがるから、二日は付き合うことになってる。

 で、その日はお母さんの実家に泊まりで、四日はこの寒いのに柔術の寒稽古だよ。絶対、健康に悪い」


「正月早々、忙しいね。

 でも、お母さんの気持ちもちょっと分かる気がするかな。だって、昌ちゃんなら、私たちじゃちょっと勇気が要る服でも着こなせそうだもん」


「けど、この髪じゃ制服とかは逆に似合わないし、結構困るんだよね。アニメとかだったら、髪の色がピンクとかでも、普通に見えるのに」


「それは、制服のデザインが古いからですよ。ブレザーとかだったら違うですよ」


「でもさ、普通に大学行くこと考えたら、高校はほぼ一択だし。そこは昔ながらのセーラーだし」


 自転車を()いて由美香ちゃんの家まで。「良いお年を、じゃなくて、また学校でね」と、別れる。そして途中で紬ちゃんとも別れ、自転車をこいだ。




 帰宅後、三人に無事帰宅したことをメールで知らせる。

 由美香ちゃんも夏前にスマホを持つようになった。三年生が引退して、女バスの主将になったからだ。そのおかげで、こうしてメール連絡をできる。

 でも私たちの連絡はSNSを使っていない。使い出したらキリが無いということもあるけど、未だにガラケーの私に合わせてくれているだけだ。


 程なく三人から返信があり、安心して床につく。

 思えば去年は激動の一年間だった。去年の初詣を随分昔のことに感じるってことは、とても濃い一年間だったということ。私の心のあり方も一年前とは全く違うし、ある意味二度目の人生を駆け足でいく様なものだ。




 一夜明けて、家族であけましておめでとう。やっぱり日の光の下の方が、新年って感じがする。

 円は第二子の女児としては言葉が遅かったけど、一度話すようになったら、一気に語彙も増えた。滑舌はむしろ周よりきれいで、なんとも愛らしい声で挨拶をする。




 御神酒とともにおせちと雑煮を食べた後は、例年通り、町内の神社へ。


「昌は何を祈ったの?」


「去年と同じ。皆が元気に生きられることへの感謝。

 そう言うお母さんは?」


「去年と同じよ。子宝!」


「だから、それは早いって」


「確かにちょっと早いかしらね。

 でも『素敵な女の子になって』の部分は順調に叶いつつあるし、『素敵な恋』も、もしかしたら始まってるんじゃないかしらぁ?」


「まだ、分からないよ」


 アレがそうなのかも分からないし。

 でも、あのリングの件、どうしよう。明らかに高価なものだろう。お母さんには知られてないと思うけど、慶一さんがどこまで本気なのか分からないんだよね。中学生の私に本気になるとも思えないし。


「後から考えたら、あれが恋の始まりだった、ってこともあるかもよ」


「まだ、始まってないよ。って言うより、女性としての恋が、どんなのかも分からないし……」




 家に帰ると、例によって年賀状の仕分け。お母さんはほとんど変わらないけど、私はまるっきり変わった。

 とりあえず、いまのとこ来ているのは例の三人で、新たに同じ班になったメンバーとは遣り取りがない。

 あ、光紀さんからも来てる。毛筆で宛名なんて凄いなぁ。こういうのがさらさらっと書けるって羨ましい。私も書道、習おうかな? 毛筆で記帳なんて出来ると、すごく格好いいし。

 出来る人に言わせると、毛筆の方が楽なんだそうだ。単純に筆圧が要らないので、年賀状のように大量に宛名を書くときに便利だと言う。


 枚数が多いお母さんは、細切れの時間に一週間近くかけて宛名書きをしていたけど、私自身は枚数が少ないから、冬休みもギリギリになってクリスマスソングを聞きながらだ。

 そうだ、クリスマスと言えば、光紀さんはやっぱり二人で……。別に妬いたりはしないし羨ましいとも思わないけど、なんか気になる。って、欲求不満なのかな?




 仕分けを続けていると、私宛の賀状がもう一枚。表側も毛筆だけで、謹賀新年と挨拶……って、慶一さんからだ! 慌てて友達の賀状の間に挟み、何事も無かったように仕分けを続ける。

 お母さんは……、友達からの賀状の写真を見ている。うん。バレてない。

 私はそのまま、何食わぬ顔で仕分けを続けた。


 一通り仕分けを終えたので、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに年賀状を持って行く体で、リビングを出た。各々にはがきの束を渡し、渡り廊下で慶一さんからのはがきを見る。

 やはり直筆だった。二十代で毛筆のはがきをさらっと書けるなんて、こいつは絶対に悪い男だ。普通の男はこんなことしない。

 でも、返事どうするかな。コレ、発表した全メンバーに送ってたならいいけど、私だけだったらどうしよう? かといって、こんなこと由美香ちゃん達には聞けないし……。




 結局、メールで返事を送ることに。


題名

 明けましておめでとうございます


本文

 賀状をありがとうございます。それは、同じ班の私以外にも送られたのでしょうか? 今回は私が見つけたのですが、家族が先に見つけたら、もしそれが私宛だけだった場合、いろいろ問題が発生するかと思います。班の皆に送られたのなら良いのですが、軽々しく確認できません。



 程なく返事があった。


Re:明けましておめでとうございます


 心配してくれてありがとう。年賀状は、君たちの班を含め、工場を題材にレポートしてくれた全員に加え、担当職員にも送っていますのでご安心を。一昨年も同じことをしました。全て直筆はなかなか大変です。

 昌さんにだけは、来年も送りたいところですが。



 だから、私だけだったらいろいろ問題だって言ってるのに……。


Re:明けましておめでとうございます


 冗談でも、私にだけというのはやめて下さい。先のメールの通り、いろいろと問題が発生します。どうしてもというのであれば、メールにてお送り下さいますよう。



 暫くして返信があったが、とりあえず無視して、新年の番組を見るともなく見ていた。夕食前に思い出し、一読して返信。


Re:明けましておめでとうございます


 返事が遅れて済みません。

 明日は母と神社にお参り。その足で母の実家に行って泊まります。その日か翌日のいずれか(あるいは両日)に初売りへ行きます。翌、四日は柔術の寒稽古(稽古始め)です。



 五日は普通に仕事始めになるよね。この兄ちゃん、どこまで本気なんだろう? でも、賀状の返事は書いておかなきゃ!

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